年月を経るごとに味わい深く。FORAGE細谷さんにインタビュー【THE HANDMADE HUB】
こんにちは、CAT+v編集部です。
ハンドメイド作家さまにインタビューしていく新企画『THE HANDMADE HUB』。
記念すべき第一弾は、主にシルバーを使用したジュエリーを制作されているFORAGE(フォーエイジ)細谷さん。
ジュエリー制作をはじめたきっかけや、制作についての裏話など、たっぷりお話を伺いました!
「つくるっていいなぁ」モノづくりの『おもしろさ』を実感したジュエリー制作との出会い
――――ジュエリー作家として活動をされている細谷さん。
ジュエリーに興味を持ったきっかけはなんですか?
細谷さん(以下、敬称略):小さい頃からモノづくりというか、手仕事に就きたいな、と思ってはいました。とはいえ、高校あたりではまだ固まっていなくて。ジュエリーにも、そのときはあまり興味がありませんでした。
そもそも、進路をどうするかっていうときは整体師になろうと思っていて。
――――整体師ですか!?
細谷:高校一年生のときにバスケ部に入っていたんですけれども、両足のじん帯が切れちゃって。ずっとリハビリをしていたんです。そのときにお世話になった先生に憧れていて。
そのタイミングで父が突然、モノづくりというか、ジュエリーだったり、レザーワークだったり、いろんな手仕事が載っている雑誌を買ってきてくれたんです。
その雑誌を読んで、ジュエリーの専門学校があるということを知って。実際に学校に見学に行ってみて、ワークショップというか、指輪づくりをやったんです。
そこで、「つくるっていいなぁ。おもしろいなぁ」と思ったのがきっかけですね。
――――なるほど。
小さい頃からモノづくりや手仕事に興味があったということですが、絵を描いたりとか、そういったことは何かされていたんですか?
細谷:学校の授業ぐらいですね。
そんなに得意というわけではなかったので。単純に「おもしろいなぁ」という。それだけです。
そうだなぁ……たぶん、一番最初は刀鍛冶になりたかったんですよね。
――――刀鍛冶!最近、鬼滅の刃でもやってましたね。
細谷:かっこいいなぁっていう憧れがありました。
あと、父親が刃物をやってたのも関係あるのかな。
父が包丁の研師をしていたんですけど、家の刃物を研いだり、そういうのを見ていて。
自分、高校生のときに寿司屋でバイトしていたんですけど、寿司職人さんの刃物は自分が持って帰って、父が研いでいたんです。父は包丁などの調理器具を販売する会社に勤めていたので、包丁も売ってて。で、その包丁自体は包丁をつくる職人さんがつくっていたんですが、バイト先で買ってもらったりもしていましたね。
うーん……そういうのもちょっと関係あるのかもしれないですね。
――――お父さまもご自分で何かをつくりたくてモノづくりの雑誌を購入されたんですかね?
細谷:たぶん……。
父も、刃物とか、つくることに興味があったのかな……。
京都にずっといたので、何かの職人さんが周りにいたのかな、とは思います。
調理器具なんで、雪平鍋(ゆきひらなべ)とか。あれって槌目(つちめ)が打ってあるじゃないですか。自分も最初は単純にそういうのが「かっこいいな」、というところから入って。ちょっとずつ興味が湧きました。
どっちかっていうとジュエリーより工芸、伝統工芸の方が興味があったんです。
――――金属加工とかですか?
細谷:そうですそうです。
その、父が買ってきてくれた雑誌にネイティブアメリカンのジュエリー制作を学ぶっていうジュエリーの専門学校の記事があって。
高校の先生に相談したんですけれども、うちの学校は進学率が低くて。就職が基本だったんで、ちょっといろいろ調べてもらったんです。そしたら、その雑誌に載っていた専門学校に「メタルクラフトコースっていうのがあるぞ」、と。
――――それで見学に行ってみて、実際に制作してみたり、技術に触れてみたと。
細谷:最初に行ったときは、指輪づくりを体験して。銀線とかを丸めてロウ付けして指輪をつくったんですよ。2回目に行ったときは、ワックスを使って原型をつくって鋳造してもらって。実際にジュエリーを制作する過程を経験させてもらった、というか。
実際に幼少期から憧れていた職人さんに近いことをさせてもらえたんです。
今までそういう経験ができる場所がなかったんで、「おもしろいな、いいな」って思って、入学を決めました。
ブランド名、FORAGE(フォーエイジ)に込めた想い
――――現在、FORAGEというブランドでジュエリー作家をされている細谷さん。
改めてブランドのコンセプトやブランド名に込めた想いについてお伺いさせてください。
細谷:FORAGE(フォーエイジ)ってForge(フォージ)とAge(エイジ)の英単語の組み合わせでできた造語なんです。
Forgeには、鍛造(たんぞう:金属を叩いてカタチにすること)。鍛えてつくる、という意味があって、Ageは時間や年代という意味があって。
自分がつくっているものは、すべて地金(じがね:金属の素材そのものを固めたもの)を鍛えて加工して制作しています。なので、ここがForgeにあたる部分ですね。
そして、Ageには、出来上がった作品を身に着けた人が、自分で育てていく、経年変化させていくっていう意味を込めています。
――――言いやすいですし、とても素敵なブランド名です!
