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読書記録1 わたしを離さないで

こんにちは、ヒコナです。
前回の記事でしれっとVtuberになりたかったと言っていましたが、一瞬の気の迷いです。
ユーチューブで読んだ本の紹介とかしたいなって思っていたのですが、思ったより動画を作ることは時間と労力がかかり、気が遠くなってしまったので断念しました。

その時に書いた動画の台本がまだ残っていたので、note用にリライトして書き起こし、供養することにします。
以下、長文になりますが読んでいただけると幸いです。

私の好きな小説を紹介します。
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」です。2017年のノーベル文学賞受賞作で、記憶に新しい方もいるかもしれません。映画化、ドラマ化などがさかんに行われていました。

特別な施設ヘールシャムで生まれ育った子どもたちの、残酷な真実を追う物語です。
違和感が漂い続ける歪な世界の中で、抗えない宿命に葛藤しながらも生きることにひたむきな少年少女たちの姿は、ページをめくるごとに胸にささって苦しくなりました。
表面上では誰もが理不尽を受け入れているふりをしなければならないけど、胸の奥では受け入れきれていないために言っていることとやっていることがあべこべで、
未熟な過ちにさえも一つの救いのないダークさが、底なし沼のように永遠に広がっているような感じがしました。

明らかに他とは違う特殊な施設で育っている主人公たちですが、のびのびと青春をおくります。
どこにでもありそうな普通の学園生活、様々な友人付き合いや恋愛をしたり、喧嘩したり、世間でよくみるいじめがあったり、自分だけの秘め事を宝箱にいれて大切にしたり、そういった普遍的な日常に微笑ましい懐かしさを感じることができます。
しかしそのありきたりな日々の背景に佇み続ける不気味な影が、物語の後半にかけて大きくなっていきます。

そしてクライマックスにかけて、その影に隠された謎が解明されていくのですが、絶望の上に絶望を重ねてさらにまた、これでもかと、やりすぎじゃないかというほどに、ひどい理不尽を重ね続け、不安になってしまうほど心が引きちぎられます。
こんなに悲しみと怒りに溢れた物語は、なかなかお目にかかれないのではないでしょうか。

抽象的な紹介になってしまいましたが、ネタバレをくらってしまうと面白さが減ってしまうので、初見の方はレビューなどをあまり見ないで読むのがおすすめです。

いきすぎた科学のモラルを問うSF啓蒙小説でありながら、美しい青春群像劇という側面もあります。
何度も読み返したのですが、読むたびに再発見があり、受ける印象も変わります。
あのときあの人物は何を思ってこの行動をしたのだろうかと、深い考察の海にもぐって思いをはせることもあります。

細かい描写の中に繊細な心理の断片が隠されていることが多いので、じっくりじっくり考えながら読むのに向いている小説だと思います。
とにかくダークなものを読みたい、深く深く考察できるような歯ごたえのあるものが読みたい人におすすめしたい一冊です。
翻訳も優しく自然なので、海外文学に抵抗がある人でも難なく読めると思います。

以下追記
「わたしを離さないで」は本当に本当に好きな作品です。
私は好きな小説は何度も繰り返して読むタイプの人間なのですが、もう7回くらいは読み返しました。
そのぐらい、何度も咀嚼して繰り返し胸に刻んでおきたい作品なのです。

3分くらいのスピーチ用に書き起こした文章なのでグダグダ長くなってしまいましたが、今後はもっと短く簡潔にまとめられるよう調整します。
素人の覚書きゆえ足らないところもあると思いますが、ご意見やアドバイスなどございましたらコメントいただけると嬉しいです。

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