モロッコ旅行記⑨ 6日目「サハラ砂漠の日の出」
サハラ砂漠の日の出
日の出前の5:30に起床し、いそいそと防寒具を着こむ。
オーベルジュを出ると、まだ夜空には星がまたたいていた。だが、青い砂漠にはすでに無数の人影がある。
目的は同じ。砂漠から昇る日の出を、砂丘の頂きから拝むためだ。
まだしっとりとした砂を踏んで、目の前に立ちはだかる巨大な砂丘を目指す。
私たちはガイドなしの徒歩だったが、ガイド付きで団体で砂丘を登る人や、駱駝で砂丘の奥を目指す人たちの姿も見られた。
砂の絶壁
目の前に立ちはだかる砂の絶壁。
思った以上の急勾配で、一歩登るごとに息が上がる。
オーベルジュを出たときには寒さを感じていたのに、斜面を登るうち、着こんだ防寒着がうっとうしく感じられるほど暑くなってきた。
空は青さを増してきたが、砂丘の影に入ると、視界はいまだ驚くほど暗い。
壁のように迫る斜面。
登れど登れど、砂が崩れて足が滑る。
靴の中はあっという間に砂だらけになり、斜面の途中で「これ、登りきれるか!?」と不安に駆られた。
見ると日本人の年輩の女性が、連れの人に支えられながら、苦労して斜面を登っているのが見えた。大丈夫だろうかと心配になりつつ、自分もまったく余裕がない。
砂丘の頂きから日の出を拝む
日の出が間近に迫り、ようやく砂丘の頂きが近づいてきた。
違うツアーのベルベル人ガイドさんが手を貸してくれた。山頂間近のきつい急斜面を、半ば引きずりあげられるようにして登りきる。
「シュクラン」と、息を切らしながらお礼を言い、顔を東に向けたとたん、目の前に雄大な砂漠が広がった。
それと同時に、ぞくりと足がすくむ。
山頂は見事なまでの三角形で、背後も急斜面なら、すぐ眼下もまた急斜面だった。足を滑らせたら、麓まで一気に転げ落ちてしまいそうだ。
怖いので、立っていられずに、山頂に座って日の出を待つ。
疲労でぼんやりしていると、近くで歓声が上がった。
あわてて声の方を振りかえった瞬間、砂丘の黒い影から、突き刺すような太陽の光があふれでてくるのが見えた。
暗かった世界が、あっという間に真っ赤に染まった。
朝のメルズーガ大砂丘を探検
日が昇ると、忙しい団体行動中の方々は、あっという間に砂丘を降りていってしまう。
二人でぽつんとたたずんでいると、先ほどのガイドさんが「あっちの砂丘から回って帰るといいよ」と勧めてくれた。
友人と二人で、静かな砂丘の尾根に足跡を刻んでいく。
これは、先客の足跡。鼠のものだろうか?