ジュエリー制作としてはポピュラーなロストワックス(ワックス(ろう)を使用した鋳造方法の一種)という技法もありますが、鍛造を選ばれた理由は何かありますか?
細谷:ロストワックスって、原型をワックスでつくって、地金とは別の、もうちょっと加工しやすい素材でやるじゃないですか。それはちょっと、自分には合わなかったというか。
地金を削って叩く方がおもしろいし、「自分に合っているな」、と思ったんですよね。
――――金属を叩いたり、のばしたりするんですよね。
なんだかすごくハードワークなイメージがあります。
細谷:そうですね。叩いたり、のばしたりします。
でも、工具だったり、自分の手以外のものも使ってできるので。そこまでハードではないかな。
――――ブランド名のAge(エイジ)の部分には、使用してくださる人に育ててもらう、という意味があるんですね。
レザーの小物は経年変化で味が出てくると聞きますが、金属はどのように変わっていくのでしょうか?
細谷:自分は主にシルバーを使用しているのですが、ちょっと黒っぽく色が変わっていくんですよ。普通の人からすると、もしかしたら磨かれたものが汚れていくと思われてしまう方もいるかもしれません。ですが、シルバーにとっては、黒くなっていくのが自然なこと。自分はそこに味があるな、という魅力を感じています。
――――オリジナリティが出て、年月が経つにつれて愛着が湧いてきそうです!
「自然のものを金属でつくったら、どうなんだろう」作品制作の裏話
――――すごくインパクトがある見た目ですよね。
クロコダイルがモチーフというだけあって、重量感があって、肉感がある表現というか。
デザインのモチーフはどのように決めたのでしょうか?
細谷:もともと自然のものをモチーフに制作をすることが多くて。
生き物、特に爬虫類が好きで。そういったものの中から、「ワニ革ってかっこいいなぁ。金属でつくったら、どうなんだろう」と思って決めました。
――――テクスチャー(表面の処理や質感)はローラーでつけたものでは、ないんですね。
細谷:では、ないですね。
打ち出しという技法がありまして、鏨(たがね:岩石や金属を加工するための道具)という道具を使って、凹凸をつけたり、テクスチャ―をつけたりして表現しています。コンコンコンコン……自分で打ってます。
――――だから自然な表現というか、いい意味でランダムなんですね。
細谷:やっぱり人間のやることなので。
多少は強弱がついたり、逆にそれがより自然さを出しているポイントになっているのかな?
――――ちなみにワニを飼っているわけでは……
細谷:(笑)ワニは飼っていないんですけれども、ヤモリは飼っています。
――――ヤモリを飼っている!?
細谷:ヤモリを飼っています。かわいいですよー。
InstagramとTwitterに写真をのせていますので、よかったら見てください。
新たな技法に挑戦。テクスチャ―へのこだわり
――――先程の作品とは対照的な、すごく繊細で品のある作品だと感じました。
これもテクスチャーをつけるのに鏨(たがね)を使用しているのでしょうか?
細谷:これは洋彫り(ようぼり)を取り入れています。
日本だと鏨をハンマーで打って加工するのが主流なんですが、ヨーロッパでは、鏨を手で持って押して彫るという、ちょっと日本とは違った使い方をするんです。
イタリアにインチジオーネっていう技法がありまして。その中に細い線をたくさん細かく入れて輝かせるという技法があるんです。それを「自分でもやってみよう」と思って、実際やってみて、「もっと細かくしてみたらどうなるんだろう」と。
もう、彫るんじゃなくて先の尖った棒でひっかくんですよ。細かく細かく。そうすると、彫ったってわかんないくらい細かいテクスチャーになって。
……うん。それで、ああいう感じに。
――――テクスチャ―とマットな質感の中間といった感じでしょうか。
細谷:そうですね。
――――彫りであるからこそ、光って見えるんですね。
ということは、着眼点は技術から?
