【GeoGuessr攻略記事】スラヴ諸語の見分け方法を徹底解剖

本シリーズはYouTubeで公開している解説動画の内容をベースにして、要点を整理するとともに動画内で説明しきれなかったポイントを補足するための記事です。ぜひ動画本編と合わせてごらんください。

↑元動画はこちら


第5回 東ヨーロッパ編 スラヴ諸語

東ヨーロッパで使われている言語はスラヴ諸語、バルト諸語、ウラル語族からロマンス系言語にまで多岐にわたります。

使われている文字についても、ラテンアルファベットとキリル文字のバリエーションがあり、英語やフランス語とも大きく異なった言語であることも相まって、最初のうちは判別に非常に苦労することと思います。

当記事はその中でも系統で言えばスラヴ系バルト系、その中でもラテンアルファベット表記を使う言語に焦点を当てて特徴を解剖していきます。


<コラム:東欧の言語系統>

スラヴ諸語はざっくりと言えばロシア語とその仲間にあたり、東ヨーロッパでもっとも広く使われている言語系統です。
対してバルト諸語にはこのゲームではリトアニア語とラトビア語の二つが該当し、スラヴ諸語とのかかわりも深い言語系統です。

それぞれの言語を勉強する前に、東欧の言語分布の大まかな全体像を理解することがこの地域では重要ですので、簡単にリスト化してみました。

インド・ヨーロッパ語族
  1.スラヴ語派
    a.東スラヴ語群
      
・ロシア語
      ・ウクライナ語
    b.西スラヴ語群
  
    ・チェコ語
      ・スロバキア語
      ・ポーランド語
    c.南スラヴ語群
   
   ・スロベニア語
      ・セルボ・クロアチア語
      ・マケドニア語
      ・ブルガリア語
  2.バルト語派
    a.東バルト語群
     
 ・リトアニア語
      ・ラトビア語
  3.イタリック語派
    a.ロマンス諸語
   
   ・ルーマニア語
  4.ヘレニック語派
      
・ギリシャ語
  5.アルバニア語派
    
  ・アルバニア語
②ウラル語族
  1.フィン・ウゴル語派
    a.ウゴル諸語
      
・ハンガリー語
    b.バルト・フィン諸語
      
・エストニア語
③テュルク語族
  1.テュルク諸語
    a.オグズ語群
      
・トルコ語

主要言語のみをまとめています



1.セルボ・クロアチア語

セルビア語、クロアチア語、モンテネグロ語、ボスニア語の四言語は互いによく似た言語で方言のような関係にあり、総称してセルボ・クロアチア語などと呼んだりします。

攻略上の認識としては、クロアチア語とセルビア語とモンテネグロ語は互いに似ているので区別不可能、とした方がいいと思います。

本記事ではこれらの三言語を区別せず「セルボ・クロアチア語」と総称し、共通する特徴を説明していきます。そのため、攻略上の概念としては三か国共通の公用語として扱っていきます。

なお、前の記事で「クロアチア語」の表現を使っている箇所がありますが、これはセルボ・クロアチア語の意味で使っています。

この辺りは純粋に言語学的な区分というよりも政治的な区分という側面も強いので、どのようにそれぞれの言語を認識するか、どのような表現を使うかという非常にデリケートな問題でもあります。

旧ユーゴスラヴィア諸国が抱える事情を理解した上で、ご自身でこれらの言語に対する認識を確立していただければと思います。

なお、特にセルビア語とモンテネグロ語に関してはキリル文字表記も存在しますが、本記事ではまずラテン文字表記についてのみ扱います。


セルボ・クロアチア語単語集

<通り>   ulica
<売出し中> prodaje se / na prodaju / prodaja
<学校>   škola
<区域>   zona
<注意>   pozor / pažnja

