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ウクライナ・スパークリング・イベント参戦記

 昨日は表参道にあるイギリスのインテリア・ブランド「トム・ディクソン」のショールームで開催された、ウクライナ産スパークリングワインのイベントへお声がけいただき出撃。

表参道の駅に着き、骨董通りに抜ける出口を目指して歩いていると、出口につながる階段に長蛇の列、あまりの激しいゲリラ豪雨に傘があっても出られずにいる方達による大渋滞、そういえばすれ違う方たちは傘を持っているにも関わらず髪の毛まで濡れていたっけ、こりゃ無理と思い駅の方へ引き返ししばし待機。

20分程して幾分弱くなった隙を見て会場へ向かうも、到着した際は革靴が一足お釈迦になったような状況、小峠じゃないけどなんて日だ!

そんな事もあって少々遅れましたが無事にスタート。今回のイベントはウクライナでも最大規模の生産者のアートワイナリー、そちらのスパークリングワインを5種をウクライナ料理のおつまみと楽しむという内容。

とはいえ、アートワイナリーの本拠地は今回の戦争の激戦地の一つバハムト、ワイナリーには現状とても足を運べる状況ではないけれど、戦火がひどくなる前に移動させたワインを各国で販売し、復興に役立てようという趣旨をインポートをしているグリッパさんがご挨拶で話されてました。その後、我が師匠であるワインサロン・フミエールの宮川さんからのレクチャーを受けていよいよ本格的にイベントが始まりました。

今イベントのワインのラインナップは以下の通り。
※クリマートは今回の戦争の発端となったクリミア半島に由来

Krimart Zero 2015/クリマート ゼロ
 製法:瓶内二次発酵方式(36か月)
 品種:ピノ・ブラン/シャルドネ/リースリング/アリゴテ
Krimart Extra Brut 2014/クリマート エクストラ・ブリュット
 製法:瓶内二次発酵方式(36か月)
 品種:ピノ・ブラン/シャルドネ/リースリング/アリゴテ
Krimart Brut Rose 2018/クリマート ブリュット・ロゼ
 製法:瓶内二次発酵方式(36か月)
 品種:ピノ・ノワール/カベルネ・ソーヴィニヨン 
Art Wine Brut Rose 2019/アート・ワイン ブリュット・ロゼ
 製法:瓶内二次発酵方式(18か月)
 品種:ピノ・ノワール/カベルネ・ソーヴィニヨン 
Art Wine Brut Ruby 2019/アート・ワイン ブリュット・ルビー
 製法:瓶内二次発酵方式(18か月)
 品種:カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロ/サペラヴィ

 乾杯はクリマートのゼロ、シャルドネやリースリングなどの国際品種を使っていることもあって非常に洗練された味わいで綺麗な造り。生産地的にはブドウの栽培限界に近いエリアだが、黒海からの温かい空気が流れ込むらしく極端な冷涼地ではない模様、ただリキュールの添加をゼロにするためには、収穫を遅らせてしっかりと熟させる必要があり、それだけ手をかけてる証拠かなと。

 二品目はクリマートのエクストラ・ブリュット、品種や瓶熟の期間は同じもの、またエクストラ・ブリュットとブリュット・ゼロなので、糖分添加の差もそこまで大きくはなく、味わい的な差もあまり変わらない印象。個人的にはゼロの方が酸のキレがあって好み。

 とはいえ、泡のきめ細かさは長期熟成の賜物とはいえるが、長期のシュール・リーによるイースト香は強くなく、カッチリとしたストラクチャーもシャンパーニュに比べると柔らかな印象、プレステージのシャンパーニュにあるような強い個性ではないので、逆に普段ワインを飲まない方にとってはこちらの方が飲みやすく好みなのではと、畑の映像も見たけどこの辺の違いはは単純に樹齢と収量の問題だと思われます。
※個人的に飲みやすいはポジティヴなコメントと思ってません(笑)

 三品目はクリマートのブリュット・ロゼ、品種は驚きのピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド、まさに混ぜるな危険!の禁断のブレンド。チェリーのような甘酸っぱさが感じられるロゼ・スパークリング。こちらも泡はきめ細やかでイースト香も弱めで軽快な味わい、色合い的にはセニエではなくプレスかなと思うけれど、スミマセン聞くの忘れました、無念…

 四品目はアート・ワインのブリュット・ロゼ、品種はクリマートのロゼと同じながら瓶熟が半分で価格もクリマートの7割程度。
泡立ちはクリマートに比べるとやや粗く鮮烈な泡立ち、驚いたのはこちらの方が瓶熟が短いのにイースト香が強いという事。クリマートのロゼとアート・ワインのロゼではイースト香と泡の細かさにおいて通常起こりえない結果で若干自分の思考がパラドックスに陥る、この辺は次のワインの後に改めて検証します。

 五品目はアート・ワインのブリュット・ルビー、品種はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロにジョージアの代名詞的品種のサペラヴィのブレンド、隣国モルドバでも栽培している東欧でもポピュラーな黒ブドウ。
いわゆる赤のスパークリングワインで世界でもあまり造られないスパークリングワイン。何故ならスパークリングワインは冷やして飲む、赤ワインは常温(15~20度)で飲む、では赤のスパークリングワインはどうするの?という問題にぶち当たるから。

まあ、基本的には冷やすのだけれど、冷やすと旨味や甘味が感じにくくなり渋味が増すので、あまり渋味を取り込まないで造ることが多い、これの代表的な物がイタリアのランブルスコとブラケット・ダックイ、逆にオーストラリアのシラーズのスパークリングはまれに渋々のがあるのがオンリーワンに挑むオーストラリアらしい(笑)。
そういう意味ではこのブリュット・ルビーはランブルスコよりはしっかりした渋味、シラーズ・スパークリングほどではないけれど重厚な印象。

ということで、クリマートのロゼとアート・ワインのロゼのイースト香と泡の細かさの逆転現象について検証。
同じ生産者が同じカーヴで熟成させたのであれば、本来は瓶熟の長いクリマートの方がイースト香が強く出て泡が細かく、アート・ワインの方がイースト香が弱くて泡が粗くなるはずが、イースト香については逆転してしまっているという摩訶不思議な現象。

昨日の夜も気になって気になって仕方がなく、地下鉄はどこから入れたのぐらい眠れなくなりました。(古!)

まあ色々考えてみた結果、結論としてはカーヴの温度の違いではないかと。
アート・ワイナリーは東欧最大のワイナリーとも呼ばれる規模らしく、かなりの種類のスパークリングワインも手掛けている模様、シャンパーニュと似た感じで地下から石膏(シャンパーニュは石灰岩)を掘り出した跡を利用しているとの事、恐らく深さや広さが異なるいくつものカーヴがあり、長期熟成の物は深い深度のカーヴを使用し、逆に短期熟成の物は浅い深度のカーヴ
で瓶熟させるのではと想像できる。
その場合、当然のことながら浅い深度のカーヴの方が幾分温度が高くなるであろう(温泉があったりすると深い方が温かくなる場合もある)、そうなると酵母もより活性化しイースト香の原因であるシュール・リーも進むのではと考えられる、ていうかそれ以外現時点では思いつかない今日この頃です。

まあ、そんな小難しいことは置いといて、ワイナリーの方々の気持ちを考えると、一日も早い終戦と復興を祈念します。こちらのワインはECでも販売されている店舗があるので、ご興味ございましたら是非お試しください。

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