細谷:そうですね。どっちかっていうと。
最初、洋彫り鏨でテクスチャ―をつけるのは、雪の結晶みたいなものが彫りたいな、と思ってやってたんです。ザ・結晶っていう感じよりは、肉眼で見ている感じ。
いろいろ試しながら、「線を彫った時のキラキラ感が綺麗だな」と思って、全面にやってみたりとか。
このQuiet Ringは一方向だけなんですけど、十字に彫りを入れたものなんかもつくってみたりしていて。そっちは、布の生地みたいな感じになりました。
――――縦糸と横糸が織り重なったみたいな感じですか?
細谷:そうそうそう。
そういうテクスチャーになったり。手を動かしながら試行錯誤しながら、って感じですね。
「自然のものを金属でつくったら、おもしろい」デザインの起点は自然の美しさ
――――自然モチーフのものをつくることが多いとおっしゃっていましたが、
デザインの起点になるものはなんでしょう?
細谷:植物や生き物を育てたり、畑で作業をしたりすることをよくやっているんですけど。自然と触れている中で、「綺麗だな」って思ったものを写真に納めておくんです。それをあとから見直して、「これを金属でつくったら、おもしろいかな」って。
そういう、いろいろなモノを見て、美しいものを抜き出してつくることが多いです。
――――自分の感性に忠実に制作されるんですね。
もともとデザインとしてモチーフがあるものではなくて、自然物をモチーフとされていますが、カタチに落としこむってすごく大変な作業ではないですか?
細谷:やっぱり本物、答えがあるものをつくるっていうときに、本物により近付けてつくるのか、自分が「ここが美しい」と思った部分を強調してつくるのか。そういうところはありますね。
――――さじ加減が難しいですよね。
細谷:でもやっぱり、自分が好きかどうか。
基本的に自分が「欲しいな」、と思って作ることが多いので。自分が「身に着けたい」って思えるモノができたら、それはたぶん正解なんだと思います。
最近作っているものだと、ブルーベリーの実をそのままモチーフにつくったチャームがあるんですけど。それは自宅で育てているブルーベリーをモチーフにしています。
ジュエリーって、綺麗に石が留まっていたりとか、そういう完璧な美しさに魅力があると思うんです。でも、自分が実際に育てているブルーベリーをモチーフにしようって思ったとき、そのブルーベリーに虫食いがあって。虫食いってあんまり、いいイメージがないと思うんですよ。でも、その虫食いが「かわいいな」と。
実際にできあがった作品にもあえて虫食いをつけて。あえて不完全なカタチにしてみたり。
そういう、不完全の美というか、日本人的な美意識が自分の中では正解かな。
――――建築とかでもありますよね。
あえて完成させないっていうか。「完成されたらあとは廃れるだけ」という考えとか。
細谷:不完全だからこそ、いろいろな解釈ができる余白を楽しめますよね。
自分が扱っている素材はシルバーなんで、硫化しやすい素材じゃないですか。鉄も錆びやすかったりするけど、そういうのも含めて価値になるというか。自然のままの美しさがあるなぁと自分は思っていて。
自分自身で身に着けているアイテムもそうなんですけど、お守りみたいな、身に着けていないと落ち着かない、っていう感覚で日々身に着けていただきながら、自然な変化を長く楽しんでいただけたら嬉しいですね。
やる気が出ないときも、とにかく何かやってみる。細谷さんの好きな作業とは
――――作業に入る前、自分のテンションを上げるスイッチみたいなものはありますか?
細谷:うーーーん……。
基本的に、朝起きて、ご飯を食べて、育てているもののお世話をして、そのあと、作業場に向かうんですけれども。
やっぱりやる気が出ないときは、あります。
そういうときは、無理矢理やる、というよりは、やる気が出るのを待つ、っていう感じが多いですね。でも、ちょっとだけでいいから何かやろう、って思うと意外とそのまま。
あとは、あんまり好きじゃない作業をやらなきゃいけない、っていうときは、材料をつくるようにしています。
――――なるほど。材料をつくっちゃう。
細谷:次に備えた材料をつくっちゃう。それでこう、無理矢理テンションを上げていっちゃうみたいな。
――――とにかく、とりあえず手を動かしてモチベーションを上げていくんですね。
細谷:注文が来ていないときって、自分から動かないと、なかなかやる気が出ないんで。
――――先程、好きじゃない作業というワードが出ましたが、嫌いな作業っていうのは?