・スラヴ諸語に比較的典型的な語彙が多め
・セルビアの標識はキリル文字表記が多いです


セルボ・クロアチア語の文字

セルボ・クロアチア語では、ほかのスラヴ諸語と同様ハーチェクという記号のついた文字を表記に用いています。

セルボ・クロアチア語では č, š, ž の三種類が使われますが、いずれも他のスラヴ諸語でも共通して用いられている一般的な文字ですので、これだけでは漠然と東ヨーロッパの言語であることしか分かりません。

セルボ・クロアチア語を他のスラヴ諸語と区別できる特徴の一つは、アクセント符号をほとんど使わないということです。
これは西スラヴ諸語との区別に有用な一方で、南スラヴ諸語全体の特徴にあたるため、細かい区別にはあまり使えません。

もう一つの特徴は、いくつかの独自の文字の使用です。

Ćć はアクセント符号における例外で、この文字を使っているのはセルボ・クロアチア語のほかにポーランド語があります。
ハーチェクと共に使われていればセルボ・クロアチア語確定です。

Đđ はほぼセルボ・クロアチア語確定で、大文字がアイスランド語の Ðð と共通しており、他に見るとすれば北部サーミ語の可能性があります。

これらの文字で、後述のスロベニア語とも見分けることができます。
逆に、これらの文字がない場合、セルボ・クロアチア語とスロベニア語を見分けるには専門的な知識が必要です。

注意点としては、特にマケドニア語のラテン文字転写はセルボ・クロアチア語と同じ文字体系になる、ということが挙げられます。
北マケドニアの地名の標識は実際ラテン文字・キリル文字併記のことが多いため、地名に限ってはセルビア語・モンテネグロ語に加えてマケドニア語も考慮に入れる必要がありそうです。

通常であればマケドニア語はキリル文字表記しか使わないため、街中であれば基本ラテン文字表記を気にする必要はありません。


<コラム:セルビア語とクロアチア語>

セルビア語とクロアチア語にはいくつかの違いが存在します。

なお、以下に紹介する差異はモンテネグロ語を考慮していません。
言語学上はモンテネグロ語はセルビア語とほぼ同一と見なせますが、完全に同じ言語ではありませんので、あくまでセルビア語とクロアチア語の比較としてお読みください。

セルビア語とクロアチア語の最大の違いは使う文字の種類です。
クロアチア語はラテン文字のみ使いますが、セルビア語はキリル文字とラテン文字双方とも使うことができます。
文字についてはモンテネグロ語もセルビア語と同様です。

さらに細かい違いは一部の単語の綴りに見られます。
具体的にはセルビア語で e と綴られる個所が、クロアチア語では ijeje などに変わることがあります。

セルビア語:mesec クロアチア語:mjesec
セルビア語:reka クロアチア語:rijeka
セルビア語:belo クロアチア語:bijelo


上段は「月」中段は「川」下段は「白い(中性形)」にあたる語彙で、いずれも広告や地名において比較的よく見られる単語かと思います。
モンテネグロには Bijelo Polje という地名があり、セルビア語でも polje は polje なので、あくまで単語ごとの違いでしかありません。

ちなみに、セルビア語の belo は Beograd の beo と同じ語だそうです。
セルボ・クロアチア語には特定の場合に形容詞の末尾にある l が o に変わる謎の慣習があるので、気になる人は調べてみてください。

加えて、クロアチアとセルビアでは外来語に対する姿勢も違います。

クロアチア語には意味を取って造語にする傾向があり、セルビア語には元の音やスペルをそのまま綴る傾向があります。
以下にいくつか例を挙げましょう。

セルビア語:fudbal クロアチア語:nogomet
セルビア語:univerzitet クロアチア語:sveučilište


これも100%の法則ではないので、あくまで傾向として捉えてください。

結論としては言葉だけで見分けるのは無理



2.スロベニア語

同じく南スラヴ語群の言語で、セルボ・クロアチア語とよく似ています。
分かりやすく差が出てくれないと区別できないことが多いです。

しかし、クロアチア語とセルビア語が実質ほぼ同じ言語と見なせるのに対して、スロベニア語とセルボ・クロアチア語は明確に違う言語です。

文法事項をきめ細かく勉強すればスロベニア語は見分けることができる部類には入りますが、筆者はそこまで南スラヴ語群を正確に見分ける勉強をしていないため、今回は分かりやすい特徴に絞って紹介します。


