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Insight: Will the pandemic converge?

今月の前半は、対Covid19の経口薬を特集しています。
さて、11月4日、メルクの開発した経口薬"molnupiravir"に対して、英国が条件付きの承認を付与しました。英国では、COVID-19の検査で陽性、かつ肥満や心臓病などの重篤な疾患を発症する危険因子が少なくとも1つある18歳以上の成人に対する投与が許可されます。同医薬品は、欧州、米国においても近いうちに承認される可能性が高いとされており、パンデミック収束の新たな一手となることが期待されています。

経口薬のワクチンに対するメリットは、その投与が容易である点です。特別な設備、技術はいらず、適切な診断さえできれば(それがオンラインでも)投与は可能です。このメリットは、先進国はもちろん、設備、体制が整わない途上国において、大きな効果をもたらす可能性があります。

ただ、途上国に関しては、そもそもワクチンの不平等な配分で十分な数が受け取れていない国もあります。そして、経口薬についても同じことが起こる可能性があります。そのような状況下、10月27日、メルクは、「医薬品特許プール(MPP)」とライセンス契約を結び、より多くの企業が新型コロナウイルス経口治療薬の後発薬(ジェネリック)を製造できるようにすることを宣言しました。

経済格差と流通量の関係が非常に強いと言われる対Covid19ワクチンと同じ轍を踏むことは避けられるのか。今回は、このニュースに着目します。

1. ワクチンの摂取状況

日本経済新聞社と英フィナンシャル・タイムズの集計結果に基づくと、コロナワクチンの接種回数は、2021年11月5日現在、世界200カ国・地域で累計71億3782万回となっています。

国・地域別の累計接種回数では中国が圧倒的に多く22.8億回を超えており、その次は、インド、米国、ブラジル、インドネシアと続きます(日本は6位)。接種回数の内訳を見ると、上位5位までで総摂取回数の約半分を超えていることがわかります。中国製ワクチンのやや特殊な状況があるため、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカなど、主要なワクチンに関してより詳細な計算が必要ですが、とはいえこの数字を見るだけでもワクチンの流通量の偏りが読み取れます。

国・地域別の人口100人あたり累計接種回数をみると、その順位は少し変わります。1位はUAE、そしてチリ、シンガポール、イスラエル、中国と続き、米国は欧州各国や日本、韓国よりも順位を下げ16番目です。ワクチン接種については、政治的、社会的、そして宗教的な価値観も影響し、流通量が国全体の接種率と綺麗な比例関係とはなっていない点は興味深いところです。
さらに、この人口100人あたり累計接種回数を地図上で色の濃淡で表現した場合、アフリカ大陸を中心に接種回数の低さが目立ちます。経済以外の要因が関係する一方、やはり先進国がワクチンの確保を進め、経済力に劣る発展途上国での接種が遅れている状況が垣間見えます。

2. 経口薬は平等に流通するのか?メルクの施策の可能性と留意点

この状況下、メルクは国連が支援する組織「医薬品特許プール(MPP)とのライセンス契約により、Covid19経口薬の製法を105カ国と共有することを宣言しました。

このライセンス契約は画期的であり、各企業はMPPにサブライセンスを申請することで、WHOが新型コロナのパンデミックを「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と分類している限り、その使用料が免除されることになります。
メルクは、これより前にインドの製薬8社とも個別にライセンス契約をしていました。加えて、今回のMPPとのライセンス契約に従い、この薬の製造に関心を示した企業が24社あることが明らかにされています。
製造地域、数量が拡大すれば、経済的に貧しい国と地域にも経口薬が流通する可能性は高くなります。ワクチンの流通の偏りが改善しきらない中、この動きはパンデミック収束への新たな一手となりえるでしょう。

ただ、いくつか留意すべき点もあります。
「国境なき医師団(MSF)」はライセンスの制限に、一部失望感を表明しています。その一つは、ライセンスの対象地域からブラジルや中国など一部の国を除外している点です。中国、ブラジルは、世界人口の多数を占め、かつ製造能力も高い国です。経済的な理由に加え、政治的な理由も関与している可能性は高く、経済格差への対策だけでは、世界への公平な医療提供という未来はまだ遠いようです。

出典:
日本経済新聞 Link
REUTERS  Link
New York Times  Link

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