ドゥルーズに入門するためのブックガイド
最近ドゥルーズ・ブームが来ているような気がします。
ドゥルーズの思想は、現代社会のわたしたちをどこか元気づけてくれるようなところがあります。
社会がどんどん暗くなっていくなか、ドゥルーズが求められているということでしょう。
しかし、そんなウワサを聞いてドゥルーズを読んでみると、嫌いになってしまうほど難しい!
かくいう私がそうでした(笑)
というわけでドゥルーズを嫌いになる人をこれ以上増やさないために!
この見識不足なブックガイドが役に立つことを願います!
ドゥルーズの読み方;最初の一冊
さて哲学を読む場合、二次文献から読むか一次文献(原著翻訳書)から読むかが問題になりますよね。
結論から言えば、ドゥルーズの著作は難解なので明らかに二次文献から読んだほうがいいです。
ただ、最初に一冊は一次文献を読んで欲しいです。
分からなくて構わないです。
読み飛ばしていいです。
まずはドゥルーズというものを体感してみて欲しいのです。
最初の一冊としてオススメなのは『哲学とは何か』です。
文庫化されているので入手もしやすいです。
最晩年の著作なので非常に完成されています。
カンのいい人はこれだけでドゥルーズをつかめるかもしれないですね!
二次文献①;ドゥルーズを掴む
ドゥルーズの二次文献は幸か不幸か大量にあります!
どれも質の良いものばかりなのでどれを選んでもいいのですが…
と言ってはこの記事の意味がないので出来る限りのチャートを作りたいと思います。
さてまずはドゥルーズ全体の骨格を知っておきたいです。
そうなると推したいのは『動きすぎてはいけない』(千葉雅也)ですね!
こちらも文庫化されています。
本当にこの本はすごいです。ドゥルーズの真髄を掴める稀有な本。
現代思想や哲学の予備知識が多少要求される場面があるが、多少調ググればついていけるレベル。
絶対に読んでほしい一冊!
もう一冊、体系的ではないドゥルーズの思想に一つの共通線を引こうと試みた野心的な著作として『カオスに抗する闘い』(小倉拓也)を紹介します。
ドゥルーズ版『存在論的、郵便的』のような本で、ドゥルーズ理解の大きな助けになってくれるでしょう!
ドゥルーズの概略を掴ませてくれる本は他にも。
すべてを挙げるわけにはいかないので、有名な二冊を挙げておきます。
あるいは小泉義之、檜垣立哉、宇野邦一らの入門書もあります。
可能な限り読めるといいでしょう。
二次文献②;ドゥルーズを知る
ドゥルーズ初学者のよくあるミスは、上記の入門書からいきなり一次文献に入ってしまうこと。
だがこれは大抵くじけることになります…
というのもドゥルーズの場合、最もハードルが高いのは概念の用語法なわけで。
上記の入門書では最低限の用語解説しかしないので、一次文献を読もうとするととたんに付いていけなくなるんです…
そこでおすすめしたいのが『ドゥルーズ キーワード89』(芳川 泰久、堀千晶)!
タイトル通りドゥルーズの概念を89個解説してくれています。
もちろん哲学という学問の性質上これで絶対に正解というわけではないですが、一つのガイドになってくれます。
一から全て読むもよし、辞書のように使うもよし。
備あれば憂いなし!
もう一つ薦めたいのが海外著者のドゥルーズ二次文献です。
海外の二次文献がわざわざ訳されているのは、国内の研究者が評価しているからなわけです。
なのでドゥルーズ理解を深めるにあたって良質なものばかりなんですね。
少し難しい著作が多いですが、ここまでの本を読んでいればついていけるはず!
中でもダヴィド・ラプシャードのこの本は快作。
あるいはこちらもオススメ。訳が非常にいいです。
一次文献;順番について
さぁいよいよ一次文献!
ここまできたらとりあえず読んでみましょう。
問題はどこから読んだらいいのか。
一番最初の著作から読む? できる人はそれでいいですが……現実的ではないですね。
主要著作オススメの順番を紹介しておきます。
『哲学とは何か』→『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』→『意味の論理学』→『アンチ・オイディプス』→『カフカ』→『千のプラトー』→『差異と反復』→『スピノザ 実践の哲学』→『スピノザと表現の問題』(他著作は一つ一つ完結しているものがほとんどなので割愛する)
個人の興味によって読みかたは違って然るべきなので、書いていない著作から読んでもらっても構わないですが(映画好きな人は『シネマ』を最初に読んだり)。
しかし上記の著作に関してはこの順番がやはり良いと思います。
というのもいきなり『差異と反復』とか『千のプラトー』から読もうとすると絶対に挫折しますから(笑)
もっとも一次文献を以上の順番で読んでいくとしても、それでもスムーズにはいかないでしょう。
幸い、一次文献それぞれにフォーカスした二次文献があります。
次からは上記の順番に沿ってそれぞれの著作に対応した二次文献を紹介したいと思います。
また一次文献を読んでいくにあたって、『ドゥルーズ 没後20年新たる転回』を読んでおくのもいいかもしれません。
この本にはドゥルーズ著作ガイドがついています。
簡潔な要約がなされているので、読んでいる著作はもちろん、最初に全著作の概要を掴むために全て読むのもアリ。
『哲学とは何か』
さて一次文献ごとに二次文献を紹介していきたいと思います。
一番簡単な二次文献は前出の『カオスに抗する闘い』です。
本著の大きな枠組みを掴むことが出来ます。
『ドゥルーズの21世紀』所収「哲学の奇妙な闘い」(宇野邦一)も非常に参考になります。
『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』
意外にもオススメなのがこの著作です!