スロベニア語単語集

<通り>   ulica
<売出し中> prodaja se / za prodajo / naprodaj / prodaja
<学校>   šola
<区域>   cona
<注意>   pozor

šolacona は標識にあればスロベニア確定
・ほかに覚えるとしたらセルボ・クロアチア語との差異を中心に


スロベニア語の文字

スロベニア語の文字体系はスラヴ諸語の中ではかなり単純です。

ハーチェクはセルボ・クロアチア語と同様に č, š, ž の三種類が使われていますが、スロベニア語はそれ以外にほとんど特殊な文字を使いません。

ごく稀にアクセントなどを用いて綴りが同じ単語を区別するケースがあるそうですが、基本的に気にしなくていい例外です。

このことは逆に言うと、スロベニア語確定の文字がないということでもあります。このためにスロベニア語は東欧でも特に難しい言語のひとつです。


<コラム:南スラヴ語の詳細比較>

ここでは文法や正書法の面からスロベニア語とセルボ・クロアチア語の違いをより細かく見ていきます。

①表記体系の違い
まず繰り返しになりますが、ć や đ があればセルボ・クロアチア語確定となり、逆にスロベニア語は文字から確定することができません。
また、一つの子音として扱われる もスロベニア語では外来語にしか使われないため、セルボ・クロアチア語の可能性が高いと言えそうです。

②語彙の違い
すでに紹介した単語のほかにも、分かりやすいところで言えばスロベニア語の前置詞 v がセルボ・クロアチア語では になります。
ただし в народ で知られるようにスラヴ諸語共通の前置詞で、u という形も西スラヴ諸語に広く見られるので、使いどころは限られてきます。

また、月の名称も比較的わかりやすい違いとして挙げられます。
スロベニア語では januar, februar, marec とラテン語風の月名を使うのに対し、セルボ・クロアチア語ではスラヴ語風の siječanj, veljača, ožujak という全く異なった月名を使います。
これはスロバキア語とチェコ語の関係に似ています(後述)。

③語法・格変化の違い
スロベニア語の大きな特徴は、単数形と複数形に加えて双数形が存在することですが、傍目からは分からないのでこのゲームでは無視です。

文法上の違いを比較するなら、格変化動詞の活用形の違いを中心に見ていくのが王道でしょう。ここでは簡単に、筆者が調べることができた限りの情報から「売出し中」の表現の違いを分析してみます。

セルボ・クロアチア語:prodaja スロベニア語:prodaja
セルボ・クロアチア語:na prodaju スロベニア語:za prodajo

まず、「売り」を表す名詞の原形=主格は共に prodaja で同じです。

下段は 前置詞+名詞 による表現で、英語の on sale に対応します。
前置詞については、どちらの言語も na と za を両方持っているため、微妙なニュアンスの違い、または慣用的な表現の差であるようです。

問題の名詞部分は、結論から言うとおそらく双方とも対格だと思われます。
女性名詞単数の対格がセルボ・クロアチア語では prodaju、スロベニア語では prodajo となるため、その差が現れているということになります。

前置詞 na が状態を表すとき、スロベニア語なら位格を取りますが、対してセルボ・クロアチア語では格ごとに表すニュアンスがより複雑で、この場合は位格ではなく対格と決まっているようです。
スロベニア語の naprodaj はこの na + 位格 prodaji が慣用的に一語になったものと考えられ、ほかの表現とは格が異なっています。

