【GeoGuessr攻略記事】スラヴ諸語の見分け方法を徹底解剖
本シリーズはYouTubeで公開している解説動画の内容をベースにして、要点を整理するとともに動画内で説明しきれなかったポイントを補足するための記事です。ぜひ動画本編と合わせてごらんください。
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第5回 東ヨーロッパ編 スラヴ諸語
東ヨーロッパで使われている言語はスラヴ諸語、バルト諸語、ウラル語族からロマンス系言語にまで多岐にわたります。
使われている文字についても、ラテンアルファベットとキリル文字のバリエーションがあり、英語やフランス語とも大きく異なった言語であることも相まって、最初のうちは判別に非常に苦労することと思います。
当記事はその中でも系統で言えばスラヴ系とバルト系、その中でもラテンアルファベット表記を使う言語に焦点を当てて特徴を解剖していきます。
<コラム:東欧の言語系統>
1.セルボ・クロアチア語
セルビア語、クロアチア語、モンテネグロ語、ボスニア語の四言語は互いによく似た言語で方言のような関係にあり、総称してセルボ・クロアチア語などと呼んだりします。
攻略上の認識としては、クロアチア語とセルビア語とモンテネグロ語は互いに似ているので区別不可能、とした方がいいと思います。
本記事ではこれらの三言語を区別せず「セルボ・クロアチア語」と総称し、共通する特徴を説明していきます。そのため、攻略上の概念としては三か国共通の公用語として扱っていきます。
なお、前の記事で「クロアチア語」の表現を使っている箇所がありますが、これはセルボ・クロアチア語の意味で使っています。
この辺りは純粋に言語学的な区分というよりも政治的な区分という側面も強いので、どのようにそれぞれの言語を認識するか、どのような表現を使うかという非常にデリケートな問題でもあります。
旧ユーゴスラヴィア諸国が抱える事情を理解した上で、ご自身でこれらの言語に対する認識を確立していただければと思います。
なお、特にセルビア語とモンテネグロ語に関してはキリル文字表記も存在しますが、本記事ではまずラテン文字表記についてのみ扱います。
セルボ・クロアチア語単語集
<通り> ulica
<売出し中> prodaje se / na prodaju / prodaja
<学校> škola
<区域> zona
<注意> pozor / pažnja
・スラヴ諸語に比較的典型的な語彙が多め
・セルビアの標識はキリル文字表記が多いです
セルボ・クロアチア語の文字
セルボ・クロアチア語では、ほかのスラヴ諸語と同様ハーチェクという記号のついた文字を表記に用いています。
セルボ・クロアチア語では č, š, ž の三種類が使われますが、いずれも他のスラヴ諸語でも共通して用いられている一般的な文字ですので、これだけでは漠然と東ヨーロッパの言語であることしか分かりません。
セルボ・クロアチア語を他のスラヴ諸語と区別できる特徴の一つは、アクセント符号をほとんど使わないということです。
これは西スラヴ諸語との区別に有用な一方で、南スラヴ諸語全体の特徴にあたるため、細かい区別にはあまり使えません。
もう一つの特徴は、いくつかの独自の文字の使用です。
Ćć はアクセント符号における例外で、この文字を使っているのはセルボ・クロアチア語のほかにポーランド語があります。
ハーチェクと共に使われていればセルボ・クロアチア語確定です。
Đđ はほぼセルボ・クロアチア語確定で、大文字がアイスランド語の Ðð と共通しており、他に見るとすれば北部サーミ語の可能性があります。
これらの文字で、後述のスロベニア語とも見分けることができます。
逆に、これらの文字がない場合、セルボ・クロアチア語とスロベニア語を見分けるには専門的な知識が必要です。
注意点としては、特にマケドニア語のラテン文字転写はセルボ・クロアチア語と同じ文字体系になる、ということが挙げられます。
北マケドニアの地名の標識は実際ラテン文字・キリル文字併記のことが多いため、地名に限ってはセルビア語・モンテネグロ語に加えてマケドニア語も考慮に入れる必要がありそうです。
通常であればマケドニア語はキリル文字表記しか使わないため、街中であれば基本ラテン文字表記を気にする必要はありません。
<コラム:セルビア語とクロアチア語>
2.スロベニア語
同じく南スラヴ語群の言語で、セルボ・クロアチア語とよく似ています。
分かりやすく差が出てくれないと区別できないことが多いです。
しかし、クロアチア語とセルビア語が実質ほぼ同じ言語と見なせるのに対して、スロベニア語とセルボ・クロアチア語は明確に違う言語です。
