作り話 ~季節巡り~漆
「あぁ…この桜…。」
何故だかわからない。
懐かしいこの桜は触れれば舞い散る桜吹雪。
右回りに上から巡るように舞う者を待つ。
見渡せば社の奥にある山が見える。
「舞いながら待ちましょう」
そう呟く。
ふわりと目の前に降りてきたその者を見る。
赤い衣を纏っている美しい者。
袖から少し出している手は白く細く美しい。
「ここは広い。だからお前も居られるだろう。」
そう言うとふわりと社へ戻っていく。
頭を下げ桜の樹に触れる。
「一人でいい、ひと度心許せば、辛くなる。
」
すると、赤い衣を纏う美しい者は、社へ戻ろうと背を向けたまま言う。
「ヒトは、わからないのか。」
その言葉に、静かに言葉を返す。
「ヒトは、みなひとりで生まれ生きる。そのなかで、袖を振り合うものと縁を感じて生きるのかもしれない。時にそれを忘れ、誰かに頼りきってしまうのでしょう。」
それを聞いて、軽くため息をつく。
「ヒトとは、分からぬものだ。今を生きるそれだけで良いだろうに…欲とは計り知れぬ。」
そう話すと、ふわりと社へ戻っていった。
社へ戻る後ろ姿を見ながら目を閉じる。
遠くから、呼ぶ声がする。
ふと気付くとそこは…
𑁍܀続く𑁍܀
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