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「『星の王子さま』がおじいさんになったみたい」な印象の患者さんは星に帰っていったのかもしれない

ほぼ内定が決まっていた時期の体験勤務にお会いしたときからずっと「『星の王子さま』がおじいさんになったみたいな人だなあ」と思っていた患者さんのHさん。


「あ〜。ああ〜。あ〜」と、言葉にならない声をよく発していた。

寝ながら右腕を斜め45度に上げて、人さし指で虚空を指さすことが多かった。


私が休みの日の夜、Hさんはお亡くなりになった。

90歳だった。

Hさんのことを、看護師さんの一人は「心配」と言っていた。でも、「もっと心配」な患者さんたちが何人もいるし、そんなに具合が悪そうでもなかったので、なんとなく気にする程度だった。


前日に死亡退院された患者さんのことが話題になるのは、朝の申し送りのときだけ。特別なことがなければ、「死亡退院されました」とだけ伝えられる。


「おととい、私はHさんに何をしたかな」と、Hさんと自分の接点を頭の中で探す。

おむつ交換だったなと思い当たる。

泥状の便の量が多かったので、「大変でしたね。今からきれいにして、新しいおむつを当てますね」と言って、陰部洗浄して、新しいおむつを当て、着ている「つなぎ」を整えて、タオルケットをかけ直した。

最後に「さっばりしましたね」と声をかけてから「『さっばりした』の押し売りみたいですみません。さっばりしていたらうれしいです」と言い直した。

Hさんはどう感じていたのだろうか。

Hさんが死亡退院したと聞いたときはドキッとしたが、なんというか、悲しみとか、それ以上の感情は湧かなかった。「指さす方向にある星に帰っていったのかもしれないな」と、ぼんやりと考えていた。











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