細谷:細かい作業です。
――――細かい作業ですか!?
先程のQuiet Ringはすごい細かいですけど(笑)
細谷:うーん……あんまり好きじゃないですね(笑)
――――では逆に、好きな作業はなんですか?
細谷:好きな作業は、地金をつくることです。
普通は、地金を買って使うという人が多いと思うんですけど、自分は純銀と銅を溶かし合わせて使っています。自分が使っているのは950のシルバーなんですけど。
それを溶かして鋳型に流してハンマーで叩いて、地金をしめていって。板にしたり、棒にしたり、線にしたり……。
――――市販のものではないので完全にオリジナリティがありますよね。
細谷:オリジナリティといえば、学生時代に包丁から指輪をつくったことがあるんですよ。
――――包丁からですか!?
細谷:包丁の素材って、鉄とか、鋼とか。あまりジュエリーには向かない素材なんですけど。
学校の課題で結婚指輪を考えるというものがあって。
……自分、ちっちゃい頃に、父親の結婚指輪をなくしてるんです。父親の結婚指輪で遊んでいて、それをなくしちゃって。それ以来、父親は結婚指輪を着けていなかったんで、新しい指輪をつくってプレゼントしよう、と思って。
両親は職場結婚だったんで、共通になりそうなものってなんだろう、と思ったときに、包丁が思い浮かんだんですよね。で、家に結婚当初から使っているであろう包丁があったんで、それを素材につくってみたらどうかな、と。
――――包丁で使われている鉄、鋼というものは単純にジュエリーに加工できるものなんでしょうか?
細谷:ヤスリがダメになる硬さではありましたね。
工業用の鋼よりも硬い素材なんで。
でもこれはもう、一発勝負だったんで……。
学校のゼミでダマスカスを触ったことがあって。
ダマスカスっていうのは鋼、鉄とニッケルを交互に積み重ねて、鍛接(たんせつ:金属を接合する技法のこと)でひと塊にしちゃうものなんですが、色の違う金属なので、縞模様が出来上がるんですよ。
それをねじったり、面をえぐったりして。
そうすると、縞模様がねじれた模様になったり、層をえぐっているので、つぶして板にすると木目模様になったりするんです。
ダマスカスの製造工程は日本刀をつくるときに近いものがあって……。
――――何層にも折り重ねていく?
細谷:そうです。
包丁を指輪にするときに、ただ切り抜いて指輪にするのか、それとも別の方法で指輪にするのか悩んでいたときに、ダマスカスのことを思い出して。包丁を細かく切って層にして、鍛接をして指輪にしたら今まで積み重ねてきた時間とか、そういうのも表現できるんじゃないかって思って。
で、やってみました。
――――実際作品としてはどういったものに?
細谷:包丁って二層になってるんですよ。硬い刃の部分と、柔らかいみねの部分。
色の違いはちょっとあるかなって感じなんですけど。それを層にして鍛接することによって、より細かい縞模様、柾目(まさめ)模様っていうものができました。木材に関する、年輪を表す言葉なんです。日本刀の模様とかに使われている模様なんですけれども、その模様ができましたね。
両親が積み重ねてきた年月をばっちり表現できたかな、と思います。
――――学生時代の課題で制作されたとのことですが、現在のご自身のブランドの作品には?
細谷:なってないです。したいんですけれど……。
――――今つくるとすると、どんなことがネックになりますか?
細谷:まず、設備的な問題がありますね。
鉄を鍛接するのって、普通にジュエリーをつくる環境より火力とか高い温度が求められるので、それ用の設備が必要なんですよ。
技術的な部分もありますね。あとは近所迷惑とか(笑)
結婚指輪のラインナップとしてピッタリなので、いつかシリーズとして揃えたいなっていう気持ちはあるんです。
でも、安定供給は難しいかなぁ。価格とか、ジュエリーとして素材の価値とは離れてきてしまうし……。その部分をどう解釈してもらおうかな、という課題がありますね。
あるだけでテンションが上がる、お気に入りの工具
――――このローラー、すごくかっこいいですよね。
細谷:一番最初に揃えたい工具だったので、あるだけでテンション上がります。
――――ご自分でご購入されたんですか?