ドゥルーズの文章のイメージを、参照されているフランシス・ベーコンの絵画で掴むことができるので挫折しにくいです。
そうしたハードルの面だけではなく、ドゥルーズの概念系の中でも重要な〈器官なき身体〉(以後CSO)に対してわかりやすい説明がなされているのも見逃せない点です。
こちらも前出の『カオスに抗する闘い』、「哲学の奇妙な闘い」が参考になります。
『意味の論理学』
今ドゥルーズの中で注目を集めているのがこの著作。
というのもドゥルーズの著作としては珍しい注釈本『ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究 出来事,運命愛,そして永久革命』(鹿野 祐嗣)が出版されたからです
また『カオスに抗する闘い』も意味の論理学を大きく取り上げています。
ドゥルーズをはじめて読み込むにはうってつけの著作だと言えます。
注意点としては、『意味の論理学』におけるドゥルーズは後期のドゥルーズの立場とは少し違うところです。
とくに前述のCSOはこの『意味の論理学』が初出で、晩年の『感覚の論理学』とはかなり趣きが違います。
もっともそうした概念の未決定性はむしろドゥルーズの本質。
それを知るためにも『感覚の論理学』→『意味の論理学』という順番は理にかなっていると思います。
このあたりの事情は『ドゥルーズの自然哲学 断絶と変遷』(小林卓也)が詳しいです。
続く著作の助走にもなると思います。
『アンチ・オイディプス』
実は個人的に好きな著作!
フェリックス・ガタリとの共著体制、ドゥルーズ=ガタリの処女作でもあります。
本著もほぼ注釈本に近い、『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』(仲正昌樹)があります。
『カフカ』、『千のプラトー』
さぁ来ました。
ドゥルーズ(D=G)の著作の中でも難解な『千のプラトー』。
正直まだまだ研究途上で、包括的な注釈本が出ているわけではありません。
しかし多くの研究者が断片的に概念を解説してくれています。
知っている中でオススメをいくつか挙げておきます。
一つ目は「『千のプラトー』における抽象機械の理論について ―イェルムスレウの言語素論における言語図式に着目した考察―」(平田公威)URL(http://kyosei.hus.osaka-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2019/06/1-25paper_hirata.pdf)という論文です。
千のプラトーの中でも躓きやすい〈抽象機械〉を丁寧に解説してくれています。
是非読んでほしい論文です。
これに限らずネット公開されている論文で質の良いものがあるので探してみると幅が広がります。
2つ目は『ドゥルーズの21世紀』所収、「儀礼、戦争機械、自閉症」(千葉雅也)です。
クリアな図式で〈戦争機械〉を解説してくれています。
『差異と反復』
初期ドゥルーズの代表作といえばこの著作でしょう。
本著は『千のプラトー』とは違った意味で難解です。
概念が難しいというより、多くの哲学史知識が散りばめられていることが読解のハードルを上げています。
一つの対策は哲学辞書を横に置いておくことです。
哲学辞書のおすすめはやはり『岩波 哲学・思想事典』でしょう。
また『ドゥルーズの21世紀』所収、「『差異と反復』におけるトリガーとしての存在論」、前出『ドゥルーズの自然哲学』などで小林卓也が本著を大きな視点から解説しています。
また論文だと、「差異と反復』における第三の時間への導入』(木村春奈)URL(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/lt/rb/625/625pdf/kimura.pdf)が簡潔でわかりやすいです。
『スピノザ 実践の哲学』、『スピノザと表現の問題』
ドゥルーズの哲学において見逃せないのがスピノザです。
しかしドゥルーズのスピノザ解釈は非常に独特で難解です。
最後にスピノザを理解することで、今までの著作の見え方も変わってくるでしょう。
オススメの二次文献は『スピノザ『エチカ』講義 批判と創造の思考のために』です。
ドゥルーズとは書いていませんが、ドゥルーズ研究もなされている江川隆男がドゥルーズのスピノザ解釈をもとにスピノザ『エチカ』を解説しています。
ほとんど注釈に近いので、是非読んでいただきたいです。
またこの二次文献とスピノザ関連ドゥルーズ本を読めば、難解な江川隆男哲学を読むことも可能になるでしょう。
ドゥルーズの思想そのままではなく、それを発展させている江川哲学に是非触れていただきたいものです。
江川哲学の著作としては『アンチ・モラリア 〈器官なき身体〉の哲学』がオススメです!
おわりに
ブックガイドを作ってしまうことが、ドゥルーズの思想に沿っているかという逡巡がありました。
ドゥルーズの思想は体系=ツリーを批判します。
このブックガイドはブックツリーのようであることを認めざるを得ません。
それでもこのブックガイドを作ったのは、一方で逃走線は顔貌性やブラックホールを通じてこそ到達できる面もあるとドゥルーズ=ガタリが語っているからです。
いきなりカオスに身を晒すのは難しいです。
少しずつ、少しずつ、潜っていけばよいと思います。
あくまでもこれは地図です。
道に迷った時に、書き換えていただいてもかまわないわけで。
また今回紹介できなかった著作も多数あります。
機会があれば紹介したいと思っています。
加えて本記事では便宜上、ドゥルーズ=ガタリをドゥルーズとほとんど同一視しています。
しかしこれは明らかに語弊があります。
最近の研究で、ドゥルーズ=ガタリにおいてフェリックス・ガタリの果たした立場が大きいことが明らかになっています。
機会があればフェリックス・ガタリのブック・ガイドも作りたいと思います。
それでは。
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