モロッコ旅行記⑤ 3日目「マラケシュの路地散策」その2
「マラケシュの路地散策」その2
知れば知るほど面白い、マラケシュ文化。
気付けば最初の目的地がどこだったかも忘れて、夢中で路地裏散策に明け暮れた。
マラケシュの町を飾るアーチ型の門には、気が遠くなるほど精緻な彫刻がほどこされている。
中には、コーランの経文を模様化した彫刻もあり、その一刀一刀からは、深い信仰心が感じられる。
アーチの奥では、シルクの糸(サボテンの繊維)の一端を柱に結びつけ、長々と三つ編みのようなものを編んでいる男の人たちがいる。
ジュラバの装飾に使うための糸を編んでいるという。
職人たちの優れた技術
路地裏のあちらこちらで、たくさんの職人が手仕事をしている。
ぐっと集中したその顔つきには、国を問わず、惚れ惚れとさせられてしまう。
屋上にサボテンが生えている。
「あれはお金持ちの家。窓からはアトラス山脈が見えると思うよ」とおじさん。
パン屋も見学させてもらった。
モロッコ人の主食はパンで、各家が共同でカマドを持っている。パン屋はそのカマドを使い、各家のためにパンを焼く。パンは平たい円形で、表面に小さな穴がいくつか空いている。フォークでつけたような穴だ。穴の数で、どの家のパンかが分かるのだという。
また、パンには小さいものと大きいものがあり、小さいものは一人用、大きいものは家族用なんだとか。
路地裏には、あちこちに小さなモスク(イスラム教寺院)が点在している。モスクの中には、2~5歳の子どもたちがコーランを学ぶ教室や、5歳以降の子どもが通う学校などがある。
写真は、コーラン学校の入り口。壁には子どもたちのやる気を起こすため、人気の絵が描かれていたりするというが……これは載せちゃっても大丈夫かしら!?(笑)
実はカメラが壊れているという裏話
ところで、今回持って行ったカメラだが、実は旅行の直前から調子が悪く、モロッコに到着したその日からまともに動かなくなってしまった。頑張っても、なかなかピントが合わないのだ。
どうしても撮りたい風景は、ピントが合うまで粘り、友人にはずいぶん足止めをさせてしまった。
記録写真の意味合いが強いので、ここではピントの甘い写真もたくさん載せていますが、どうぞご容赦ください。
薄々気づいていたおじさんの正体
さて、ハマムの予約時間が迫ってきた。楽しかった町の散策もそろそろ切り上げなければならない。
……というところで、問題が発生。
薄々と気づきはじめてはいたのだが、このおじさん、実はモロッコ名物の偽ガイドというやつだったのだ。
最初に「ガイドはいらない」「ガイドじゃないよ。お金はとらない。英語の勉強がてらに案内してあげる」という会話をしていたのだが、モロッコにはそう言いながら最終的に金銭を要求してくる調子のいい偽ガイドがわんさといるのだ。
案の定、「用事があるので、そろそろ行かなくちゃいけない」と告げた途端、おじさんは「プレゼントをくれ」と手を差しだしてきた。
ちょっと悩んでから、友人がお菓子とペンを渡すと、「娘が喜ぶ」とそれをいそいそと懐にしまう。
これで回避できたかと思っていたら、おじさんはにこりと笑って、「1人300DH(約2900円)でいいよ」。
ああ、やっぱり……。
最初に「お金はとらない」と言っていたにもかかわらず、これだ!
とはいえ、こればかりは「騙されるのが悪い」というやつなのかもしれない。
ガイドブックにもちゃんと「偽ガイドには気をつけろ」と書かれている。
なにより、友人と私の2人だけではとても味わえなかったろう、素晴らしい経験をすることができたのも確かだ。それを思えば、高い値段でもないだろう。
……と、素直に払ったりしたら、ますます偽ガイドが増え、のちのちの観光客の負担になってしまう!
約束は約束。無料といったら無料。
そんなわけで、友人と私は、周囲の人々が「なんだなんだ?」と見守る中、ハマムの予約時間が許す限りでおじさんと口論をしたのだった。
結果的に、さすがはおじさんの方が何枚も上手だったため、無料とはならず、2人で200DHを支払った。
最初の言い値が、1人300DHだったことを考えれば、まずまずの結果か。
眉間に皺を刻み、大げさなジェスチャーで怒っていたおじさんは、200DHを受けとったとたん、ふたたび上機嫌に。
無精ひげのじょりじょりほっぺを差しだし、「さあ、お別れのキスをくれ」とせがんでくる。こいつめ。
しかし、交渉はもう終わったのだ。終わったのなら、あとはぐちぐち言わず、笑顔でお別れする……それがひとさまの国で観光させてもらっている人間のマナーだろう。
笑顔で「シュクラン」を言う私たちに、おじさんもニコリと返し、待たせてあったタクシーに私たちを押しこんだ。
なんやかんやで、愉快なおじさんだった。
言いたいことは山ほどあるけれど、なにはともあれシュクラン!