スロベニア語の前置詞 za は対格と造格で意味が変わり、この場合はおそらく対格と思われますが、スロベニア語の女性名詞単数は対格と造格が同じ形なので実際のところはよくわかりません。

クロアチア語に za+prodaja の表現はないはずですが、あるとすれば対格または造格を取るので、prodaju または prodajom になると予想されます。

ちなみに単数女性名詞 prodaja の格変化は以下の通りです。参考までに。
・主格 セルボ・クロアチア語:prodaja スロベニア語:prodaja
・対格 セルボ・クロアチア語:prodaju スロベニア語:prodajo
・生格 セルボ・クロアチア語:prodaje スロベニア語:prodaje
・与格 セルボ・クロアチア語:prodaji スロベニア語:prodaji
・位格 セルボ・クロアチア語:prodaji スロベニア語:prodaji
・造格 セルボ・クロアチア語:prodajom スロベニア語:prodajo
セルボ・クロアチア語の造格がチェコ語、スロバキア語の貸出し中に似ていますが単なる偶然で、pronájem と prenájom はいずれも主格です。

④動詞の活用形の違い
最後は同じく「売出し中」の表現を例に、活用形の違いを見ていきます。

セルボ・クロアチア語:prodavati スロベニア語:prodajati
セルボ・クロアチア語:prodaje se スロベニア語:prodaja se

上段は動詞の原型で、異なっていますが特に気にする必要はないです。
ただしスラヴ諸語の動詞にはいくつも類型があり、それぞれ活用の規則が違うため、すべての動詞を一様に比較できるわけではありません。

se という単語は再帰代名詞にあたり、ロマンス諸語でも頻繁に用いられる再帰動詞を作るために用いられるものです。

直訳すると「自分自身を~する」となりますが、本来は他動詞として使われる動詞を自動詞として使うための表現方法で、言語によって差はありますが自動詞または受動態としてのニュアンスを持つことが多いです。
英語の enjoy oneself やイタリア語の vendersi などと似た表現です。

同じ再帰表現でも受動態と自動詞化、目的語が主語と同一である他動詞では文法上は区別されますが、そこまで考えてこのゲームをやっている人はいないと思うので、便宜的に「再帰表現」で一括りにして説明します。

セルボ・クロアチア語の se prodavati は「裏切る」や「身体を売る」の意味にも使えますし、特にモノを主語とした場合は自動詞的に「売りに出る」というような意味にもなります。
英語で it's selling. と言っているようなイメージでしょうか。

この場合売られる対象のものが文法上の主語となり、その多くは単数ですので、3人称単数現在形が prodaje と prodaja で異なる、というのが上述の違いの本質的な部分に当たります。

ただし、すでに述べたようにスラヴ諸語の動詞は同じ言語内でも類型ごとに異なった規則変化を持っているため、たとえばセルボ・クロアチア語でやはり「売る」を意味する prodati の三人称単数現在形は proda で、スロベニア語の prodajati と同じ活用規則に見える、という現象が起こります。

詰まるところ、活用形で見分けるにはそれぞれの言語におけるパターンを全て理解している必要があり、あまり現実的ではないのです。

ただし、スロベニア語は双数形が特徴的なので、三人称双数の活用語尾である -ta は覚えてもいいかもしれません。一人称(つまり君と僕)は -va でやはり特徴的ですが街中ではあまり見ないと思います。

