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風船葛。
「はちさん、ぜんぶの花を回ったらつかれてしまうね」
ぶんぶんと花から花へ忙しそうに飛び回る蜂を見ながら娘が言いました。
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白い小さな雪のように、風船葛がたくさんの花をつけました。
去年一粒だけもらってきた種が、うまく芽吹かずに残念がっていて、「今年こそはそだてたい!」と春先からずっと言い続けていたので、同僚に頼んでタネをもらってきたのです。
一晩水につけて、深めのプランターに等間隔で植え付けていきます。多かったら間引こうともらったタネを全て撒き終えました。
予想以上にしっかりと芽吹き、わさわさと葉を茂らせて、折れそうなくらい細いのに、しなやかな蔓が日毎に増えて、上へ上へと伸びてゆきます。掴めるようにと物干し竿から下げたネットに触れると、上手にくるりとした巻きひげを絡めてまた上へと伸びてゆきます。
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間引いた苗も捨てられず、小さな鉢に移すとまた元気に伸び始め、ゆるく織られた布のように、緑の紗ができあがっていきます。
その様子は健やかそのもので、柔らかな緑色と白い花、ぷくっと息をいれ始めた紙風船のような果実が日毎に膨らんでいきます。
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絵本の挿絵のようなぷっくりとした姿に、子供たちが心惹かれる理由がよくわかりました。とても可愛い。
近所に住んでいた幼馴染の女の子は、ふわふわのすこし茶色がかった髪の毛を長く長く伸ばし、腰よりも長い三つ編みにしていました。彼女の家は一軒家で、庭があって、お母さんがいつも家にいて、庭をいじっていて、玄関の横には風船葛がたくさんの実をつけて揺られていました。
ゲームも漫画もたくさんあって、お菓子やスライムを作ってくれて、たまに遊びにいくと羨ましく思いました。
当時私の住んでいた家はマンションの三階にあって、母は働いていて、ベランダに少しの植物がありましたが、西陽が強くてうまく育てられなかったのでした。
その子がいつだか、黒地に白くハート模様が描かれたまぁるい種をくれました。作り物かと思ったそれは、図鑑でしか見たことのなかった風船葛の種で、私は眩しくそれを見ました。まだ一人で種を植えることはできず、忙しそうな母に植えたいとも言えず、ひっそりと机の引き出しに入れました。
種はいつのまにかどこかへ行って、随分と長い間そのことを忘れていました。
ある朝、ぷっくりと膨らんだ風船葛の果実をやさしくふにふにと撫でながら、ばーっとそのことが思い出されました。
わたしは、いつか風船葛を育てたいと思っていたのだと、そのいつかは今だったのかと気づいて、いくつもいくつも実った風船を、また優しく撫でたのでした。
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