見出し画像

夢日記

嘔吐したなかにきらと光る鍵がありました。きっとさっき、君に愛してるの言葉を貰ったからだな。私の美味しいごはんと、化学反応を起こしたんだな。でもその鍵に張り付いていたのは謎肉で、部屋には青白い真四角が光を放っているだけでした。青い吹き出しの愛してるはまだちゃんとそこにあって、食べかけのカップラーメンはとうに冷めていました。醒めていました。私が気が付かなかっただけ。げろまみれの手で、あなたにさよならを送りました。電車の音に合わせて歌ったけれど、両方から壁ドンされてしまった。魂だけで会話なんて、できっこなかったのです。私には心がなかった。
大きなぬいぐるみを持って登校して、メロンパンといちごミルクを飲んで、女の子の前でにこにこしていた。男の子の前では、地面に膝をついていた。膝にプリキュアの絆創膏を貼って、また女の子の前でにこにこしていた。私には、綺麗な空に群がるハエを追い払うことなんて出来なかったんだ。大きな手で撫でてもらえることが人生でいちばんの幸せだったから。牛乳の摂りすぎで毎日お腹を下す私のことなんて誰も知らなくてよかった。制服の染みは頑張って落としてもだんだん黄色くなっていってしまったね。見ないでほしい。見ないでほしい。本当に好きだった女の子のこと、本当に好きだった男の子のこと、私はどうにも出来なかった。なんかいつのまに時間が過ぎていて、あの子はいつのまに学校をやめていた。私は曖昧に休みがちになりながらスレスレで生きていくばっかりで、ひとりぼっちの教室に、駅のホームに、小学校の体育館に、ただおいてけぼりにされた。今までなにも変わらなかった。今までなににもなれなかった、から、夕焼けにいやな言葉ばっかり投げて、私の夕焼けを、私様に汚らしくしていた。部屋の窓が生卵の汁で埋まって、それですきだって書いたの。ばからしいでしょ。ばからしいねってあの子に、あの子に、あの娘に、あの子に、あの人に、言って欲しかった、生まれてからずーっと。見えない鎖を手探りで探していた。それはわたしをぎゅうと縛っている。
カエルが頭上を跳ぶ。いびつな弧を描いて飛ぶ。それを見あげた時、わたしは、この部屋の天井が蓄光の星で瞬いていると知るのだ。おやすみなさい。さよならよりあたたかいさよならをしよう。瞼の裏に書いたカンニングペーパーには、私の夢日記が記されていた。おやすみなさい。わたしは滑らかな画面をなぞったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?