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作り話 ~季節巡り~捌

いつもの社に戻っている。
鳥居を見上げると、真剣な目でこちらを見る
あの者がいた。

「見てきたか。その上でわたしがお前に問う。お前は、生きるとはなんだ。」

頷き答える。

「はい。生きるのは…生きるのは喜び悲しみ辛さ…、押し寄せてはひいてゆく海の波のようなものにございます。
時に、辛くて仕様のないことも多くありますが
そんな時は、誰かの何か…それが留めていた鋼を外すように気を楽にしてゆくものなのかも知れませぬ。」

そう言うと、

「お前のように…ているのは、お前の言う辛いこととはならないのか。」

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そう静かに問う。
あの狼は横目でこちらを見ている。

「たくさんのヒトが往来いたしますから。
出会いと別れも当然あるもの。ですから、
私はこのように生まれただけで、ここに
いる、それだけにございます。辛くはないかと問われたら…いいえ、往来ですから。」

その者は軽く笑うと

「お前は食えないやつだな。おもしろい。」

そう話していると、遠くから祭囃子が聴こえてくる。

「今日は祭りか。賑やかになるな。」

というその者に

「苦手でございますか。ヒトの祭りでございますから…。」

というと、その者は答える。

「ヒトは分からぬものだが、祭りは嫌いではない。中の者は…ているからな。時がくるまでは中の者はいるものだから。お前も見てきただろう。それがヒトなのかと分からぬだけなのだ。」

遠く優しく社を見ながら話す。

「貴方様は…様。知らぬことも、ヒト。知ることも、ヒト。知らぬことは罪と問われます か。」

その者の見つめる先を見ながら話す。

「…いいや、そうは問わぬ。」

そう言うと白狼が口を開く…

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            𑁍܀続く𑁍܀

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