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おまえの知らない茹で卵の世界

 卵。あるじゃん。egg。ニワトリの。あれ。

 卵の10個パックあるじゃん。一番ポピュラーなパックは10個パックだと思うんだけど、2×5でスーパーにおすまし顔で並んでるパック。
 あれを、さ、買うじゃん。

 わたしあれを全部茹で卵にしてしまうんよね…。

 もちろん、ハンバーグのつなぎにも使うし、最近はマドレーヌを焼くのにはまってるからそれにも使う。
 でもそれらに使うときは前もって計画して、使う分だけ抜いて残りは全部茹でてしまう。

 そう、全部茹でてしまうのである。

 基本生卵は2週間くらい持つが、茹でたり火を通してしまうと消費期限が急に短くなる。
 それなのに10個をいきなり全部茹で卵にしてしまうそのメンタル、なに?

 もちろん1日で10個食べるわけじゃない。
 ありとあらゆる漬け汁にしみしみと漬けておいて、数日に分けて食べるのだ。
 おすすめは、オイスターソースと醤油とごま油を混ぜた漬け汁。ごま油が風味付けしてるのとオイスターソースの深みがマジでマリアージュ。大変な食べ物。
 最近は豆板醤と味噌を混ぜて味噌漬けにしたりもしている。これも大変な味がする。

 茹で卵、マジで無限大の可能性をはらみすぎていて怖い。
 最初に卵を茹でてみようと思った人間は頭がおかしい。才能にあふれかえっている。

 卵は栄養のかたまりである。
 ぶっちゃけビタミンC剤と卵さえ食べておけばだいたいの栄養はどうにかなる。これが本当の本当に限界飯だと思う。
 Cタブレット噛んで生卵丸飲みする限界飯なのに栄養価が強すぎる。
 限界と栄養は反比例しないらしい。

 まあそんな生活してないけど。
 わたし賢いから卵茹でてるけど。(茹で卵マウント)

 ところでそんな魅惑の茹で卵。
 実はわたしは卵を茹でるのが苦手である。
 この苦手というのは工程が面倒くさいとかではなくて、失敗率が高いから憂鬱なのであるという話。
 10回茹でたら3回くらい失敗する。つまり30個は失敗卵なのである。

 あんな茹でるだけのやつの何を失敗すんのよwww

 そう言う人は、実はグランマが茹で、あの例の茹で卵を盛りつける以外用途を見いだせない受け皿に入った茹で卵しか食べたことのない甘ちゃんだ。

 いいか。卵ってのは繊細なんだ。
 黄身の固さのことを考えたことがあるか。
 ラーメンのトッピングの煮卵を作るのに職人がどれほどの卵を業火に葬ってきたかご存じか。わたしは存じない。

 固い黄身より半熟が好きな人に、悲劇は起きる。
 ぶっちゃけ固い黄身が好きな奴はちょっと多めにコトコト煮込んでおけばなんちゃらないのである。
 しかし、半熟にする。あれがなかなか難しい。

 うまく茹でられずに固茹でになってしまった。それはまだ食べられるから、いい。
 時間を見誤り白身もイマイチ固まってない。これが大悲劇。リア王もがっかり。

 もうそういう卵は、殻にひびを入れた時点で何となく「あっ…」と察する。
 そして、「ああ…」となりながら湯を捨てたフライパンに入れて即席目玉焼きを作る羽目になる。

 卵を茹でることに失敗した夜は、急にローファイのBGMをYouTubeで探してしんみりと聴き入りたくなる。
 卵を茹でることに失敗した夜は、急にトトロを信じてネコバスを待っていたあの日のわたしに戻りたくなる。

 つまりとってもおセンチな気持ちになってしまうのである。

 なぜ人は何百回と卵を茹でても失敗してしまうのか?
 なぜわたしは何百回と茹でたはずの卵に疑心を抱いてしまうのか?
 なぜ、なぜ卵はおとなしくちょうどいい半熟でいてくれないのか…?

 つるんとうまく卵が剥けて、しかも中身もちょうどいいとろふわの半熟だったとき。
 わたしは生きとし生けるものすべてにグラシアスと囁いて回りたい気持ちになる。
 しかし生きとし生けるものすべてに囁く時間はないので、そっと、手の中の丸い卵にグラシアスと囁くのだ。
 卵は何も言わないが、ちょっぴり微笑んでいる。

 つまりyou can't make an omelet without breaking eggsなんだよね。馬鹿でも分かる。
 失敗を恐れていては、美味しい茹で卵は作れない。これに限る。

 そして今これを書きながら、わたしはまさしく卵を茹でている。
 つまりそういうこと。

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小吉
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小説を書いています。