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【怪奇ファイル004】ヴォイニッチ手稿解読チャレンジの話

 その日も私は朝からパチ屋に来ていました。まだ開店前なので店には入れません。だから今から行列に並ぶことになります。やはりパチ屋に並ばないと一日が始まりません。夜が明けないです。パチ屋に並ぶ前は前日です。

 つまり。並ぶ前にご飯を食べたらそれは前日の夕食です。並んだ後に食べて始めて朝食となります。夕食だったら豪勢に行きたいところ。牛丼かカレーがいい。サンドイッチは嫌です。軽食なんてまるで朝食じゃないか。

 と私は相棒に力説していました。要は。行列に並ぶ前に朝食を食べるわけですが、『何を食べるか?』の相談をしていました。相棒が二人いまして。二人が『朝はサンドイッチ』と言ったのであわてて反論しています。

 ここで問題は。相棒が『二人』いること。我々は全員で三人です。つまり。2対1だと多数決で負けてしまうのです。日本は多数決ですべてが決まる国です。法律もコンテストも勝敗は多数決です。よってこのままだと私が負けてしまいます。

 しかしながら。サンドイッチは食べたくない。理由はずっと前からいろんな場所で言ってきましたが。『マヨネーズが嫌い』だからです。子供のころからマヨネーズを食べるとゲロを吐いてました。実は大人になった今なら食べられますがトラウマがあるから出来れば避けたいです。

 食べようと思えば食べられます。お腹がすいてそれしかないなら食べます。食べたこともあります。もうゲロは吐きません。マズくもないです。でも嫌な気持ちになります。昔を思い出して気持ち悪いです。

 だから私はこの場を借りて皆様に言っておきたいことがあります。『食わず嫌いを面白がって食べさせようとしないでください』と。

 『食べたら美味しいのに。いいからちょっと食べてみて』と思っている人もいるでしょう。そして実際食べることは可能です。しかしあなた方には理解できない不快な気持ちになるのです。『美味しいか美味しくないか』の次元じゃありません。

 と最初に言ったら『マヨネーズ抜いてもらえば? じゃあ店に入ろう』と言われました。来ました。一番言ってはいけないセリフ。だって損してるじゃないですか。

 『マヨネーズを入れて完成』とシェフが判断したものからマヨネーズを抜いたら未完成品です。それはすでに『美味しくないもの』と化しました。そこに正規の値段を払って食せと申すのですか。あなたはヒドイ人だ。

 そんなヒドイやつらの来世はきっと兵隊アリです。人間に騙されて『アリの巣コロリ』を巣に運んで仲間を根太やしにすることとなるでしょう。

 でもそんなことはさせない。だって大事な仲間だから。悲惨な来世が待っている二人を見殺しに出来ません。ここは何としても朝食にサンドイッチを食べることを回避しなければならない。それが出来るのは私だけです。


 そういえば。遅れました。私の二人の相棒を紹介します。酒吞童子一派のパチスロ部隊に配属されている私ですが。最初は棟梁と二人で行動していました。それが先日コンビ解散となりました。

 解散理由は『音楽性の違い』です。と言いたいところですが。ここではっきり申し上げておきますと。我々はロックバンドではありません。行動理念に音楽性は関係ないです。

 よって別の理由となります。それは果たして何なのか。謎は深まるばかり。でも大丈夫。私が答えを知っています。その答えとは。棟梁が開店待ちでお酒を飲むことです。

 法律でパチ屋での飲酒は禁止されています。お酒を飲まれてのご遊戯はご遠慮ください。つまり棟梁はパチスロが打てません。いつも開店後に帰ります。そのくせ「今日何打つ?」とか聞いて来ます。

 それで。ついに「並ぶ意味がないこと」に気づきました。「10万勝ったら自動で部屋中動き回る掃除機を買おう!」とか考える意味が無いです。だって打てないから。勝つことがないです。

 でも実はそれはあんまり関係ないです。棟梁はパチスロにそんなに興味ないです。『毎日暇だから並ぶだけでも楽しい』と言っていました。『酒が飲める口実があれば何でもいい』らしいです。

 それより問題は。行列待ちで私が「サウンドオブミュージック」のサントラを聴いていたら「男ならロックを聴け」と言われて口論になって仲が悪くなりました。それから棟梁はパチ屋に来なくなりました。つまり解散した理由は「音楽性の違い」です。

 しかしながら。一人になってしまった私は朝起きれません。誰かに起こしてもらわないと行列に並べないのです。だから代わりにやってきたのが今の相棒の二人です。今後しばらく我々はスリーマンセルで動くこととなります。


