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私の狩猟事業について

前置き

 私は2017年に長年住んだ関東を離れて北海道の足寄町に移住しました。
その理由は狩猟をしてみたかったというシンプルなもの。
 最初に地域おこし協力隊という形で移住し、副業はNGと当初言われながらも翌年には民泊事業のガンロッカー付きの宿を謳ったゲストハウスぎまんちを開業しました。

 協力隊の任期の終わる2020年の3月はちょうどコロナが流行り始めのころで協力隊の任期終了後の収入の為に始めた民泊事業にとっては痛手となる時勢でした。
 兼ねてから狩猟で稼げる手段はないものかとぼんやりとは考えていたものの、実現に向けてそれほど力を入れていませんでしたが、より具体的に踏み出すことにしました。

狩猟事業について

 狩猟で稼ぐとなると考えられる手段は①有害鳥獣の捕獲による報奨金、②お肉の販売、③骨や革を利用した商品の販売、④狩猟ガイド、体験ツアーの開催。とおおよそこんなところ。着目したのは①、②、④を組み合わせての事業。

有害鳥獣駆除

 ①は許可なども得ており、すぐにでも始められるもので、エゾ鹿の捕獲によって町と国から合わせて13,000円/頭、羆だと40,000円/頭、その他キツネや鳥類で500円から3000円となるが、羆を何十頭も獲るのは現実的ではなく、一頭当たりの単価を考えるとエゾシカがメインターゲットとなりますが、仮に300万円稼ぐだけでもざっと230頭程捕獲しなければならず、さらにそこから弾代や車の燃料費など出費を考えるとこれだけでは厳しいので、②、④も組み合わせて行う方がより効率が良いと考えました。

狩猟体験ツアー

 ④のツアーは主に免許の取得や狩猟に関心のある層をターゲットにしたもので、ハンターの日常を追体験できるものとしてainiというサイトで販売を行っている。
 行っていることは普段の猟に同行してもらうだけなので、特別な一手間を掛けることもなく、仕入れのプラスアルファの収入源となっている。捕獲できた場合は記念にそのお肉を後日自宅にお届けもしている。
※このように事業の中で捕獲した獣肉をお代を頂かなかったとしてもツアー客に配る場合も保健所の許可施設にて処理したものでなければなりません。

狩猟肉の販売

 そして最後に上述の中で最もハードルの高い②。
 野生動物のお肉を食肉として流通させるには当然ながら保健所の許可を受けた施設で処理を行わなければいけません。そのため、施設整備が必要で知る範囲ではだいたい数百万から数千万円単位の投資が必要となります。
 私のメイン事業であるこの②、やせいのおにくや事業を少し掘り下げていきたいと思います。

鹿肉事業の立ち上げ ~施設整備編~

施設整備計画

 現在鹿の解体所にしているのは、ラーメン屋の跡地で、物件を初めて見に行った当初は営業時そのままの状態で、厨房部分を整理して改装すれば処理場として使えるかも?と検討を始めて間取図とにらめっこしながら作業導線などを練っていました。幸い協力隊時代にあちこち出張の名目で解体場など見学に行っていたため、どういったものが必要なのかはある程度頭に入っていたので、図面をもって保健所に何度も相談に行ってイメージを固めていきました。

施設の規模

 施設の規模は基本的に一人で回すことを前提に作ることにしました。そもそもが限られたスペースであったことと、中途半端に人手が必要な規模だと人的コストの圧迫によって収益化が難しいのでは考えたためです。ましてや食肉を扱うというのは初めての試みでもあり、まずは無理なく小さく始めようというところで小規模の施設にすることにしました。

資金面

 資金面的に融資を受けないと厳しい状況だったので、付き合いのある地元の信用金庫の担当者の元に相談に行っても、販路はまだ確定したものはなく、販路どころか商品もない状態ということもあって融資はなかなか受けられそうにありませんでした。そんな中、資金をどうしようか悩んでいたところ、コロナの影響でいわゆるゼロゼロ融資が受けられることになり、それによってある程度の資金の確保ができました。融資額500万円確保。
 更に町の創業の補助金(1/2補助で300万円確保)と国の小規模事業者持続化補助金(確か2/3補助で70万くらい確保。だったはず・・)を活用して何とか資金面の問題はクリアできることとなりました。

施設整備に掛かった経費

超ざっくりですがこんな感じ
土地建物の取得 約400万円
浄化槽の設置と水道設備整備 約300万円
プレハブ冷蔵庫 約70万円
その他設備 約200万円

鹿肉事業の立ち上げ ~商品開発編~

商品のクオリティ

 物件を見つけた当初、自身の生み出す商品が買っていただけるクオリティにあるものかというのが不確定でまずはそこをクリアにすることを考えました。
 これまでも友人関係に自身の獲った鹿肉を食べてもらう機会はあってそれなりに好評ではあったのですが、プロの料理人から見てどうなのかというところを明確にする必要がありました。味もそうですが、精肉の状態も含め。
 そこで、これまで知り合った飲兵衛(笑)な方々に事情を説明して実際に試していただける店舗を紹介して頂くことになりました。
 そんななかで何店舗かにお届けしてフィードバックをもらったところ、既存の商品と比べても特に問題のなさそうな反応でしたので、とりあえず商品として一定のラインはキープできていると判断しました。
 また、他社の鹿肉も取り寄せて自身で食べてみたりしてそれほどのクオリティの差を感じなかったため、これは商品としてイケるはすだと確認しました。

誰のための商品か?