文法事項をきめ細かく勉強すればスロベニア語は見分けることができる部類には入りますが、筆者はそこまで南スラヴ語群を正確に見分ける勉強をしていないため、今回は分かりやすい特徴に絞って紹介します。
スロベニア語単語集
<通り> ulica
<売出し中> prodaja se / za prodajo / naprodaj / prodaja
<学校> šola
<区域> cona
<注意> pozor
・šola と cona は標識にあればスロベニア確定
・ほかに覚えるとしたらセルボ・クロアチア語との差異を中心に
スロベニア語の文字
スロベニア語の文字体系はスラヴ諸語の中ではかなり単純です。
ハーチェクはセルボ・クロアチア語と同様に č, š, ž の三種類が使われていますが、スロベニア語はそれ以外にほとんど特殊な文字を使いません。
ごく稀にアクセントなどを用いて綴りが同じ単語を区別するケースがあるそうですが、基本的に気にしなくていい例外です。
このことは逆に言うと、スロベニア語確定の文字がないということでもあります。このためにスロベニア語は東欧でも特に難しい言語のひとつです。
<コラム:南スラヴ語の詳細比較>
3.チェコ語とスロバキア語
西スラヴ語群に分類される言語で、文字体系などから南スラヴ諸語、同じく西スラヴ語であるポーランド語とは簡単に区別できます。
一方で、チェコ語とスロバキア語は歴史的にもつながりが深く、相互に意思疎通可能なほど似ている言語です。
しかし、スロベニア語とセルボ・クロアチア語が見かけからはなかなか区別できないのに対し、チェコ語とスロバキア語は文字から簡単に区別できる場合が比較的多くあります。
チェコ語またはスロバキア語のどちらかに絞り込める特徴と、チェコ語とスロバキア語を区別できる特徴の双方を混同しないことが大切です。
チェコ語とスロバキア語の共通点
他のスラヴ語と文法や全体的な綴りの面で大きな差はありません。
チェコ語とスロバキア語はスラヴ語の中でも使っている文字の種類が特に多く、固有の文字もいくつか持っています。
まず、アクセント符号を多用することがスラヴ諸語の中では特徴的で、加えてハーチェクの記号を南スラヴ語より多く使います。
これらの特徴から、アクセント符号と何らかのハーチェク付きの文字があればそれだけでチェコ語とスロバキア語のどちらかに絞り込めます。
これは čšž のように広く使われているものであっても同じ条件です。
また、Ďď Ňň Ťť の三種類もチェコ語またはスロバキア語で確定です。
ハーチェクは一部の文字でアポストロフィの形になるので注意しましょう。
アクセント符号はロマンス諸語と同じように、母音につくアキュートアクセントですが、Ýýはロマンス諸語では使われず、チェコ語・スロバキア語およびアイスランド語でのみ使われているので、これも覚えておきましょう。
チェコ語単語集
<通り> ulice
<警察> policie
<売出し中> na prodej
<貸出し中> na pronájem
<区域> zóna
<注意> pozor
・スロバキア語と見分けるうえで語彙が重要です
・詳しい覚え方はコラムを参照
スロバキア語単語集
<通り> ulica
<警察> polícia
<売出し中> na predaj
<貸出し中> na prenájom
<区域> zóna
<注意> pozor
・通りや警察は他の言語に同形が多いので注意
・売出し中貸出し中はよく見るので是非覚えたいです
<コラム:チェコ語とスロバキア語の単語比較>
チェコ語の文字
チェコ語には Ěě Řř Ůů という三種類の固有の文字があります。
すべてチェコ語またはスロバキア語という段階をすっ飛ばしてチェコ語に確定できる文字で、なおかつ使用頻度が高いので必ず覚えたいところです。
ちなみにŘřはドヴォルジャークの「ルジュ」にあたる子音で、これを一つの音のうちに発声するというチェコ語学習者殺しで知られる子音です。
そしてめちゃくちゃよく使われています。
スロバキア語の文字
Ľľ Ŕŕ Ĺĺ の三種類はいずれもスロバキア語確定の文字です。
左からLのハーチェク、Rのアクセント、Lのアクセントに相当し、直ちにスロバキア語に確定できますが、紛らしいうえにチェコ語の固有文字と違ってLハーチェクを除いて使用頻度は低いです。
余談ですが、チェコ・スロバキア語のアクセント符号は長母音を表す記号です。ŔŕとĹĺも例外ではなく、スロバキア語ではこれらの子音字が母音のように発音されることがある、ということらしいです。
これに加えて、忘れられがちな点ですが、スロバキア語ではÄäとÔôというスラヴ諸語においては特徴的な母音字も使われています。
使用頻度はやはり低いですが、チェコ語との区別に使えます。
Ääはドイツ語やエストニア語などでも使われている一方で、他にウムラウトを使っているイメージの強いハンガリー語やトルコ語では使われていないので、気を付けて覚えましょう。