双数形でスロベニア特定したらめっちゃ気持ちよさそう



3.チェコ語とスロバキア語

西スラヴ語群に分類される言語で、文字体系などから南スラヴ諸語、同じく西スラヴ語であるポーランド語とは簡単に区別できます。

一方で、チェコ語とスロバキア語は歴史的にもつながりが深く、相互に意思疎通可能なほど似ている言語です。

しかし、スロベニア語とセルボ・クロアチア語が見かけからはなかなか区別できないのに対し、チェコ語とスロバキア語は文字から簡単に区別できる場合が比較的多くあります。

チェコ語またはスロバキア語のどちらかに絞り込める特徴と、チェコ語とスロバキア語を区別できる特徴の双方を混同しないことが大切です。


チェコ語とスロバキア語の共通点

他のスラヴ語と文法や全体的な綴りの面で大きな差はありません。

チェコ語とスロバキア語はスラヴ語の中でも使っている文字の種類が特に多く、固有の文字もいくつか持っています。

まず、アクセント符号を多用することがスラヴ諸語の中では特徴的で、加えてハーチェクの記号を南スラヴ語より多く使います。

これらの特徴から、アクセント符号と何らかのハーチェク付きの文字があればそれだけでチェコ語とスロバキア語のどちらかに絞り込めます。
これは čšž のように広く使われているものであっても同じ条件です。

また、Ďď Ňň Ťť の三種類もチェコ語またはスロバキア語で確定です。
ハーチェクは一部の文字でアポストロフィの形になるので注意しましょう。

アクセント符号はロマンス諸語と同じように、母音につくアキュートアクセントですが、Ýýはロマンス諸語では使われず、チェコ語・スロバキア語およびアイスランド語でのみ使われているので、これも覚えておきましょう。


チェコ語単語集

<通り>   ulice
<警察>   policie
<売出し中> na prodej
<貸出し中> na pronájem
<区域>   zóna
<注意>   pozor

・スロバキア語と見分けるうえで語彙が重要です
・詳しい覚え方はコラムを参照


スロバキア語単語集

<通り>   ulica
<警察>   polícia
<売出し中> na predaj
<貸出し中> na prenájom
<区域>   zóna
<注意>   pozor

・通りや警察は他の言語に同形が多いので注意
・売出し中貸出し中はよく見るので是非覚えたいです


<コラム:チェコ語とスロバキア語の単語比較>

チェコ語とスロバキア語は文字で見分けるのが基本ですが、実は語彙の面でも大きな違いがあります。

①月の名称
スロベニア語とセルボ・クロアチア語の比較でもあったような月の名称の違いがチェコ語とスロバキア語にもあります。
1月 チェコ語:leden スロバキア語:január
2月 チェコ語:únor スロバキア語:február
3月 チェコ語:březen スロバキア語:marec

ちなみにスラヴ語風の月名は、listopad がチェコ語では11月、セルボ・クロアチア語では10月というように言語によって表す月が違います。

②名詞の主格
チェコ語とスロバキア語の一部の名詞では、上記の比較でも分かるように主格末尾の母音が異なります。

スロバキア語では a で終わる語彙が、チェコ語では e で終わっています。
もちろんすべての名詞の主格に共通する法則ではなく、格変化が関わって文章中では区別できないですが、パトカーに書いてある「警察」の語などは主格ですので非常にわかりやすいです。

ある程度格変化にも対応していて、売出し中と貸出し中の表現を見るといずれも最後の母音がチェコ語は e で、スロバキア語は a と o である(日本語でも「あうお」と「いえ」で漠然と分類できる感覚はあると思います)ため、この法則で売出し中の表現も見分けられます。

とはいえ、どちらも複雑な格の形態を持っている言語ですので、他の品詞や未知の語彙に対しては基本的に適用できないと思った方が安全です。

逆に言えば、動画内に映っている predáme がスロバキア語とわかるなど、未知の格変化に対しては適用できる可能性もあります。
あくまで、上記の「単語に対する覚え方」として理解してください。

たまにスロバキアにチェコ語の看板があって死ぬ


チェコ語の文字

チェコ語には Ěě Řř Ůů という三種類の固有の文字があります。
すべてチェコ語またはスロバキア語という段階をすっ飛ばしてチェコ語に確定できる文字で、なおかつ使用頻度が高いので必ず覚えたいところです。