 商品を販売していくにあたって、どんなお客さんに向けて販売していくかをかんがえていたのですが、鹿肉を日常的に調理している人は圧倒的に少なく、また赤身の多い肉なので火入れにとても左右されてしまいます。
 焼きすぎるとパサパサで固い食感になってしまうし、生焼けはあまりよろしくありません。せっかくの良質なお肉でも調理次第で簡単に台無しになってしまうのは自身の体験からも感じていたことなので、不特定多数の方に売るのではなく、まずは料理をし慣れている人や鹿肉を扱いなれている人をターゲットにすることにしました。
 具体的には料理人で上述の鹿肉の特性などを踏まえてレストランなどのプロ向けの商品として販売していこうと思いました。

ターゲットの絞り込み

普段から宿をやっていて、ゲストの方と話す機会もあるのですが、自分にとっては他愛もない猟の話が新鮮に捉えられ、結構関心を持ってもらえることに気づき、これは自分から料理人に、また料理人からお客さんに対しても同じではないかと考えました。
そういうことでお店とお客さんの距離が近いお店をターゲットにしてみることに。
 それは自分自身の事業を鑑みても1人で行なっていることもあり、生産力が乏しいのでグランドメニュー的に月々たくさんの量をお届けするよりも、スポットで使ってもらえる方が自分としても無理なく商品を届けられると思い、そういった面でも個人店のような業態の方が噛み合っているのではないかと考えました。
 また、そのようなお店は固定のお客さんが付いていることも多く、コロナ禍でも体感したことですが、コスパなどを重視したお店よりも固定のファンがついているお店はやはり強いなと感じました。

値決めと自社の強みについて

 値段は交流のある様々な経営者から後から価格を上げるのは大変と聞いていたため、当時の相場よりも少し高めに設定をしてスタートしました。
 小規模で行うため、単価を上げておかないと続けていくのは難しく、価格競争に走ってしまうのは得策ではないと思ったからです。
 そして当時の相場よりも高めの設定で買ってもらうにはどうしたらよいものかと考えて自分で捕獲から解体まで行っている点が既存の他社と比べると独自性のある部分ではないかと考えました。

強みをどう活かしたか

 飲食店へお肉を卸させていただく際に必ず添付しているのが捕獲状況を詳細に記したシートです。捕獲日時、雌雄の別、着弾箇所、重量、推定年齢に加えて捕獲時の状況をA4用紙の半分~2/3程にまとめてその日の気候や鹿の動き、どのような状況で捕獲したのか、捕獲後のことなどなどを綴っております。
 これは捕獲から解体まで自ら行っているからこそ可能なことです。
規模の大きめの処理場であるほど地域の様々なハンターから仕入れを行っており、搬入された一頭一頭の捕獲状況を詳細に辿ることは難しいと思います。
 料理人の方々からは捕獲の状況を知ることで仕込の際に気が引き締まる、食材にありがたみを感じるなど、ご好評頂けているようです。

商品について

 普段から扱っているお肉は基本的にブロック肉で冷凍しない状態でお届けしています。ひき肉や内臓商品は傷みが早いので加工後すぐに冷凍しています。 これは急速冷凍機のような良い状態で冷凍可能な機材が無いということもありますが、基本的にあまり在庫せずに注文があってから捕獲をしているため、冷凍する必要がないからです。 また、余ってしまいそうなお肉があれば缶詰などの加工品に回すことで商品ロス対策、商品寿命の延長、お肉の単価アップにつながっています。
 扱いづらいブロック肉はプロ向け、開けてすぐに食べられるような加工品は一般消費者向けとしてそれぞれの商品特性を活かして最適なお客さんの元にお届けできるように展開しており、加工品のラインナップを増やしていくことを今後の目標として進めているところです。

加工品開発において大事にしている事

 加工品の開発にあたって大事にしているポイントは、自分でもその商品が好きであることです。 売り物なのについ自分でもパクパクと食べてしまう、そんな商品であることを前提にラインナップしています。 自分でも食べないものを他人に売れませんから、自分でも好きだからこそ推せるので営業の際にも嘘を言わなくてすみます。
 ここでも製品に対してどう売るかを考えるのですが、この商品を手に取る人はどんな人だろうか、どんな人に手に取ってもらいたいかと想像します。 その商品は日常的に消費するものか、それともお土産として大事な人にプレゼントするものなのか、それとも自分へのご褒美なのか。 それらの解像度が高くなるほど自然とパッケージや値段設定などが決まってくるような気がしています。 もちろん原価や商品の規格、仕様によっても変わってくると思いますが。

おわりに

2 024年はもう少し事業を強くしていこうと目標を立てたので、つらつらと自身の事業を振り返って言葉にしてみました。 書き起こすことで自分の考えも整理されるし、一度書いとけばいつでも見返せるのでいつかはやらねばと思っていたのですが、尻を蹴飛ばされてやっと重い腰が上がりました笑

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