ヘッドホンを片耳で

グザヴィエ・ドラン監督作品『Mommy/マミー』で好きなシーンがある。
Oasisの「Wonderwall」が流れ、1:1だった画角がスクリーンサイズに拡がるシーンだ。
大袈裟かもしれないが、わたしにもこのシーンのように世界が拡がってみえた瞬間がある。


2年前、あるアーティストのファンになった。
音楽といえばクラシックピアノを嗜んでいたくらいだが、彼らの楽曲にはきらめきや甘酸っぱさ、清涼感などが凝縮されており、青春の音がする...!と衝撃を受けたのを今でも鮮明に思い出す。

そのアーティストは、楽曲制作を自身で手掛けているらしかった。
逆説的だが、「あいつのやるこういうトラックが聴きたい」というオーディエンスの期待があるとすれば、彼らはそれに応えることのできるアーティストだった。
(現に等身大のコンセプトを掲げていた彼らは、まるで終焉まで見越してアーティストとしてのフィクションを全うしているようだった。)
そんな、どこか達観している彼らの音楽を理解したい一心で、ストリーミングを回すだけでなく制作エピソードまで遡ったのは初めてだった。


僕は音オタクなので、毎日でもサンプルパックの音源が新しく出てきた場合、すぐ買ってしまいます。その中でもドラムサウンドを最も大切に考えているのでドラムサウンドの作成にお金を多く使いますね。(略)気持ちのいいドラムの音を聞かせたくて、本当に楽しくやりました。

カセットテープだったら擦り切れるほど聴いた曲なのに、爽快なほどに打ち込まれるドラムサウンドは意識したことがなかった。
それまでメロディーラインしか掬えていなかったわたしは昏い水の底に引きこまれるような気分だった。

音楽ってこんなにもディープで面白かったんだ...


「Wonderwall」のシーンのように世界が拡がってみえたとき。
それは、音楽の奥深さを知った瞬間だった。

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