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【読書】必ず描く意志【八月】

今月は二冊読んだ。

なかなかのサボリ具合である。

読みかけの本はいくつか……。

今月読んだ本の感想は書くぞ!!

尾崎翠「第七官界彷徨」

この本を読んだきっかけは、私の大大大好きな漫画家、須藤佑実先生の「夢の端々」に出てきたからだ。
須藤先生の好きなところならメチャクチャ語れる……と思ったので別の機会に話したい。

第七官界彷徨。
尾崎翠。
すでにタイトルと筆名が、キィンと冴えた氷のようで言葉の美しさに圧倒された。


私はひとつ、人間の第七官にひびくような詩を書いてやりましょう。そして部厚なノオトが一冊たまった時には、ああ、そのときには、細かい字でいっぱいの詩の詰まったこのノオトを書留小包につくり、誰かいちばん第七官の発達した先生のところに郵便で送ろう。…

尾崎翠「第七官界彷徨」10頁

「人間の五官と第六感を超えた感覚に響くような詩を書きたいと願う」少女の町子が主人公の小説。(あらすじより引用)

町子は一助、二助、という二人の兄と、三五郎という従兄と一緒に住んで、炊事係をしている。
一助は分裂心理学の医者、二助は蘚苔類の研究をする学生、三五郎は音楽学校受験を控えた浪人生。

全く異なる分野を突き詰める人たちに見えるが、彼女たちの会話を見ていると、全員が一つの方向性を持っているように感じる。

それは、あやふやで分からない、つかめそうでつかめない何かを想い、一途な一方方向の気持ちを抱いているところである。

町子は第七官にひびく詩を書いてやろうと思っているが、その第七官という者の正体は分からない。
一助は努めている病院の患者の女性に思いを抱いているが、他人の心を深く考えすぎてしまうがために、分裂心理学の理論にどんどん陥っていく。(ちなみに、分裂心理学と言う言葉は作者が考えたらしいです。)
二助は夜な夜な実験をして論文を書く真面目な学生だが、論文には恋をしたときの感情がにじむ。彼が本当に解き明かしたいものは何なのか。

私が特に好きなのは三五郎だ。
浪人生である彼は、試験のための分教場も休んでしまうときがあるし、何かと理由をつけてピアノに手を付けられないでいる。
「受験生のうらぶれた心もち」という表現がされるが、本当にその通りな人物だった。
やるべきことは分かっているのにできなくて、なんとなく人には優しくしたくて、毎日苦しい。
浪人生として実際に「彷徨」しているからこそのやるせなさがある。
しっかり共感してしまった。

関係ないけど小説に出てくる浪人生で真面目に勉強に打ち込んでいる人ってあんまり見ない気がする。(あるとは思うけど。)

全体を通して、つかめないものに手を伸ばす、ちょっとさびしさを感じた小説でした。
また読みたい。感想が変わっているかもしれない。

大前粟生「死んでいる私と、私みたいな人たちの声」

どんな話かというと、幽霊の窓子(まどこ)は高校生の彩姫(あやき)とともに、夫のDVによって痛めつけられている人を救う。
窓子が強大な呪いの力で男を壮絶に殺すのだ。

読んでまず感じたのは、「これを描く」という作者の強い信念だった。
痛めつけられている人たちの声を小説の形で表す。
作中ではDVを受けている女性の視点での描写があり、男の恐ろしい支配の手にぞっとして体が冷えていくような感じがした。
被害を読者の眼前に差し出すだけではない。
被害者を何とか現実的な形で救いたい。
そんな強い意志があったから、本作は独特な構成になっている。面白くしようとしたからこの構成になったのではなく、救いたいという意志があったからこんな面白い構成になったのだと感じる。
ネタバレになるから言わないけれど、ミステリー小説で思いもよらぬトリックに遭遇したときのような驚きがあった。

窓に映った自分自身を見たことがあるだろうか。
多くの人に経験があるだろう。
電車の中で、部屋の中で、ビルのガラスに。
他人みたいな存在感のある自分から何を感じるか。その人に何を見出し託すのか。
大前さんの視点は鋭く、身近な世界に救いの糸口を見つけて、それをつかんで離さない。


十代のある一時期を共にした人として、思い出すことでようやく友だちだったなってわかるような関係かもなって私は、勝手にもう人生を知ってるみたいに虚しかった。

大前粟生「死んでいる私と、私みたいな人たちの声」156頁

この表現がすごく好きだ。
そのときに友だちって言いきれない人や関係があるよな……と思った。
他にも大前さんの視点から見る世界、それも細部で小さなところがとてもいいと思った。

読んでよかった。

以上!

九月もなんやかんや忙しい。
ここに書けるくらいは読みたいものだ……。

読んでくれた方はありがとうございます。
また来月~。

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