Ôôに関しては他に使っている主な言語はフランス語とポルトガル語のみで、東ヨーロッパであればスロバキア語に確定できます。
4.ポーランド語
ポーランド語はチェコ語などと同じ西スラヴ語群に入りますが、正書法が大きく異なるため見た目はかなり違って見えます。
ポーランド語はこの周囲のどの言語とも異なる表記体系で簡単に特定できるので、スラヴ諸語の中ではかなり分かりやすい部類かと思います。
ポーランド語単語集
<通り> ulica
<売出し中> na sprzedaż / sprzedam
<学校> szkoła
・ポーランド語は単語覚えなくても特定できます
・ sprzedam はよく見るので覚えていて損はないと思います
ポーランド語の文字①
ポーランド語は文字体系がとにかく独特です。
まず、ポーランド語ではハーチェクを一切使いません。
逆に、アクセント符号やオゴネク符号を多用しています。
まず、Łł Ńń Śś Źź はすべてポーランド語確定です。
特にŁłは極めて頻繁に見る文字ですので是非覚えましょう。
ちなみに発音が激ムズで日本ではふつう「ワ」に転写されます。
次に、Żż(アクセントではなくドット)がマルタ語とポーランド語のどちらかになるため、マルタでなければポーランド語という判定が成り立ちます。
さらに、Ććもすでに紹介した通りポーランド語とセルボ・クロアチア語に特徴的な文字です。この場合はハーチェクがあればセルボ・クロアチア語、なくても慣れればこの二言語は簡単に見分けつくようになります。
オゴネク付きの文字、ĄąとĘęはポーランド語またはリトアニア語です。
他の文字や綴りの雰囲気から簡単に見分けられると思います。
これ以外にもÓóを使うので、頭の片隅にでも入れておけばいいと思います。
ポーランド語の文字②
以上のことから、次のようなポーランド語の特徴が見出せます。
・ポーランド語は他のスラヴ諸語がハーチェクを使っている音に対し、独自のアクセント付き子音やその他独特な文字を用いている。
・ポーランド語は母音にはほぼアクセント符号を付けない。オゴネクを付ける点で、母音の表記はリトアニア語に似ている面を持っている。
加えて、ポーランド語にはまだ文字に特徴があります。
その一つが子音 w の多用です。
v の音を表すのに w を使うのはドイツ語に似ていて、スラヴ系で w を見たらほぼポーランド語と言いたいくらいには特徴的なスぺルです。
もう一つが二字で一つの子音を表す綴りの多用です。
代表的なものが Szcz- で、ポーランド語を独特たらしめる要因の一つです。
これはSzシュとCzチュに分解でき、それぞれ単独でも用いられます。
Szczはポーランド確定でいいと思いますし、単独で使われている時でもポーランド語の可能性を疑っていくといいでしょう。
ただし Sz はハンガリー語では s の音を表し、頻繁に用いられています。
ここまで知っていれば、ポーランド語はまず見分けられます。
文字と綴りの両面からしっかり特定できるようになりましょう。
<コラム:アクセント付き子音>
5.リトアニア語
ここからバルト語派の言語になります。
スラヴ語派に比較的近いとされていますが、綴りが違うのでこれらの言語をスラヴ系言語と区別するのはそこまで難しくはありません。
バルト語派間の見分けについても、これから以下説明するように文字も綴りも大きく異なってくるので慣れればそこまで難しくはありません。
リトアニア語単語集
<通り> gatvė
<バス> autobusas
まず文字を見る頻度が少ない国であるうえ、文字やボラードで特定した方がマシなので、語彙として覚えるべきものはあまりありません。
gatvė は g. のように省略されて書かれることも多いので注意が必要です。
リトアニア語は -as という男性名詞主格の形が特徴的です。
ただちに確定ではありませんが、例えばガソリンスタンドのタンクに書かれた butanas(ブタン)だけでもリトアニアを推測できたことがあります。
このような場合は主格(≒原形)であることが推測できますが、文章中ではたとえばラトビア語の女性名詞属格に同じ形があるため、あくまで判断材料の一つとして考えるべきでしょう。
リトアニア語の文字
リトアニア語ではスラヴ諸語と同じように čšž が使われます。
これだけでも感覚的にある程度バルト系かスラヴ系かはわかりますが、バルト諸語に関しては他の文字で見分けるのが基本になります。
ポーランド語でも使われているオゴネクがリトアニア語ではさらに頻繁かつ多様に使われており、ĮįとŲųは単体でもリトアニア語確定です。
ĄąとĘęはリトアニア語のほかポーランド語でも使われていますが、ハーチェクがあればリトアニア語確定なので見分けるのは簡単です。
このほかに、Ėėという文字もリトアニア語確定です。