ちなみにŘřはドヴォルジャークの「ルジュ」にあたる子音で、これを一つの音のうちに発声するというチェコ語学習者殺しで知られる子音です。
そしてめちゃくちゃよく使われています。


スロバキア語の文字

Ľľ Ŕŕ Ĺĺ の三種類はいずれもスロバキア語確定の文字です。
左からLのハーチェク、Rのアクセント、Lのアクセントに相当し、直ちにスロバキア語に確定できますが、紛らしいうえにチェコ語の固有文字と違ってLハーチェクを除いて使用頻度は低いです。

余談ですが、チェコ・スロバキア語のアクセント符号は長母音を表す記号です。ŔŕとĹĺも例外ではなく、スロバキア語ではこれらの子音字が母音のように発音されることがある、ということらしいです。

これに加えて、忘れられがちな点ですが、スロバキア語ではÄäÔôというスラヴ諸語においては特徴的な母音字も使われています。
使用頻度はやはり低いですが、チェコ語との区別に使えます。

Ääはドイツ語やエストニア語などでも使われている一方で、他にウムラウトを使っているイメージの強いハンガリー語やトルコ語では使われていないので、気を付けて覚えましょう。

Ôôに関しては他に使っている主な言語はフランス語とポルトガル語のみで、東ヨーロッパであればスロバキア語に確定できます。



4.ポーランド語

ポーランド語はチェコ語などと同じ西スラヴ語群に入りますが、正書法が大きく異なるため見た目はかなり違って見えます。

ポーランド語はこの周囲のどの言語とも異なる表記体系で簡単に特定できるので、スラヴ諸語の中ではかなり分かりやすい部類かと思います。


ポーランド語単語集

<通り>   ulica
<売出し中> na sprzedaż / sprzedam
<学校>   szkoła

・ポーランド語は単語覚えなくても特定できます
・ sprzedam はよく見るので覚えていて損はないと思います


ポーランド語の文字①

ポーランド語は文字体系がとにかく独特です。

まず、ポーランド語ではハーチェクを一切使いません。
逆に、アクセント符号オゴネク符号を多用しています。

まず、Łł Ńń Śś Źź はすべてポーランド語確定です。
特にŁłは極めて頻繁に見る文字ですので是非覚えましょう。
ちなみに発音が激ムズで日本ではふつう「ワ」に転写されます。

次に、Żż(アクセントではなくドット)がマルタ語とポーランド語のどちらかになるため、マルタでなければポーランド語という判定が成り立ちます。

さらに、Ććもすでに紹介した通りポーランド語とセルボ・クロアチア語に特徴的な文字です。この場合はハーチェクがあればセルボ・クロアチア語、なくても慣れればこの二言語は簡単に見分けつくようになります。

オゴネク付きの文字、ĄąĘęポーランド語またはリトアニア語です。
他の文字や綴りの雰囲気から簡単に見分けられると思います。

これ以外にもÓóを使うので、頭の片隅にでも入れておけばいいと思います。


ポーランド語の文字②

以上のことから、次のようなポーランド語の特徴が見出せます。

・ポーランド語は他のスラヴ諸語がハーチェクを使っている音に対し、独自のアクセント付き子音やその他独特な文字を用いている。
・ポーランド語は母音にはほぼアクセント符号を付けない。オゴネクを付ける点で、母音の表記はリトアニア語に似ている面を持っている。

加えて、ポーランド語にはまだ文字に特徴があります。

その一つが子音 w の多用です。
v  の音を表すのに w を使うのはドイツ語に似ていて、スラヴ系で w を見たらほぼポーランド語と言いたいくらいには特徴的なスぺルです。

もう一つが二字で一つの子音を表す綴りの多用です。
代表的なものが Szcz- で、ポーランド語を独特たらしめる要因の一つです。

これはSzシュCzチュに分解でき、それぞれ単独でも用いられます。
Szczはポーランド確定でいいと思いますし、単独で使われている時でもポーランド語の可能性を疑っていくといいでしょう。
ただし Sz はハンガリー語では s の音を表し、頻繁に用いられています。

