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Column:学び直しSDGs vol.3

前回に引き続きSDGs(持続可能な開発目標)について簡単にまとめていきます。
今回は、企業がSDGsに取り組むことの意義について、具体的な取組み事例も交えて見ていきます。

SDGs達成にとって

前回も簡単に書きましたが、SDGsはミレニアム開発目標(MDGs)とは違い、あらゆる主体、特に企業の参画を期待しています。その狙いは、企業の参画による規模の拡大とイノベーションへの期待にあります。

国連からは、各国政府や非営利団体だけでなく、世界中の企業が積極的に取り組まなければ、目標の達成に十分な規模にならないとの考えが示されています。

また、現在生じている格差や気候変動、環境破壊などの問題は主に先進国の経済活動が原因となって生じており、科学技術やビジネスモデルの変革がなければ、今の企業活動は続けられないと言われています。そのため、SDGsの達成には企業によるイノベーションも必要不可欠です。


技術的なイノベーション

ICTを活用した教育や医療の質の向上や格差の是正、ドローンや無人耕作機を用いた人手不足の解消や食糧安全保障への貢献など、挙げればキリがないほどあらゆる分野で様々な技術が開発・活用されています。

また、循環型社会に繋がる技術として、オフィスで紙を再生できるセイコーエプソンの"PaperLab"やポリエステル繊維の水平リサイクルを可能にした日本環境設計の"BRING Technology"なども有名です。これらの会社はその技術だけでなく、SDGsを用いた社外へのコミュニケーションが非常に上手く参考になります。

※リサイクルには、同じモノに作り替える水平リサイクルと別のモノに作り替える垂直リサイクルがあります。水平リサイクルの方が技術的な難易度も社会的な価値も高いと言われています。


ビジネスモデルのイノベーション

また、ビジネスモデルのイノベーションも進んでいます。例えば、これまでもCSRの一環として寄付活動等を行ってアピールする企業はありましたが、それらは慈善活動という側面が強く、その分コストが増えているという場合が多かったと思います。

しかし、最近では若年層を中心に、社会課題解決に対する意識が向上しており、消費行動における「応援」という側面が強くなっていると言われています。こうした変化に伴い、これまでよりも社会課題解決型のコミュニケーションの効果が高まることが期待されます。つまり、宣伝効果>社会課題解決コストというマーケティング・ブランディングが実現しやすくなっており、企業の売上を犠牲にしない持続的なビジネスに繋がる可能性があります。

社会課題解決型のコミュニケーションの一例として、スターバックスのアニマルウェルフェアに関する取り組みがあります。スターバックスを初めとするいくつかの企業は、アニマルウェルフェアの観点からケージフリー飼育の卵への全面切替を発表しています。そのため、消費者はスターバックスを利用することで動物福祉に力を入れている畜産業者を間接的に応援することができ、消費者の利用に対する肯定感が高まります。この対応によってコストがかかるかもしれませんが、そうした姿勢を明確化することでブランディングに繋げています。また、ケージフリー飼育にコストがかかることを発信し、サプライチェーンでの持続可能性(労働環境改善など)のために適正価格で売るというコミュニケーションができれば、価格弾力性を小さくする(価格を上げても需要が下がりにくくなる)ことにも繋がるかもしれません。

※アニマルウェルフェア…動物福祉。畜産のために飼われている動物を尊重し、より快適な生活を送れるように配慮すること。ケージ飼育とケージフリー飼育のどちらにも課題がありますが、ケージフリーが潮流です。



企業にとって

続いては、企業にとっての取り組み意義について考えます。

投資家の変化

キャッシュフローや利益率などの伝統的な財務情報だけでなく、ESGの取り組みなどの非財務情報も評価しなければ企業の価値は測れないという考えが当たり前になっており、ESGを評価指標に組み込んでいる機関投資家が増えています。

また、SDGsによって課題や目標が明確化されて世界の共通認識となったことで、企業にとっては漠然としていたESGというキーワードよりも取り組みを考えやすく、かつその意義を伝えやすいというメリットがあります。


消費者の変化

すでに述べましたが、購買行動における応援という側面が大きくなりつつあり、この流れは今後ますます加速していくことが予想されます。マーケティングの対象である消費者が変わっているということは、企業のマーケティングも変えていく必要があるということです。また、SDGsは多くの人が知るようになったことで、消費者とのコミュニケーションツールとしても価値が高まっています。

また、今後は社会課題解決に取り組んでいる企業に就職したいという若者が増えてくると思われ、人材の確保に繋がる可能性もあります。


規制の変化

2030年に近づいても一向に目標達成が近づかないようであれば、各国は責任を果たすために規制や税金等の罰則を強化する可能性も考えられます。そのため、リスクマネジメントの意味でも早期に取り組む必要があるでしょう。(日本で言えば、最近「女性活躍推進法」の一部が改正され、数値目標や行動計画などの提出義務が強化されています。)

ちなみに、SDGsはいわゆる自主的な取り組みを推奨する"Soft Law"ですが、最近では規制を伴う"Hard Law"は利害関係の衝突により国際的に合意が得られなくなってきており、こうした"Soft Law"が事実上の基準(デファクトスタンダード)になっていくというのが主流のようです。そのため、自主的な取り組みだから無視してよいということにはならないのです。


企業の変化

SDGsでは、サプライチェーン全体を持続可能な状態に改善していくことが推奨されており、提携企業にも対応を求める大企業も出てきています。アメリカのウォルマートでは、2030年までにサプライチェーン全体で1ギガトンの温室効果ガス排出削減を目指す取り組み"Project Gigaton"を行なっています。

ポジティブに捉えれば、積極的に取り組んでいる企業同士では様々なコラボレーションが進んでいくともいえます。


おわりに

SDGsへの取り組みはリスクマネジメントの観点から必須であると同時に、自社のビジネスモデルの改善や新たな製品アイデアに繋がる効果も期待できます。

今回紹介したものの他にも興味深い取り組みがたくさんありますので、ぜひ調べてみてください!



参考

[1] 『SDGs入門』, 村上芽・渡辺珠子 著, 日本経済新聞出版社.

[2] 『SDGsが生み出す未来のビジネス』, 水野雅弘・原裕 著, 株式会社インプレス.

[3] 『Q&A SDGs経営』, 笹谷秀光, 日本経済新聞出版社.

[4] SDGコンパス, https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf.




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