 それでは相棒の紹介です。一人目は「妖怪肉団子ちぎり」です。江戸時代に生まれた妖怪です。夜みんなが寝静まった頃に枕元で肉団子をちぎる妖怪です。閉店まで打った日によく家に泊まりに来ますが、私が寝た後に枕元で肉団子をちぎっています。

 妖怪肉団子ちぎりは夜寝ないので朝は必ず起こしてくれます。チームのかなめとなる存在です。夜寝ない代わりに昼間パチスロを打ちながら居眠りして店員に起こされています。

 二人目は「妖怪けしからん」です。けしからん格好をした女妖怪です。年齢不詳です。私よりは上でしょう。それどころか妖怪肉団子ちぎりよりも上くさいです。

 おそらく生まれたのは仏教伝来の前だと思います。「仏教? あの新参か」みたいなことを言ってました。卑弥呼辺りと同世代かもしれません。聖徳太子や中大兄皇子よりも上です。まぁ女性の年齢を詮索するもんじゃないです。

 それで。問題のけしからん格好ですが。GジャンとTシャツと膝が見えるひらひらスカートをはいています。背伸びをするとおなかと太ももが見えます。頭にサングラスも乗せています。

 要は。80年代ロックです。スージー・クアトロとピストルズが好きみたいです。私が「サウンドオブミュージック」のサントラを聴いていたら「男ならロックを聴け」と言いますが、前に同じことを言われたのでもうあんまり腹が立たないです。

 それで。二人とも妖怪です。しかしながら。毎回フルネームで呼ぶのは大変です。「妖怪肉団子ちぎりちょっとこっち来て!」「えっ!なになに!」みたいな会話をあんまりに人に聞かれたくないです。仲間と思われたくないです。私にも多少は世間体があります。

 だから我々はコードネームで呼び合っています。妖怪肉団子ちぎりは『ダンキチ』です。『妖怪けしからん』は『ランコ』です。名前からとりました。

 そして私は『ヴォイニッチ』です。意味は分からないです。私のコードネームを決める会議でダンキチが『ヴォイニッチ……』とボソッと言ってランコが『それだっ!』と言いました。決定です。

 『ヴォイニッチって何?』と聞いても目を合わせてくれません。もう一回『ヴォイニッチって何?』と聞いたらダンキチが『明日新装あるな……』とボソッと言ってランコが『それだっ!』と言いました。

 なので今度はランコに『ヴォイニッチって何?』と聞いたら『知らねえ』と言いました。知らないみたいです。もう一度ダンキチに『ヴォイニッチって何?』と聞いたら部屋から出ていきました。

 なので理由もわからず私はヴォイニッチです。今の気持ちを正直に申し上げますと『納得いかない』です。かっこいいのかバカにされているのかもわかりません。腹が立ったりはしませんが気持ち悪いです。

 しかしあきらめるしかない。きっと知らないまま忘れてしまうのでしょう。なぜなら世の中には判明していない謎がたくさんあるから。イースター島のモアイ像やナスカの地上絵などです。

 そして『ヴォイニッチ手稿』もその一つです。イタリアで発見された未解読文字による古文書です。というかコレやん。見つけました。ダンキチがさっきまで使っていたPCの履歴を見たら『ヴォイニッチ手稿』のページでした。

 ちょうどいいタイミングでダンキチが帰って来たので『ヴォイニッチ手稿……』とボソッと言ったらビクッてしました。ビンゴです。

 つまり私はヴォイニッチ手稿の解読に成功したのです。100年間誰も解読できなかったオーパーツを。まさかスロニートの私が。凄いと思う。


 でもそんなことはどうでもいいです。問題は朝食です。サンドイッチは食べたくない。カレーか牛丼にしたい。ホントは朝から牛丼も嫌ですがサンドイッチよりマシです。

 よって。ここはカレーで攻めることにします。『牛丼かカレー』よりも『カレー』に的を絞った方が精度の高い迎撃が可能です。コレが俗に言う『戦力の一点集中』です。

 麻雀で言うと。チャンタが近くて一通も見えてて赤ドラもまだあきらめてない。みたいなことをやってると気づいたらフリテンになってます。みたいなやつです。そうなの? 知りません。

 とにかく。突破口が見えました。『イチローは朝からカレーを食べますよ』と言ってやりました。イチロー全盛期のこの時代にイチローの話題を持ってきて負けるわけがない。私は勝利を確信しました。

 するとランコが『メニューにカレーパンがあるからカレーパンにすれば? じゃあ店に入ろう』と言いました。だから店に入りました。

 だって朝からカレーライスは重いです。朝はパンとコーヒーぐらいにしておくのがナウなスロッターの朝食です。

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