ここまで知っていれば、ポーランド語はまず見分けられます。
文字と綴りの両面からしっかり特定できるようになりましょう。


<コラム:アクセント付き子音>

上述の通り、アキュートアクセントが子音に付いているとき、ć 以外は基本的にポーランド語確定ですが、モンテネグロ語の正書法にもこれらの文字が使われるようになったと Wikipedia には書いてあります。
正書法の改定が比較的最近で、筆者はモンテネグロでこれらの文字を見たことがないので確実なことは言えませんが、気になる情報です。

現状はモンテネグロ語の文字はセルボ・クロアチア語の標準と同じという前提で書いておりますが、もしアクセント付き子音が使われている例をゲーム内で見たことがあるなどの情報がありましたら内容を修正しますので、提供いただけると嬉しいです。

ハーチェクを意地でも使わないという気概を感じるポーランド語さん



5.リトアニア語

ここからバルト語派の言語になります。
スラヴ語派に比較的近いとされていますが、綴りが違うのでこれらの言語をスラヴ系言語と区別するのはそこまで難しくはありません。

バルト語派間の見分けについても、これから以下説明するように文字も綴りも大きく異なってくるので慣れればそこまで難しくはありません。


リトアニア語単語集

<通り> gatvė
<バス> autobusas

まず文字を見る頻度が少ない国であるうえ、文字やボラードで特定した方がマシなので、語彙として覚えるべきものはあまりありません。
gatvėg. のように省略されて書かれることも多いので注意が必要です。

リトアニア語は -as という男性名詞主格の形が特徴的です。
ただちに確定ではありませんが、例えばガソリンスタンドのタンクに書かれた butanas(ブタン)だけでもリトアニアを推測できたことがあります。

このような場合は主格(≒原形)であることが推測できますが、文章中ではたとえばラトビア語の女性名詞属格に同じ形があるため、あくまで判断材料の一つとして考えるべきでしょう。


リトアニア語の文字

リトアニア語ではスラヴ諸語と同じように čšž が使われます。
これだけでも感覚的にある程度バルト系かスラヴ系かはわかりますが、バルト諸語に関しては他の文字で見分けるのが基本になります。

ポーランド語でも使われているオゴネクがリトアニア語ではさらに頻繁かつ多様に使われており、ĮįŲųは単体でもリトアニア語確定です。

ĄąĘęはリトアニア語のほかポーランド語でも使われていますが、ハーチェクがあればリトアニア語確定なので見分けるのは簡単です。

このほかに、Ėėという文字もリトアニア語確定です。
ドット符号でありアクセント符号とそっくりなので、画質が荒い場合は他の情報も合わせて判断した方がいいかもしれません。



6.ラトビア語

同じくバルト語派の言語です。
リトアニア語とは似ている部分もありますが、使う文字が特徴的なので見た目はかなり異なっている印象があります。


ラトビア語単語集

<通り> iela
<バス> autobuss

リトアニアと同様覚えるべき語彙は多くありません。
ラトビア語は文字さえ覚えていればなんとかなる言語ですので、主格がどうこうとかあまり考えなくてもいいと思います。


<コラム:バルト語派の名詞の形>

リトアニア語は -as が特徴的ですが、-is や -us という名詞の形がリトアニア語・ラトビア語共に比較的よく見られます。

リトアニアの都市 Vilnius や Kaunas、リトアニア公国のミンダウガスやゲディミナスなどラテン語のような名詞が多いというのがバルト語派の、特にリトアニア語の特徴といえるかもしれません。

