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作り話 ~季節巡り~拾

「欲…だな。お前には、私が眺めているように見えたのか。」

そう問われる。

「いえ…。鳥居の上に居られるので…。
どなたかをお探しなのか…と。ですが、
貴方様には…。」

と、言葉を詰まらせる。
言ってはいけない、口にしてはならないと
そんな気がした。

「貴方様は、どうしてヒトのことを
聞かれるのですか。ご興味を持たれると
いうにしては、貴方様は…。」

すると、横にいた狼がニヤリとして言う。

「お前は、この鳥居の上の者となぜ話す。」

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鳥居の上の者は、こちらを見やる。

「話が出来るからにございます。私の目には
見え、声も聴こえ、言葉を交わせるからに
ございます。
私にとっては、呼吸をするように当たり前の
ことですから。」


「お前は、大切な誰かは居ないのか。」

「かつて、居りましたが過ぎたこと。
かつていた大切な誰かとの思い出だけでも
思いの外、居られるものです。
それで、私は充分に幸せでございました。
そうやって、ヒトは思いを喰ろうて生きる
のかも知れませぬ。
私の話など退屈でございましょう。」

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するとその鳥居にいる者は、私の目を
じっと見ると

「いいや。………ものと話をするのは
嫌いではない。故に、退屈とも思わない。」

と、時々聴き取れないがはっきりと言う。

「お前は何故ここに居る。」

とその者は続けて言う。
その言葉に遠く歌うように声が聴こえてくる。
また、舞いながら鳥居を進みゆく。

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気がつくとそこは、また一面銀色の場所にいる。
大きな樹にもたれかかり、触れる。
顔をあげると、大きな白金色に輝く月が
近くまできている。
何故だか落ち着くその月を見て

「貴方様は何故かをご存知でしょう…。」

と呟くと、樹の上から……。

          𑁍܀続く𑁍܀

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