櫻坂46『摩擦係数』における、欅坂46からのブレークスルー/MV読み解き
再度、有給申請するハメになったけど、振替公演はうれしい限り。答え合わせは当日のお楽しみだけど、櫻坂も『語るなら未来を…』をパフォーマンスして、大人気なく捩じ伏せにいくのもいいなと思う。日向坂が欅の曲を…とかではなく、双方で同じ曲をやると違いがはっきりしておもしろいという興味本位で、それほど深い意味はない。そんなことより『摩擦係数』の初披露のほうが何倍も重要だ。
アトリウムと丸い部屋
文字盤は、まさに1時を告げようとしている。ガラスケースの中のメンバーが機械的に動き出し、フロアに集まって、鳩時計のように刻をつけるダンスをはじめる。巨大な振り子が揺れるアトリウムは時計そのもの。メンバーがつけている腕時計は、彼女たちを縛る規律・ルールとなり、彼女たちを規則正しく動作させる。
丸い部屋は、時計のムーブメント。最初にテーブルと食器、後半は丸椅子と小道具が変わる。テーブルと食器は、ずっとこの閉鎖空間の中で生かされているということだろう。椅子はわからないけど、座るとみんなが向かい合う形になり、相互に監視する関係を表していると考えられる。コマ送りカットも、収容所のID写真のようだ。
山﨑と森田が対峙するカットのあと、ムーブメントの動作は激しくなり、各要素がぴょんぴょん跳ね出す。それぞれの要素を暴走させることで動作不良を生じさせる。水浸しにするのも同様だ。本楽曲MVで示されたテーマのひとつである「理性」は、あくまでルールの中で時計=規律を打ち破る方法を探る。
散らかった小部屋
一人森田が佇む荒れ果てた部屋は、明るい規律の世界に対して、時が止まった忘れさられた世界。森田自身もどこか反抗的ながら消極的な態度だが、1サビでは、だらだらした足取りながらもダンスに参加し、ルールに倣う。
2サビ前に、森田がこの部屋から一歩踏み出すと、小部屋はセットであり、つくられた空間であったことが示唆される。規律やルール、秩序に対して、反抗的な態度をとってもルールからは抜けられない。反抗的なポーズをとっても状況は変わらない。もうひとつのテーマである「野生」とは、そのような規律に対する反発という図式からも飛び出したところにある対立そのものを破壊する衝動である。
薄暗い部屋
森田・山﨑を除く13人が座る薄暗い部屋。その視線の先には、これまた暗く狭いステージで踊る道化。「野生」と「理性」の象徴である森田・山﨑がいないことから、この部屋は「現実」の世界と見てよいだろう。そこで踊る道化は、反権力、秩序に対する混乱を演じているように見えるが、とてもエンターテイメントたりえず、欠伸してしまうほど、彼女たちには何ら感情の起伏を起こすものではない。
この薄暗い部屋と森田がいた散らかった小部屋こそ、欅坂が落ち込んだ闇だろう。規律・ルールがあるところで、どれだけ反抗しても、結局規律に従わなければ続けていくことができない……というのが1コーラスの解釈。世界には規律・ルールがあること、それらを守らないといけないこと。そこでもがく様は欅坂の「僕」に重なる。
明るい部屋
明るいライトボックスのステージは「僕」の中の作戦室。「野生」と「理性」の対立というよりは、共犯関係にあるように見える。「いっちょかましてやりますか」っていう悪ガキの笑み。
すでに臨界点に達した森田が小部屋から飛び出し、規律・ルールのシステムに異議を唱える。これまで未体験のブレイキンが文字通りブレイクスルーの第一歩。時計回り・反時計回りにフットワークを繰り広げ、回転方向すら単一でないことを示す。対する山﨑は、システムの内側からルールを疲弊させ無化していく。Wセンターだからこそ可能な内外からの同時攻撃。仮に田村・藤吉のダブルセンターで考えてもワクワクするし、シングルセンターでもフロントは圧倒的な強度だ。
ルールを無視したり、破ったりするのでは、結局自分に跳ね返ってくるし、自分の居場所を狭くするだけだ。そうではなく、あくまでルールの中で「このルールおかしくない?」「ルールはひとつじゃないよ」と発信し、自分の居場所を持ち続けること。
私達は、私達らしく、自由に。
実は欅坂の9thあたりから出てきた視点が、『摩擦係数』MVにおいて、ようやく可視化されてきたのではと思う。