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実は嘘!?真実を告げる「事典」に潜む穴―音楽事典の虚構記事


コロナでばたばたしている4月。エイプリルフールも自粛の流れでしたね…

さて、コロナで暗いムードの中だからこそ、今回の記事では少し面白いネタをご用意しました。
タイトルの通り、「事典も嘘をつく」について!


虚構記事

みなさんは「虚構記事」についてご存知でしょうか?
 (虚構新聞ではないですよ~!)

虚構記事とは、事典、辞典などが、本当は存在しないものなんだけど本当に存在するもののよう書いた記事のことです。
そう、なんと真実を使えるはずの辞典や事典に載っている嘘の記事のことなです!!

[豆知識]
事典…事物や事柄の内容を詳しく説明したもの。「ことてん」
辞典…言葉の意味や文法用法を記したもの。「ことばてん」


虚構記事は、ドイツ語で”Nihilartikel”(ニヒル-アルティーケル)と呼ばれます。英語では、ドイツ語をそのまま借用し”Nihilartikel”と呼ばれたり、
”Mountweazel”や”fake entries”と呼ばれたりします。

英語の3つの単語のうち、どれが最も使われているのでしょうか?
一つの考えとして、Google検索でヒットする件数が多いものと考えられます。実際に検索したところ、以下の件数となりましたので、ひょっとしたら一番使われているのは”fake entries”かもしれません。(もちろん違う意味で使われている可能性もありますが…。)
 ・”Nihilartikel” 約 13,400 件
 ・”Mountweazel” 約 38,400 件
 ・”fake entries” 約54,900件


虚構記事の意義

「なんでそんな嘘の記事なんて載せるの?」と思うかもしれません。私も初めて知った時は、そう思いました。「ほんとは存在しないもの・ひとの項目があるの?うそでしょ?」と…。

実はこれは、著作権侵害やコピペ防止のために行われている、とても賢い方法なのです!


昔、まだネットがないころ、辞典や辞書をせっかく頑張って書いてまとめて編集して出版したのに、ほかの会社やほかの人にまるまるコピーされてしまうこともありました…。そんな時、「これはうちのだ!勝手にコピーして使うな!」と主張できるようにと、虚構記事は故意に入れられたのです!

そう、本当は存在しないものについて書いた嘘の記事ですから、その会社のその辞典しか載せているわけがないのです。

なんて賢い、なんて巧妙な仕掛けなのでしょう…。脱帽です。


虚構記事の具体例

そんな虚構記事にはどんな項目があるのか?
その問いへは、音楽に特化してお答えしましょう。

音楽辞典として特に有名なものは、以下の3つ。
このうちの3つ目の『ニューグローヴ音楽大事典』の虚構記事をご紹介します!


1. ドイツの通称"MGG"こと、『音楽の歴史と現在("Die Musik in Geschichte und Gegenwart")』(ベーレンライター社)

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(ベーレンライター社、MGGの紹介ページ)


2. 日本の『音楽大事典』(平凡社)

平凡社

(平凡社、音楽大事典の紹介ぺージ)


3. アメリカの『ニューグローヴ音楽大事典』(マクミラン社→オックスフォード大学出版局)

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(Wikipedia: 「ニューグローヴ世界音楽大事典」)


この最後のニューグローヴの1980年版には2つの虚構記事が載っていたことが分かっています。

ひとつ、
  イタリアの実在しない作曲家「グリッエルモ・バルディーニ」(Guiglelmo Baldini)

ふたつ、
  デンマーク出身の実在しない作曲家「ダグ・ヘンリーク・エスロム=ヘレロプ」(Dag Henrik Esrum-Hellerup)


二人の記事の内容は、著作権侵害になってしまうので全文を載せられません…。
そのため、ぜひ事典の原文にあたっていただきたく存じます。
とても詳細に書かれており、すごいなぁ、と思えることでしょう!

ただし、日本語版では、編纂の時にはすでに虚構記事の存在が周知されており、その記事は慎重に取り除かれたとも言われております。



まとめ

今回の記事では、著作権侵害を早期に確実に発見するために故意に掲載される「虚構記事」について紹介しました。

いつの世も、真実の情報を得るためには、(原典にあたるだけでなく、)いくつかの信頼できる記事を比較することが大切なのですね…



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