細谷:自分が通っていた専門学校で売りに出されていた中古の工具だったんですよ。2万くらいだったかと思います。普通に買うよりは安いんじゃないですかね。
――――ローラーって制作の序盤のほうで使う道具ですよね。
一番最初に揃えたい工具だった理由は何故でしょうか?
細谷:自分がジュエリー制作を個人でやろうってなったときに、自分で地金をつくって、自分ひとりだけで完結してつくりたいって思ってたんで。
その上で欠かせないものって言ったらローラーかなって。
ワックスでつくって鋳造に出すと、制作中の作品に他の人の手が入るじゃないですか。
よくあるのが鬆(ス)ができちゃたりとか、うまく流れなかったとか。そういう他人の影響、自分が予期せぬイレギュラーが入ってしまう。それは自分が思い描いていたブランドではないな、と思って。自分の手ですべて完結したい、という考えがあったんですよね。
その考えを支えてくれているのが、このローラーです。
――――プロ意識の象徴ですね。
細谷:こだわりというか、そういうところかもしれないです。
以前、作業中にこれに指を挟まれてしまったこともあるんですが(笑)
――――結構よくあることなんですか?
細谷:うっかり紙で指切っちゃったみたいな感じです。
思わぬところに指があって、ぼーっとしてたのかな。
――――自分がローラーを使っていたときの悩みなんですが、どのくらいまでやったら、なまし直すものなんでしょう?感覚ですか?
細谷:割れやすい材料だったり、サイズだったり、違いはかなりあるんですが。ローラーをかけていると、硬さというか、のびにくさを感じるんですよ。
厚みを変えるハンドルがあるんですけど、自分が使っているローラーでは、大体1/4回して、一回のばして、もう一度1/4回して、一回のばす。
1/4回すと、だいたい0.5mmくらいずつのびてるかな?目標の厚みを加味しながら……もちろんちゃんと測りますけどね。
――――メンテナンスってどのようにされるんですか?
細谷:これは結構単純な造りなんで、簡単にバラバラになります。
でも、数年に一度とかですね。油を差しまくってるんで。
――――壊れたりとかするものなんでしょうか?
細谷:ローラーの面にキズがついちゃうとか、そういうのは、あるかもしれないですね。
キズがつくと、のばしたものにもキズがうつっちゃうんで。そうなったら研ぎ直しというか、一度綺麗にしないといけないかな。
でも個人的には少しくらい残っててもいいのかなって思ったりもしてて。うちのオリジナルというか。ピカピカのジュエリーよりは、そういったちょっとキズがあったものの方が味があって好きですね。
自分、新品の靴とかも好きじゃないんですよ。もう、わざと汚しちゃいます。
――――かっこいいですよね。
細谷:錆びとかってね、あんまり良くはないんですけど。深みが増しますよね。自分とともに歩んできた歴史っていうか。
使いやすさを重視している作業机へのこだわり
――――工具を使いやすく配置しているという作業机ですが、こだわりは?
細谷:ヤスリは右手で使うんで、なんとなく右側にあります。
あとは、リューター、先端工具は左側の手前に配置してあって。で、左手側にニッパーとかヤットコ、ワイヤーカッターとか。引き出しは受け皿として使っています。そこに新聞紙を敷いて、地金を集めやすくしてますね。
結構いろんな作業をするので、その横にも、もう1台机があるんですよ。
そっちには、ヤニ台(金属への彫刻や宝石の石留めなどの作業に使う固定台)とか、洋彫り鏨とか、打ち出し用の鏨だったり、あとは線引き用の治具(ジグ:作業用の補助工具)とか。
作業別に机そのものを分けて配置してるので、かなり部屋を圧迫しています。作業机が3台とメタルラックがあって、人間のスペースめっちゃ狭いんですよ(笑)
――――彫金台の奥にお花が飾ってありますが、お花好きなんですか?
細谷:お花、好きです。バラをいっぱい育てています。
――――先程、農作業をされているとお聞きしましたが、その一環として?
細谷:そうです。『綺麗なもの』をつくるのが楽しいんですよね、きっと。自分が育てたバラをドライフラワーにして飾ったり。ドライフラワーは初めてつくったんですが、おもしろいです。
今度販売してみようと思っているので、その際はぜひ。
キーワードは『自然』。影響を受けた人物について
――――モノづくりにおいて影響を受けた方はいらっしゃいますか?
