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海に行ったよレポ

「海に行こう」

 何の前触れもなくそう言うと、目の前の後輩は苦虫を噛み潰し、さらには飲み込んでしまったような顔をした。

「突然どうしたんですか。いつもは拗らせて『我々の青春とは、仄暗いものであるべき』なんて言っているのに、とうとうその逆張りも180度回ってしまいましたか。あ、先に断っておきますけど、もし万が一海に行ったとしても、麦わら帽子に白いワンピースなんて着るわけないですからね。いくら私が貴方の後輩とはいえ。」

 後輩はよほど海に行きたくないのか、いつにも増して僕のやる気を削ぐようなことを口走る。心配しなくても、後輩と麦わら帽子と白ワンピは別の概念だから統合することはないよ!



……………………



 無理やり連れてきてしまった。後輩は来る前と変わらず、不貞腐れた様子だ。

「青春の真似事したって、落伍者精神が今更どうなるわけでもないんだから、大人しく黄昏時の空き教室で歪んだ情念に浸っていれば良いのに。そうしてる先輩は滑稽で嫌いじゃないから、いつも付き合ってあげてるんですよ。模倣なんて、聞こえが良い言葉ですけど、所詮紛い物と同じですから。」

 確かにそうなのかもなぁ……。

 え、ちょっと待って! その時、僕の脳内に一つの詩が思い浮かんだ。


MURDERATION ME NO WANNA IMITATION IMITATION よく見りゃ作りモノ MURDERATION ME NO WANNA IMITATION IMITATION よく見りゃニセモノ MURDERATION ME NO WANNA IMITATION IMITATION ただのパチモノ MURDERATION ME NO WANNA IMITATION IMITATION ただの流行モノ


これ、キングギドラの公開処刑じゃん! 世に蔓延る有象無象とは違って、僕だけはオリジナリティある”何か”を作り出せると信じたいけれど、もしオリジナリティがあったとして、それすら既出のコンテンツの要素要素を煮沸して浮かんできた灰汁を辛うじて集められたモノでしかないんだよな。


「あ、先輩! 沖の方から何か来ますよ! あれは……牛鬼(ぎゅうき)?」


え…? 


あっ本当だ!!! 牛鬼がこっちに向かってきてる!! 早く逃げないと!


「まあまあ、落ち着いてくださいよ。まだ沖にいるんですから、そんなに焦ることありませんって。そもそも、人生というのは死ぬまでの長い長い待機列でしかないんですから、いつでも同じじゃないですか?」


 いつもは俺の諦めを咎めてくるくせに、後輩は随分を割り切った様子だった。どこか晴れやかさすら感じる。

 いや、でもこのままだとマジで死ぬってやばいやばいやばいやばいやばい!! 笑い事じゃない!!! 助けて———。



GAME OVER

 先輩は青春の中途半端な真似事をした為に、怒り狂った牛鬼に食い殺されてしまいました……。


皆さんも海に行く際は気をつけてくださいね〜。  fin.










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