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陽はまた昇る ~自分だけが置いてけぼりを喰らっているような気がする~

土曜日になれば、いよいよ専門医に診てもらえる。
「高橋優」の曲を延々聴きながら、土曜日を待ち焦がれていた。
 どの曲も好きだが「陽はまた昇る」がお気に入りだ。

 金曜日になると、母も上京するので、
 食事面など身の回りの世話をしてもらった。

 金曜日と土曜日は、職場は忙しい時期だった。
 もどかしさもあったが、こればかりはどうにもならない。

「自分だけが置いてけぼりを喰らっているような気がする」
 CDから流れてくる。

 翌朝は、よく晴れた朝だった。
 妻にも仕事を休んでもらい、埼玉の病院へ向かった。
 
 13時からの診察だった。
 前回の大学病院は、病名が判明して
 安堵感が強かった。

 だが、今は少し怖いのが本音だ。
 これからどのように治療していくのだろうか?
 頭の中に不安な思いが駆け巡る。

 番号で呼ばれて、診察室に入る。
 心臓が早鐘を打ち始める。
 手にも汗が滲む。

 専門医は大柄な男性の先生だった。
 口調から柔らかい印象を受ける。
 尊大な医者ではなくてホッとする。

 先生は「間違いなく痙性斜頸」だと断定した。
「治療は注射から行いましょう。ただ、一つ問題がございます」
 
 私と連れ添った妻が真剣な表情で聞いた。

「ボツリヌス菌注射を打ちます。ご存知かもしれませんが、一本10万円です」

 事前にインターネットで調べていた。

「保険は効きますが、2本ずつ打っていきます」

 仕事のことを聞くと、とりあえず4月末までは休むことに決まった。
 
 覚束ない足元で、診察室を出てると先生の言葉を反芻する。
「注射を取り寄せるのに2週間かかります」
 これから、さらに2週間この状態が続くのか……。

 まだ治療は始まらない。

 帰路に着く途中、ふとある思いが浮かぶ。
「電車に乗って、職場には行けないから、この足で診断書出しに行く?」
 全く予定になかったことだが、職場も気になっていた。

 今は年度末で繁忙期。
 しかも、昨日と今日、職場には「晴れの舞台」を迎える人で溢れている。

 人の流れのピークを避け、
 16時頃に職場に着いた。

 不安な足取りで、職場に足を踏み入れる。

 
※副題、高橋優さんの「陽はまた昇る」の歌詞の一部です。 

 

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