細谷:専門学校のときに担任をしてくださっていた影山公章先生です。
その方はもともと芸大で伝統工芸や金属工芸を学んでいらっしゃって、そこからジュエリー製作をはじめたという方なんですけれども。その方がよく自然のものをモチーフに作品をつくっていらっしゃって。自分が初めてジュエリー作品を「美しいな」と思ったのがその方の作品だったんです。
そこから、自然のものを金属でつくる、ということにのめり込んでいった、という感じですね。
――――まさに現在の活動に活かされているのですね。
先生との思い出話やエピソードがあれば教えていただけますか?
細谷:それが、特にないんです(笑)。
席が隣だったんで、自然と授業中に会話をすることが多くて。技術的なことだったり、先生の作品の説明などをよく聞かせてもらっていて。そういったことの積み重ねですかね。
FORAGE(フォーエイジ)が目指す、これから
――――今後、FORAGEでやっていきたいことなどがあればお伺いさせてください。
細谷:最近、ペアリングのご注文をいただくことが増えてきまして。
現在は基本的にオーダーメイドで受けているんですが、今後は作品のラインナップとして自分がデザインして、コンセプトを考えて製作したペアリングや結婚指輪を制作したいですね。
あとは、ジュエリーだけじゃなくて、生活を彩るものみたいな。カトラリーだったり、ドライフラワーを生ける器みたいなものとか。そういうのも、つくれたらおもしろいな、と思っています。
――――ペアリングは本当にフォーエイジのコンセプトにマッチしていますよね。
お互いに身に着けて、一緒に過ごす年月を育てる、というか。
そういったコンセプトを前面に出していたからペアリングのご注文を受けていたわけでは……
細谷:ないんですよ。たまたま、たまたま……。
ネットショップなんで、顔の見えない相手にそういうものを注文するって、すごく勇気がいるじゃないですか。本当にありがたいですよね。嬉しいことです。
――――オーダーメイドで受注した作品を制作するときに大切にしていることはなんですか?
細谷:基本的には、注文してくださった内容を忠実に表現するようにしています。もし、何かあれば素直に変えていって、オーダーに対して100%応えるようにしています。
そんな感じなので、「かなり無理なこと言ってしまって申し訳ないです」、みたいなお声をいただいたことがあって。でも、「そのおかげで良いものになりました」、ということをおっしゃっていただけて。
あのときは本当にによかったなぁ、って思いました。
――――お客様にご満足していただけるのは作家冥利につきますね。
ちなみに、お客様からいただいた言葉の中で、一番嬉しかった言葉は?
細谷:「想像以上の出来でした」とか……ですかね。
ネットだと、写真でのやり取りしかできないので、実物を見ていただけないじゃないですか。その中で、お客様が想像していたよりも良いモノが届けられた、良いモノをつくれた、っていう実感があって。嬉しかったですね。
今の画像加工技術ってすごいじゃないですか。
それを踏まえて、実物の方がよかったって言って貰えるのはやっぱり嬉しいです。
――――写真だけでは伝えきれないところで良い意味で裏切られた、という感動をお客様に感じていただけたんですね。モノづくりをしている人全員が嬉しい言葉ですよね。
細谷:そうなんです。こっちも不安なんですよ。
送った作品がお客様のお手元まで無事に届くかな、お客様が届いた作品を確認して、どう思うかな、って。
その中でこういった言葉をいただけるのはすごい励みになりますし、素直に嬉しい。レビューとか感想をいただけるだけでも、ありがたいですからね。
ジュエリーを身に着ける方と共に過ごしてきた時間、その経年変化にも価値があり、味わい深さを楽しんでほしい。そんな素敵な想いをカタチにする細谷さんのこだわりを、たっぷり語っていただきました。
「美しい」「おもしろい」という、ご自分の感性を大切になさっている細谷さん。穏やかな話し方から醸し出される大らかな雰囲気から、心からモノづくりを楽しんでいらっしゃる印象を受けました。
今後のご活躍をCAT+v編集部一同、心より応援しております!
インタビューに応じてくださった細谷さん、ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!
今回のインタビューを通じて、細谷さんご自身やFORAGE、CAT+vについてご興味が湧いてくださったら嬉しいです。
細谷さんのSNS、販売ページはこちらからご覧いただけます。
それでは、また別の記事にてお会いできますと幸いです。
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