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『高い城の男』感想

先日、旧い友人達と久々に食事をした。

その際にチャットGPTとどのように向き合い活用すべきか。という話題になったのだけれど、信用できるひとりの友人が「人と対話することで自分の考えをまとめる人には有用だ」という旨の発言をしていて、なるほどなぁ、その視点で考えたことはなかったなぁと思ったりした。

自分はチャットGPTも使わないし、人と対話をしないで自分の考えをまとめる性質の人間だから、まったくもって新しい視点だったのだ。

※ここから先、内容に対してネタバレになる言及や、完全に個人的な解釈、決めつけ、思いつき、その他雑多な内容が含まれます。


『高い城の男』読了しました。

恥ずかしながら古き名作と呼ばれる作品たちをほとんど読まずに生きてきてしまったので、いつか必ず読むんだという思いだけがありました。

いま履歴を見ると、2015年の11月にKindle版を買っていたようで、10年近くデータの本棚の奥底で眠っていたらしい。かわいそうに。

重い腰を上げて読みはじめたのはどのタイミングだったか。
Kindleの履歴を見ると『高い城の男』の前に読んでいたのが『地元最高!刑事・奈良総集編』で、購入日が2024年5月だったので、それ以降に読みはじめたことになる。

基本的に外出時の電車の中での読書なので、読むスピードはゆっくりでした。
で、今日、読了。
満足したので感想を書こうと思ったわけです。

とりあえずあらすじを引用。


アメリカ美術工芸品商会を経営するロバート・チルダンは、通商代表部の田上信輔に平身低頭して商品の説明をしていた。ここ、サンフランシスコは、現在日本の勢力下にある。第二次大戦が枢軸国側の勝利に終わり、いまや日本とドイツの二大国家が世界を支配しているのだ--。第二次大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に、現実と虚構との微妙なバランスを緻密な構成と迫真の筆致で書きあげた、1963年度ヒューゴー賞受賞の最高傑作。

……こんなあらすじだったんだ。知らなかった。
もっともっと端的に個人的な言葉でまとめると


第二次世界大戦でドイツと日本が勝利し世界の支配側にまわった世界。その世界で読まれる「ドイツと日本が敗れた世界」を描いた小説と、ニセモノを作り続ける敗戦国の人間たちの物語。

という感じ。異論は認める。


物語の構成としては、物語半ばまでは世界観の提示が中心になっていて、微かなエッセンスは各所に散りばめられて面白味はあるが、退屈。
と感じてしまい、結構ダラダラと長い時間をかけて惰性で読んでしまっていた。

が、11章。
物語の65%が経過した所から、急に変わった。
突然思い切り頭をぶん殴られた。
これまでも薄々と描写はあったが、ここで突然の爆発。モノづくりに対する怒り。信念。自分たちが何者であるかという根幹への問いかけ。衝動。
あまりにも凄まじく、あまりにも美しい、モノづくりへの叫び。
この章を読んだだけで、この本を読んだ価値があったと思わされる、沸々とした怒りがそこにあった。

ここに辿り着いたのが、昨日。
残りを読み終えたのが、今日。
一気に読み終えてしまった。

個人的に11章がよすぎて、その後に関しての評価が特別高いわけでは無いけれど、11章によって生じた様々な軌跡が最後にたどり着くきっかけになったわけなので、やっぱりあのチルダンの怒りが、この作品の方向を決めたのだろうと思いました。

まだ他の人の感想とかを一切読んでいない(読んでしまうと思考が引っ張られる可能性がある)ので、一般的にこの物語のどこがどのように評価されているのかは分からないですが、個人的にはこの物語は「どのような世界にあっても作り手は存在し、そこには祈りや怒りや言葉で表せない感情が存在している」という、作り手への讃歌なのだという想いを感じた。

世界の枠組みの反転だとか、戦闘における銃撃だとか、政治における立ち位置や思想だとか、そんなものはすべて、味付けでしかないように感じている。


一方、本作で欠かせないもうひとつの要素が「易」で、正直最初の方は、日本文化を知らない著者がそれっぽく見せるために取ってつけた要素なのかなと感じていた。

実際は神託でありウィジャボードであり現実世界とを繋げるトンネルでありメタ的な自動書記の手法だったわけで、なるほどなー。となりました。

そしてこれって、現代の話、いまこの瞬間の話じゃんね、となりました。
端的に言うなら対話式AI。
集合知へ問いかけて出てきた文章を解釈し、指針とし、時には出力する。

それって、冒頭の友人の話じゃん。となったわけ。
怖いのが、友人と話したのがまさに昨日で、物語を読み終えたのが今日。
そしてその友人は『高い城の男』を読んでいない。
怖いね。怖いよ、あたしは。

そんな感じでした。
個人的には、誰がなんと言おうと、これはモノづくりをする作り手への讃歌だ。と言いたいです。
そのための物語だと。
世間一般がどう評価してるかは分からないけど、自分は、そう理解しました。

うん、やっぱり読書はいいな。
少しずつ、本を読んでいた頃の自分に戻っていきたいな。
そんな気持ちです。

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