バブルの頃#74:嘘つき

1990年3月
日本支社は、覇権争いが休戦状態となり代表おろしの仕掛け人がいなくなった。
しかしながら、代表の虚言癖には、違和感が残る。
彼はよく嘘をつく。嘘をつくのは悪いことだと思っていない。ろくに考えもしないで嘘をつくのだろう、いい加減で矛盾したことをいっている。最初は関西芸人風ののりで、向こうの人はみんな「さんま」と同じで、四六時中しゃべりまくり、受けをねらっているのかと思った。ただし、東京の仲間は「あいつはバカだからバレる嘘をつく」といっていた。

嘘が日常化しているので、自分が嘘をついているかどうかがわからなくなっているのだろう。ばれた嘘のつじつま合わせでまた嘘をつく。川原が、叛旗をひるがえしたときの第一声は「代表なんかゆうとったやろ。嘘ばっかしや」であった。こいつも、小賢しく計算した嘘をつくので、信用できない。自分は「嘘ばっかし」側につき、「はったり屋」川原のサポーターに揺さぶりをかけた。

しかし、信頼性に欠ける代表には、いつも不安がつきまとう。周りから雑音が聞こえてくる。この雑音は事実を伝えている。代表は嘘ばっかりいうので、代表の言っていることと反対のことが本当のことなのだ。事実が、自信をもってつかれる嘘によって、真実味が薄くなる。

米国支社長が「日本の代表はDISHONEST(誠意がない)」といった。この男は、嘘と知っていながら騙されたふりをする。そして、代表が席をたったとき、「自分はそんなに馬鹿ではない、利用できるうちは利用する」とつぶやく。

誠実と勤勉がビジネスマンのセールスポイントではないことを、彼らは教えてくれた。誠実に仕事をしても成果をあげなければ評価されない。父は国家公務員であったから、誠実に勤勉に役所で仕事をすることが、家族を幸せにすることだと考えている。外資では、私生活や勤務態度ではなく、会社に利益をもたらす人間が天下をとる。歌手は歌で評価されるべきで、私生活で評価されたくないと、スキャンダルを暴露された歌い手がいっていた。

ローカルでアマチュアな会社員が嘘とか本当とかを「ホームルーム」で雑談しているうちに、欧米市場ではグローバルなビジネスマンがしっかりと金を稼いでいる。

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