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50歳の挑戦 〜その① 9年ぶりの韓国行き

韓国に行ってきた。おそらく、9年ぶり、だ…。

韓国ソウルに語学留学していたのは、2005年春から2006年秋。冬のソナタが流行し、ヨン様ブームが巻き起こった直後だ。帰国後は雑誌の仕事で韓国に取材することもあったし、個人的にもちょくちょく通っていたものの、自転車の趣味に夢中になってからは、しばらく韓国から離れていた。

ところが、このコロナ禍の3年間、日本の韓国ブームの熱気がすごい。それまでまったく韓国に興味のなかった妹も「愛の不時着」を発端にヒョンビンのファンになり、気がついたらBTSファンになって、週末には新大久保通いが楽しみなのだという。
これまでは実用書の仕事を依頼されていた出版社からは、韓国アイドル好きのための韓国語学習書の仕事の依頼が舞い込んだ。韓国の音楽やドラマをきっかけに、韓国語学習者が増えているのだ。原稿を整理しながら、私自身も久しぶりに韓国語の勉強をすることになった。
友人と細々と続けている韓国茶のネットショップには、韓国語学習者や、韓国カルチャーファンから、注文が入るようにもなった。

そんな折、韓国の友人から電話がかかってきた。「日本に化粧品の会社を作りたいんだけれど、手伝ってもらえない?」と。

彼女に最初に会ったのは、2006年、私がまだ韓国に留学していたとき。そろそろ帰国に向けて、フリーランスでライターの仕事をすべく(留学前は女性向け実用誌の編集部で編集の仕事をしていた)、準備をしたいと考えていた頃だ。
韓国の女性たちの肌がきれいというのは当時から評判だったが、キュウリやヨーグルトのパックなど、食材を使って肌の手入れをしているという話を周りの韓国人の友人たちからちょくちょく聞いたので、それを記事にしたいと、ある女性誌に提案した。
掲載が決まり、専門家に取材しようと探し当てたのが、彼女だった。食材を使った天然パックに関する著書のプロフィールに掲載されていたホームページに問い合わせたところ、取材を受けてくれることになったのだ。

自身がアトピー性皮膚炎に悩まされた経験から、肌にやさしい自然化粧品の研究を始めたという彼女のオフィスは、飾り気のない小さな会議室のような場所だった。そこでは普段から化粧品や石けん作りの教室を開いてもいたし、彼女が作った自然化粧品の商品撮影もし、倉庫にもなっているようだった。
黒いウェービーヘアで、素朴な印象の彼女は、にこやかに対応してくれた。年は当時31歳だった私の2、3歳上ぐらいだろうか。
取材では肌タイプ別に合う、野菜や果物を使ったパックのレシピと注意点をいくつか教えてもらい、紙面に掲載する顔写真の撮影をした。
最後に棚の中からいくつか彼女の作った化粧品や石けんを出してきて、お土産にとプレゼントしてくれた。
それらはとても使い心地がよく、私の肌に合うように感じたから、その後も何度か彼女のオフィスを訪ねて、韓国滞在中は彼女の化粧品を購入して使っていた。私自身もアトピーには子どものころから悩まされ続けていたから、彼女の考えに共感するところも大いにあったのだ。

帰国してからは、しょっちゅう連絡を取り合っていたというわけではない。けれど、私が韓国に遊びに行ったときに会ったり、彼女が仕事で日本を訪れたときに会ったり、東日本大震災があったときには心配の連絡をくれたり(こんなよくないことで久しぶりに連絡するのはちょっと憚られたのだけど…と遠慮がちに)。
そのあと、韓国で会った際に日本でも手作りコスメの本を出したいと相談され、2013年には『キッチンで作るナチュラルパック』(HANA/インプレス)という著書を、私の翻訳と編集で出版した。

じつはこれまでも、何度か彼女から、彼女の化粧品を私のネットショップで売らないかといったようなことを持ちかけられていたが、その度に断り続けていた。
海外の化粧品を日本で販売するためには、化粧品製造業などの許可が必要で、個人で輸入販売するのはほぼ不可能だからだ。
ライターの仕事だけでも日々忙しく、自分の専門外の面倒そうなことに手を出したくないというのも、正直な気持ちだった。

ところが、昨年2022年秋、久しぶりに彼女からLINEの電話がかかってきて、「日本で化粧品の会社を作ろうと思うんだけど」と言われたとき、
するっと「いいんじゃない?」という言葉が出てきた。
私自身は薬剤師の資格があるわけでもなし、何をどこまでできるかはわからないけれど、人や会社をつないだりすることなら、できるかもしれない。手伝うのも面白いかも…という気持ちになったのだ。
夫にも相談したところ、当然反対するだろうという予想とはうらはらに、「いいんじゃない? やるなら今だよ」と言う。

そんなこんなで、本当に手伝うかどうかはじっくり考えるとして、まずは会って話してみなければと、抱えていた書籍の仕事が校了した直後に、韓国に行くことを決めた。

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