ドット符号でありアクセント符号とそっくりなので、画質が荒い場合は他の情報も合わせて判断した方がいいかもしれません。
6.ラトビア語
同じくバルト語派の言語です。
リトアニア語とは似ている部分もありますが、使う文字が特徴的なので見た目はかなり異なっている印象があります。
ラトビア語単語集
<通り> iela
<バス> autobuss
リトアニアと同様覚えるべき語彙は多くありません。
ラトビア語は文字さえ覚えていればなんとかなる言語ですので、主格がどうこうとかあまり考えなくてもいいと思います。
<コラム:バルト語派の名詞の形>
ラトビア語の文字
ラトビア語でも čšž が使われています。
これはリトアニア語とも共通するのであまり重要ではありません。
まず、リトアニア語に特徴的なオゴネクは使われていません。
代わりに、ラトビア語では āēī というマクロン(長音符号)付きの母音が極めて頻繁に使われており、ラトビア語で確定です。
これは日本語のローマ字表記と同じような感じです。
ただし、ū のみリトアニア語でも用いられており、長音符号は全てラトビア語確定とはなりませんので注意しましょう。
ō に関してはラトビア語でも使われず、日本語やマオリ語などのアルファベット表記でのみ用いられるようです。
子音字についても、Ģģ, Ķķ, ĻĻ, Ņņ がいずれもラトビア語確定です。
これはもとは ç と同じセディーユ符号だったものがコンマとして表記されるようになったもので、稀にセディーユのままのフォントがあったりなかったりするみたいです。
ȘșȚțはルーマニア語確定の文字なので混同しないようにしましょう。
ラトビア語に関しては長音符号が特に頻繁に使われており、コンマ付きの子音もそれなりの頻度で見かけます。
まとまった文章中にこれらの文字がひとつも無かったらラトビア語の可能性は低いとさえ言えると思いますが、固有名詞や断片的な文章しか見えない時は、格変化などから慎重に判断する必要があるでしょう。
今回のまとめ
1.言語のグループ分けを理解しよう!
北欧の時にも同じことを書きましたが、東欧ではさらにこれが重要です。
たとえばバルト三国のうちエストニアと残り二国の間では言語的には大きな隔たりがあり、スラヴ系言語を使う国の中にハンガリーやルーマニアといった異なる系統の言語を使う国が存在しています。
クロアチア語・セルビア語・モンテネグロ語やチェコ語・スロバキア語といった近隣言語間に共通する特徴と、その中で特定の言語にまで絞り込める特徴とを分けて覚える必要があるので、それぞれの国の言語を系統立てて理解しておくことがとても重要です。
2.基本は文字体系で!
東ヨーロッパの言語の大まかな区別は文字体系によって行うのが基本です。
ハーチェク、アクセント、オゴネクに加え次回はウムラウトも出てきますので複雑ですが、これとこれの組み合わせはこの言語グループ、というような判別方法が非常に便利ですので、文字を一つ一つ覚えるというよりはまずは発音区別符号を覚えていくのもいいかもしれません。
より細かい区別のためには語彙や文法の知識が必要になります。
3.旧ユーゴは難しい!
旧ユーゴ、すなわち南スラヴ語圏は区別が極めて難しいです。
言語的にも非常によく似ていて、標識やボラードも複数のスタイルが入れ子的に国境をまたいで使われているので、難しくて当たり前です。
民族構成も入れ子的なので、国境をまたいで言語が使われていることもザラで、そういう意味でも国当てが難しいのは間違いありません。
逆に、リトアニアとラトビアなどは歴史的な関わりの深さや言語的な近さにもかかわらず、文章さえ見つかれば簡単に見分けられますので、言語で見分けられる場合と見分けられない場合がわかる、ということも東欧においては重要なスキルの一つでもあります。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
筆者の知識不足もあり、できる限りの調査は行っておりますが曖昧な記述も多くなってしまいました。もし誤りがあればご指摘いただきたいです。
なお、あくまでゲームの攻略情報として言語の特徴を説明していますので、言語学的には厳密でない表現を敢えて使っている箇所もあります。
明らかな事実誤認やミスリードはご指摘をいただき次第修正しますが、厳密な言語学の記事でははなくゲーム用に噛み砕かれた記事として読んでいただければと思います。
最後に、当ブログではYouTubeと連動したGeoGuessrの解説記事のほかに、解説担当のcatmanが個人的に公開している文学作品も掲載しています。
興味を持たれた方いましたら、そちらも見ていただければ幸甚です。
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