最近のこと

缶詰の煮イカを頬張り、煙草を吸いながらぽちぽちと今液晶に文字を打ち込んでいる。

腹は減ったが食うもんがない、致し方なく気が進まない缶詰を開ける。金がないんだからしょうがないさ。

最近はたくさん映画を観ている。日が昇っているうちは音楽を作り、夕方には動画制作をする。夜も寝静まる頃になれば、また明日との境界を太陽がぼやかすまで、映画を見る。

今日は親友の勧めで“ラブ&ポップ”という映画を観た。

“嘘の名前で良いんだ。今考えた名前を教えてよ。でも、あんまり適当なモノはダメだよ。嘘の名前だとしても、それはもう一人の君なんだ。”

女子高生四人組の内、1人がトパーズの指輪が欲しくて援助交際をする。ある中年男性はカラオケで一緒に歌うだけで12万円くれるという。そして彼はおもむろにマスカットを鞄から取り出し、これを噛んでから手に吐き出して渡してくれという。そして懇切丁寧に一つ一つのマスカットをプラケースに入れ、架空の名前と架空の高校名でラベリングして行くのだ。だが指輪を欲しがるその子だけは自らの名を語るシーンが無い。

そして主人公の女の子はその報酬を分け合い、指輪を買うために足りないお金をさらに援助交際で集めようとする。そして、ぬいぐるみと話す奇妙な男と出会う。

彼はぬいぐるみの本名は教えられないという。ただ彼の名付け親である奇妙な男の父親と、その奇妙な男だけはぬいぐるみの真名を知っていると言うのだ。

彼は援助交際をする女子高生に暴行を振るう常習犯であったが、彼女は危機一髪免れた。彼のぬいぐるみの尻尾を直してあげたからだ。

金銭は貰えず、傷付いた心だけを持ち帰り、指輪の無いその手に絶望していたが、カメラのフィルムケースの中には手紙が入っていた。そこにはそのぬいぐるみの本名が記されていた。そこで物語は終わる。

僕はかつて風俗店やキャバクラでボーイをしていた。
そこでは履歴書を預かる僕らにしか、彼女らの真名を知る者は居ない。そうして真名を知る者に、使役されてしまうのだ。

この世界からその店を虚構にする為、或いは彼女らがその虚構を持ち帰らない為の源氏名であった。オリジナルフォーマットのキャスト管理ファイルには、彼女らの傷跡の位置、タトゥーの有無、配偶者やパートナーの有無、そしてその夫や彼氏はここで働く事についてどう思っているか、はたまた秘密にしているのか、何故ソープランドで働きたいのか、などが全て記されている。

僕はその中で、駆り立てられる様な苦しみから逃れられない子達を多く見て来た。そうしてこの世界から目を背ける様に、僕はその仕事を辞めた。

そして上京してまた僕は風俗業界に戻ろうとしている。虚構と虚構が入り混じる、名も無き祝福された子らが踊り続けるその世界に、何か万に一つでも救いがある事を僕は願っている。

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