とはいえ綴りはラテン語とは程遠く、スラヴ諸語と似て非なるものという印象が強いので、スペイン語などとも間違える心配はないでしょう。

格変化するにつれ本性を現し始めるリトアニア語


ラトビア語の文字

ラトビア語でも čšž が使われています。
これはリトアニア語とも共通するのであまり重要ではありません。

まず、リトアニア語に特徴的なオゴネクは使われていません。

代わりに、ラトビア語では āēī というマクロン(長音符号)付きの母音が極めて頻繁に使われており、ラトビア語で確定です。
これは日本語のローマ字表記と同じような感じです。

ただし、ū のみリトアニア語でも用いられており、長音符号は全てラトビア語確定とはなりませんので注意しましょう。
ō に関してはラトビア語でも使われず、日本語やマオリ語などのアルファベット表記でのみ用いられるようです。

子音字についても、Ģģ, Ķķ, ĻĻ, Ņņ がいずれもラトビア語確定です。
これはもとは ç と同じセディーユ符号だったものがコンマとして表記されるようになったもので、稀にセディーユのままのフォントがあったりなかったりするみたいです。

ȘșȚțはルーマニア語確定の文字なので混同しないようにしましょう。

ラトビア語に関しては長音符号が特に頻繁に使われており、コンマ付きの子音もそれなりの頻度で見かけます。
まとまった文章中にこれらの文字がひとつも無かったらラトビア語の可能性は低いとさえ言えると思いますが、固有名詞や断片的な文章しか見えない時は、格変化などから慎重に判断する必要があるでしょう。



今回のまとめ


1.言語のグループ分けを理解しよう!

北欧の時にも同じことを書きましたが、東欧ではさらにこれが重要です。

たとえばバルト三国のうちエストニアと残り二国の間では言語的には大きな隔たりがあり、スラヴ系言語を使う国の中にハンガリーやルーマニアといった異なる系統の言語を使う国が存在しています。

クロアチア語・セルビア語・モンテネグロ語やチェコ語・スロバキア語といった近隣言語間に共通する特徴と、その中で特定の言語にまで絞り込める特徴とを分けて覚える必要があるので、それぞれの国の言語を系統立てて理解しておくことがとても重要です。

2.基本は文字体系で!

東ヨーロッパの言語の大まかな区別は文字体系によって行うのが基本です。

ハーチェク、アクセント、オゴネクに加え次回はウムラウトも出てきますので複雑ですが、これとこれの組み合わせはこの言語グループ、というような判別方法が非常に便利ですので、文字を一つ一つ覚えるというよりはまずは発音区別符号を覚えていくのもいいかもしれません。

より細かい区別のためには語彙や文法の知識が必要になります。

3.旧ユーゴは難しい!

旧ユーゴ、すなわち南スラヴ語圏は区別が極めて難しいです。

言語的にも非常によく似ていて、標識やボラードも複数のスタイルが入れ子的に国境をまたいで使われているので、難しくて当たり前です。

民族構成も入れ子的なので、国境をまたいで言語が使われていることもザラで、そういう意味でも国当てが難しいのは間違いありません。

逆に、リトアニアとラトビアなどは歴史的な関わりの深さや言語的な近さにもかかわらず、文章さえ見つかれば簡単に見分けられますので、言語で見分けられる場合と見分けられない場合がわかる、ということも東欧においては重要なスキルの一つでもあります。



ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
筆者の知識不足もあり、できる限りの調査は行っておりますが曖昧な記述も多くなってしまいました。もし誤りがあればご指摘いただきたいです。

なお、あくまでゲームの攻略情報として言語の特徴を説明していますので、言語学的には厳密でない表現を敢えて使っている箇所もあります。
明らかな事実誤認やミスリードはご指摘をいただき次第修正しますが、厳密な言語学の記事でははなくゲーム用に噛み砕かれた記事として読んでいただければと思います。

最後に、当ブログではYouTubeと連動したGeoGuessrの解説記事のほかに、解説担当のcatmanが個人的に公開している文学作品も掲載しています。
興味を持たれた方いましたら、そちらも見ていただければ幸甚です。


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