魅惑の高級ハマムで貧血
思いのほか路地散策に時間を食ってしまった。
ハマムの予約時間は15:00。現在の時刻、14:30。お昼ごはんもまだ食べていないが、ちょっと時間が厳しい。
さらに悪いことに、タクシーの運転手がハマムの場所を知らなかったため、途中下車して、そこから地図を頼りに髪振り乱して全力疾走するはめに。
15:02、息せき切ってハマムに駆けこんだ。2分の遅刻は日本時間ならアウトだが、ここはモロッコ。間にあった、と主張してもいいのではなかろうか!
しばらく休憩してから、高級感たっぷりな宮殿風の廊下を案内される。
早速、トンネル型の暗いサウナのなかに放りこまれ、寝そべった全身にオイルや泥を塗られたり、巨大ビニールに巻かれたりする。
そこで私は、サウナの蒸し暑さと、空腹と疲労とで、見事に貧血を起こし、大柄な係員の女性に両脇を抱えられて、休憩室まで運ばれるはめになってしまった……まことに申しわけないことです。
その後、元気になったところで、全身マッサージ。
香ばしいオイルの匂いに、いつしかうとうと……すっかり気持ちよく眠ってしまったのだった。(500DH。約4800円)
ランプ工房で愛のプロポーズ!?
約1時間のハマム体験を終え、とろんとした夢見心地な気分のまま、ふたたびマラケシュ探索。
途中で道を訪ねながら、目指すは「バヒア宮殿」。
が、ガイドブックでは17:30に閉門と書かれていたのだが、行ってみると、16:30なのにすでに閉門していた。
門の前には、無念に打ちひしがれる欧米の観光客たち。残念無念。
ところが、宮殿近くに素敵なランプ工房を見つけ、思いがけず楽しい体験をすることに。
工房だからか、売られているランプの価格が、スークよりもはるかに安い。
手のひらサイズの小型ランプなら40DH(約380円)、一抱えもある大型ランプなら120DH(約1100円)。
大型のランプなんてどうやって持って帰るのだろう、と思いながらも、無類のランプ好きだったもので、悩んだ末に購入してしまった。
アラビアン好きがこの工房に来て、なにも買わずに帰るなんて、そんなことができるだろうか!?
工房にいた老年の職人の息子らしき少年。
「その青いガラスがはまったランプ、枠が銀色のじゃなくて、黒いのはないか」と訊いたら、「塗ればいいよ」とその場ですぐに塗ってくれた。
イヤホンで音楽を聴きながら、丁寧に銀の枠を黒い塗料で塗っていく。
その間、少年の友人から、いきなりプロポーズされてしまった。
「結婚して、一緒にワルザザードに行こうよ!」
知りあって10分ばかり。「I Love you. marry me, OK?」という英語は、聞きまちがいなどありえないほどに簡単。
うーむ、モロッコ人は外国人を見ると、すぐに口説いてくるとは聞いていたけれど、こんな少年でもそうなのだなあ、と思わず笑ってしまった。
こちらも簡単に「No」で答えると、少年はすぐさま友人にもプロポーズ! この浮気者めー!
のちに合流したガイドさんいわく、口説いてくる理由は、「(2011年当時の価値観で)裕福とされている日本に行くため」なのだそう。
日ごろ、口説かれ慣れていない日本人の中には、その大胆さにコロリとやられてしまう人もいるそうで、ガイドブックでも注意喚起がされていた。
マラケシュ最後の夜はタジン鍋
その後、メディナに戻って、ジャマ・エル・フナ広場で、絞りたてのオレンジジュースをいただく。(10DH。約100円)
空腹が限界に近づきつつあったので、ホテルの夕飯はあきらめ、前日に昼食を食べたカフェの3階でタジン鍋を食べることに。
ノンアルコールビール。なぜかトマトの味がした。
タジン鍋。空腹だったこともあり、ただでさえ美味しいのに、ことさらに味わい深く感じられた。
気づけばすっかり日も暮れ、夕闇の中にアトラス山脈の影が浮かびあがっていた。
クトゥビアから流れるコーランの声に耳を傾けながら、マラケシュ最後の夜を楽しむ……。
そういえば、例の偽ガイドおじさん曰く、クトゥビアが音声を流すのは目の不自由な信者のため、また、夜になるとクトゥビアの窓に灯が点るのは、耳の不自由な信者に祈りの時間を光で知らせるためだという。
イスラム教はひとに優しい宗教なのだ、と体感する。
さあ、明日はようやく日本語が喋れるガイドさんと合流しての「要塞の村アイト・ベン・ハドゥ」を巡る旅だ!
次回予告
モロッコ旅行記⑥ 4日目「要塞の村アイト・ベン・ハドゥ」
マラケシュの赤い町並みを後にし、四輪駆動車が一路、アトラス山脈を横断する。
向かうは、「グラディエーター」などの映画でもおなじみの要塞都市「アイト・ベン・ハドゥ」。
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