砂丘の尾根は、驚くほど鋭角的。歩いて崩してしまうのがもったいないほど美しい線だ。
風が砂が吹き寄せられ、この三角形を作ったのだと思うと、その不思議さに胸が熱くなる。
昆虫がいた。詳しくないけれど、多分スカラベ(ふんころがし)。
じっと見ていると、人間の目に気づいたのか、全身をネジのように回転させながら砂に潜っていく。
砂を踏む音が耳に心地よい。尾根を踏むたび、あのきれいな三角が溶けるように崩れていくのが面白くて、夢中になって観察する。
崩れる時にほんの一瞬、ざざざ……と雪が崩れるような重たい音がするのが、また面白い。
そういえば知りあいのおじさんが、「砂丘のてっぺんで小便すると、砂が水分にくっついて、ころころした玉になって転がり落ちるんだよ」という話を嬉しげにしていたのを思いだす。
小便はさすがにできないけれど(笑)、ころころと砂が玉になって転がるさまは見てみたい。
ペットボトルの水をほんの少しだけ尾根に垂らしてみる。
すると確かに小さな砂の球体が無数にできて、ころころと斜面を転がり落ちていった。
直径5mmほどの、本当に可愛らしい、雪だるまならぬ砂だるま。
砂丘の尾根のこちら側に身を伏せて、あちら側を撮影してみる。
とても面白い写真ができた。楽しくて楽しくて、なかなかオーベルジュに帰ることができない。
しんと静まり返った砂漠に、ざくざくと砂を踏む音だけがする。
雪の日のように、音は砂に吸収されて、辺りに響くことがない。
砂には、風によってできた模様「風紋」が幾重にも刻まれている。
ペットボトルの水を飲もうとしたところで、どこからともなく「ぼー」という低く響く音が聞こえてきた。
なんだろうと思っていたら、ボトルの口を、風が流れてくる方角に向けたときに鳴る音だった。即席の笛のできあがりだ。
なんという光景だろう。
青色、オレンジ色、黒色が、驚くほどくっきりと色分けされている。
絵具をとことん厚塗りした、なにかの抽象画のようだ。
写真にたまたまそう写ったのではなく、この光景が、まさに目の前に広がっている。
ここはいったいどこなのだろう。頭が混乱してくる。
鼠のものらしき足跡をふたたび発見。
鼠の側に、別の大きな足跡があったりすると、「ああ、この鼠は食べられちゃったのかな」と昨晩起きた出来事が頭に浮かんできたりする。
砂漠の生物は夜行性だ。暑い時間帯を避け、涼しくなってから、砂や茂みから顔を出して活動を再開する。
私はベルベル・アルバイトです
オーベルジュの場所が分からなくなってしまった。
いくつか似たような宿がある上に、迷宮のような砂丘の中を歩きつづけたため、すっかり方向感覚を失ってしまった。
しばらくすると、ベルベル人の象徴である真っ青な民族衣装をまとった男性が、砂丘の向こうから姿を現した。最初に「あっちから回って帰るといいよ」と言ってくれたガイドさんだろうか?
「迷ったの? ついておいで」
案内を買って出てくれた。ありがたい。
無事にオーベルジュが見えたところで、ベルベル人の男性、よいしょと砂の上に腰を下ろす。
バッグを開けて、化石や、石でできた駱駝の彫刻などを砂に並べていく。
「ベルベル・アルバイト」とにっこり笑って、商売開始だ。
あんまりに無邪気に笑うので、こちらまでおかしくなる。
あいにくお金は、ディラハムではなく、ドルしか持っていなかったのだが、驚くことに「ドルでいいよ」。
そこらの店ではドルは使えないことが多いのに、まさかサハラ砂漠のど真ん中でドルが使えるとは!
私は、父へのお土産に化石を、友人は駱駝の彫刻を買った。おまけもくれて、お互いに満足満足。
オーベルジュでの朝食
無事にオーベルジュに戻ると、ちょうど朝食の時間。
当たり前だけれど晴れているので、オーベルジュの前に出されたテーブルで食べることにする。
基本的に、朝食はパン。
可愛い小皿には、ジャムやヨーグルト、オリーブなどが盛られている。
静かな砂漠を眺めながら、のんびりと朝食をもしゃもしゃ。
また、雀らしき鳥が近寄ってきた。
雀よりも少しばかり大きいけれど、なんの鳥だろう?
10:00までに荷造りを済ませ、楽しかったオーベルジュを後にする。
ここからは駱駝に乗って、駱駝ガイドの引率のもと、サハラ砂漠を散策する旅に出る。
関連書籍のご紹介
モロッコ旅行で使用したガイドブック「サラムモロッコ」です。
ともかく写真が可愛く、デザインもおすすめ。一冊持っていると、モロッコ旅行が楽しくなる。
2011年時に旅行をした際には、2008年版を使用していたが、2018年版も出版されているようなので、ぜひご一読を。
次回予告
モロッコ旅行記⑩ 6日目「サハラ砂漠のらくだ旅」
次回は、駱駝にまたがり、サハラ砂漠をのんびり散歩する。
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