Can’t Keep Runnin’ Away

まず最初に言いたい事は僕はもう既にベロベロである。

約1ヶ月ぶりに酒を酌み交わし、そしてそれが気心の知れた友人達とであったから酔っ払ってしまった。

孤独にはもう慣れたこの頃であった。僕自身の不埒な誠実さが引き起こした様々な人達との別離が、僕の心の傷を突き刺すのでは無く、後悔のみを残して繊細にその傷に時折触れるだけになった頃である。

馴染みの喫茶店の店主が、偶々下北沢に居合わせた僕を誘ってくれた夜であった。

僕は人と語らい合うことが出来る喜びに大いに舞い上がり、帰路に着く。そうして、僕の酔いがもたらした睡魔は僕を最寄駅の一駅先まで運んだのであった。

寝過ごした。絶望の最中、電動レンタサイクルを見つけ、少し安堵し江戸川を越えようとペダルを押す。

そうして僕のイヤホンからはThe PharcydeのRunnin’が流れていた。

“Can’t Keep Runnin’ Away”と永遠の様に繰り返すそのリリックは嫌に耳に残る。

僕があの子と一時の迷いで別れてしまった事、あの子は僕を本当に愛してくれていた事、僕自身がその幸せを認められずに投げ捨ててしまった事、そしてそれを悔やみながら何もかももう既に戻らない事、そんな事を思いながら風を切る。

イヤホンからは繰り返し流れ続ける。

“Can’t Keep Runnin’ Away”
“君はこの人生から逃げられない。君は逃げ続ける事はできないんだ”

いつかどこかで、きっと僕はその“何か”に打ち勝たなければいけない時が来るのであろう。

その勝利の甘美は、僕の傷を永遠に膿ませるのかも知れないし、僕自身を支える大きな柱になるのかも知れない。

そんな事は、今暗闇に彷徨う僕にはわかりっこないのだ。繰り返しPharcydeの流れるイヤホンを外し、僕は柄にも無く買ったマルボロのメンソールに火をつけ、不味いなぁ、なんて思いながら自宅の鍵を開けたのであった。

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