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ブロンズ

私は市営の美術館に飾られた名も知れない一つの彫刻の前に佇んでいた。

大きさは多分190cmはあるであろうか、その彫刻は厳かな顔で私を見下ろし続けていた。

彼はブロンズでできていた。

45秒間は私を見下ろしていただろう、などと考える一方で私が彼を恭しく見上げていたとも考える。

昔、ドイツのある詩人がこんなことを言った。

「私が深淵を覗くとき、深淵がこちらを覗いている。」彼の瞳は美しく黒く、見つめているとつい暗闇にのまれてしまったような錯覚に陥る。

苦しみに悶えたこの私を、じっと物言わず見つめる彼を見上げ見下ろされる。

あまりこれ以上見ないでおこう。

そう思い私はこの彫刻を離れた。

彼は私がいたところを見つめ続ける。

最後のセミが鳴いた。


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