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朝4時半にムカデが出たので、沼津に行くことにした。

土曜日の朝、ムカデが服の中に入ってきた!と血相を変えて夫が2階の部屋に飛び込んできた。目を擦ると朝の4時半。

「刺されてない!?」と何度も確認してくるので、「ムカデには刺されない、噛まれる。そして噛まれたらそんなこと言えないので大丈夫」といって夫の脱いだTシャツに隠れたというムカデを捕まえに階段をおりた。

トングと、虫網を一応用意して、Tシャツをそっとめくると、体長12センチほどもあるきれいなトビズムカデだった。ううん、大きいなぁ。きっとこの辺りの虫の王で、昨日からの雨と一気に来た冷え込みに、部屋に逃れてきてちょうどいいあたたかくて湿った場所(つまり夫の脇腹)を発見してしまったのだね。

そんなことを思いながら、子供達が噛まれたりしたら大ごとなのでトングで摘む。うねうねと踊るように逃れようとするムカデ。怒っている。
この顎で噛んでから毒液をすりこむんだよなぁ。これは服の中にいたらぞわぞわするよなぁ、と寝ぼけた頭のまま靴をつっかけて外に出る。
10メートルくらい離れた藪に離してやると、すぐに草陰に消えていった。

梅雨のこの時期、周りに草木も多く、さらに建て付けは悪く、隙間だらけかつ子供達が窓を閉め忘れるという我が家では、時折ムカデが出る。
去年寝ている間天井からぱたりと落ちてきて、ムカデの子が顔の上を這っていた時は忍者のようにしゃっと振り払いことなきを得たがさすがに寿命が縮んだ。

虫たちは寒さに弱いので、こうした雨降りで気温が一気に下がると、暖を求めて這い回り、大抵寝ている人間がいちばん暖かいと思うのだろう。そして悪気なく入っているのだけれど、やっぱりびっくりするのでやめてほしい。

噛まれたら激痛なので素手で触ってはいけない。火バサミや長めのトングがおすすめである。

飛んだりもしないし、何十本もある脚をつかって動く様はそこまで早くなく優雅でとても美しくぞっとする。
万が一噛まれたら、タンパク毒なので50度くらいの熱湯をしばらくかけると痛みは消えるらしいが、やったことはないのでわからない。すぐに流水で洗い流し、アレルギーが反応が出ないとも限らないので、病院に行くことを強くお勧めしたい。

さて、戻って子供たちとごろごろして、どうしても噛まれていないか心配だという夫にはシャワーを浴びておくように勧めたが、すっかり目が覚めてしまった。

朝のベランダにでて、子ども達と植物や虫を見る。雨に現れた植物達は、ひんやりとした空気の中で静かに呼吸をしていた。

蓮、また一輪咲く。
風船葛の風船。
アゲハ蝶の幼虫も緑になった。
蓮の花托。種。
娘が大事にしている風船葛の花。


来週また出張が入るという夫に、「実家に子供達を連れて遊びに行ってくるから、今日は好きに過ごしたら良いよ」と言われた。

行きたかった展示やイベントがないか調べてみるが、どれも丁度端境期で、なかなかしっくりくるものがない。山に行く気分でもない。

今日は晴れて夜から雨が降るらしい。

行きたかった施設は2日前までの予約が必要だとわかってページを閉じようとした時、ふとある場所が思い浮かんだ。

子供達を産む前から、行きたかった場所。
沖縄や、トルコよりもずっとずっと近いのに、なんとなく一人で行くことはできないと思っていて、子供達が生まれたらとても遠く感じて「まぁ、いつかいけたらいいな」と思っていた。

丁度先々週友人と会った時、メンダコの標本をみながらその場所のことを話した。
「ああ、数年前に行ったよ。」
『え、何しに?水族館に?』
「海鮮丼を食べにかなぁ。行くなら水族館は海鮮丼のついでに行く、くらいで考えた方がいいよ」

彼は独身で、自由にできるお金があって、休日は自由にできる時間があって、東や西に日帰りでひょいひょい出かけている。
私は、自分が自由じゃないと思っていて、誰かに連れていってもらうのをずっと待っていた気がする。

でも、
「いつか」っていつくるんだろう。
自由じゃないって、いつ自由になるんだろう。

私は今日一日のために命を使い切りたい。

そしてこんなに早起きしてしまった今日なら行ける。

そう思っていくことにした。沼津に。

雨は上がった。

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