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きつね

白い女の人がひとり
だれも来たことがない
ひみつの岩壁、岬の上で
朝日を反射して立っている

ふしぎなそよ風と共にとつぜん
魔法が働いて、びっくりしたようすで
みたことないほど美しい衣に身を包んだ
大理石みたいに白いきつねの耳としっぽ

「ほらきつねよ、わたしのところに来ておくれ
おまえがどんな顔をしているか見てみなさい」
鏡と、わたしの目にしかと映った
あの人はきつね、たしかにそうだった

あの人はなぜか楽しそうにしながら
わざとらしくこびへつらうように
けがらわしい生まれなのだといって
なかば自嘲するようににっこりと笑った

どうして人の子が入ってきたのだと
あの人は首をかしげてわたしに問うた
それからしっぽを浮かばせながら振りかえると
毛皮の外套がわたしたちをとじこめた

あの人はだれなのか、そんなの知ってるわけがない
きつね色の景色を見せて、なにをするのだろう?
全美の人ほどにずっと美しく
それでいて燃えるような、あの女の人は

きつねは残忍で冷酷で、悪意にみちているという
だが皮肉屋で、優雅なほどによそよそしいあの人に
だまされているかもしれないなんて、おそれるものか
きつねはその毛でわたしの欲望を満たしてくれる

わたしはベルガモットの木の下にある
あの人の土色の家にいる、ここは
きつねたちの隠されたふるき美徳に守られた
だれもしらないひみつの場所

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