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ロードバイクに乗り始めた頃のこと

自転車初心者

先日、所属している自転車クラブの早朝ライドで、まだ自転車を始めたばかりという女性とご一緒した。
「まだ色々とそろっていなくて」と、フラットペダルにスニーカー。それでも、危なげなくハンドサインをしながら街中を走る姿に、これまでもスポーツをされていたのかな、と思う。
私がロードバイクに乗り始めたばかりのころは、もっとフラフラ、ノロノロ、運動神経の鈍さ丸出しだったように記憶している。

私がロードバイクに乗り始めたのは、2016年春。その1年ほど前に夫がロードバイクに乗り始め、ぽっちゃりな体がだいぶスッキリしたのを見て、「いいな。ロードバイクに乗ればやせるのかな」と思ったのがきっかけだ。

自分に合った、自転車を買う

友人夫妻と一緒に行った自転車の展示会で女性用ロードバイクを試乗したところ、その乗りやすさに感動。以前夫のロードバイクに試しに跨ってみたときはフラフラして、とても乗りこなせる気がしなかったのに。
バイクの設計やサイズが自分に合っているかどうかが実はすごく大切なことなのだと気づき、帰り道、別のメーカーの展示場へ。
その1週間後、スペシャライズドという自転車メーカーの、ドルチェという女性用入門アルミバイクを購入した。

18万円ぐらいだっただろうか。ロードバイクとしては最低限の部類だが、これから本当に続くかわからない趣味の機材に18万円って、ドキドキする金額だ。
1年間、通わないジムに支払いを続けるよりはいいのかな、と考えることにした。

夫と一緒に、まずは近所を走ってみた。
ママチャリよりずっと細いタイヤで、踏切の溝を越えるときはちょっと緊張したけれど、拍子抜けするほどスルッと乗り越えられた。
ああ、この自転車を信じればいいんだと思った。

自転車で、坂道をスイスイと上っていく夢を見た。坂の先には、すっきりと晴れた青い空がどこまでも広がっている。この自転車に乗って、私はどこまで行くんだろうか。

軽井沢の坂道を、ゆっくりと、走る

べダルに足を固定するビンディングシューズを初めて履いたのは、その年のゴールデンウィークの軽井沢。
夫の勧めで、やや重さはあるものの、固定力の弱いクリッカーというペダルを使用した。バランスを崩したりしてちょっと慌てたら簡単に外れるぐらいの固定力しかないので、初心者でも無理なく使えて、ビンディングに慣れるためにはちょうどいい。

宿泊先から中軽井沢駅までは下り基調で、風をきって走るのは気持ちがよい。
そのあと、星野温泉の前を通り、峰の茶屋までの坂道を登るというのがその日の計画だった。
自転車乗りの人のブログを見て、行ってみようと思ったのだ。

10kmぐらいのくねくねと折れ曲がる上りコースだが、息が上がりすぎて苦しくなるたび何度も足をついて止まり、ゆっくりと。夫も私の少し先を行きながら、私が止まると一緒に止まり、しばし休憩する。
ゆっくり、ゆっくり。

そんなペースでも、べダルをただただ漕いでいけば、いずれはたどり着くのだ。
最後は少しだけ下って、目標だった峰の茶屋になんとかして到着すると、縁石に腰掛けて、下のコンビニで買っておいたエナジーバーをかじり、自動販売機で買ったスポーツドリンクを飲んだ。
冷たい液体が、乾いた喉に吸い込まれるようにスルスルと入っていくと、熱で沸き返ったような体が、次第に落ち着いていく。
こんなところまで、自分の脚で来られたんだと、うれしかった。

帰りの下りは怖かった。自分のすぐ右側は、車がビュンビュン走っているし、左側には側溝があって、うっかりフラついて倒れたりしたら、溝に落ちるか車に轢かれるかどちらかだ。
ブレーキをギュッと握り締めた手はすぐに痛くなり、緊張して肩の力が抜けない。どんどん先にいく夫を大声で呼び止め、何度か止まって手を休める。肩を回してみたりする。
ようやく、ハルニレテラスまで戻ってきてホッとする。コーヒーを飲んでひと休みしてから帰ろう!

帰り道、宿泊先の前にはかなり急な上り坂があった。力いっぱいペダルを漕ぎ、あともう一歩、というところで力尽き、うわっ、転ぶ!と思った瞬間、クリッカーから足はずれて、片足を地面につくことができた。
セーフ。クリッカーにしておいて、本当によかった。

趣味はロードバイクです

東京に戻ってから、ロードバイク乗りたちがみんな行くという、南多摩尾根幹線道路、通称“尾根幹(オネカン)”にも行ってみた。
“矢野ロー”と呼ばれる矢野口駅前のローソンの前から、坂道を上ったり、下ったり。何度も止まって、途中のコンビニで休憩をして、終わりの地点までたどり着く。
ただただ、うれしかった。
私もローディの仲間入り。趣味はロードバイクですなんて、私の人生にこんな日が来るとは想像したこともなかった。

運動音痴でも、大人になってからのスポーツは楽しい

ペースが遅いのは、まったく気にしていなかった。
ゆっくりでも、途中で足をついても、自転車乗りに人気だという場所に来て、その道を最後まで走り切った。それだけのことが、大きなことを成し遂げたように、うれしい。
子どもの頃の体育の成績はいつも2。運動音痴で、マラソンが趣味なんて人、意味がわからないと思っていたのに。

大人になってから始めるスポーツはこんなに楽しいだなんて、知らなかった。速いとか、遅いとか、そんなことは関係なく。

その後も、自転車乗りに人気だという津久井湖にあるゼブラコーヒーに行ってみたり、そこまできたら山中湖まで行けるんじゃないかと距離を伸ばしたり。
どんどん、ズブズブと、自転車の魅力にハマって行った。

翌年からグループライドに参加するようになったら、「坂が苦手で嫌い」という人が、自分よりずっと早く、スイスイと上っていくのに驚いたりはしたけれど……。

私は元々、自分は鈍臭くて当然、速く上ろうとなんて全く思っていなかったから、坂に対する苦手意識もなかった。
ゆっくりと、コツコツと上っていくのは楽しかったし、ここまで自分の脚でこられたという達成感や、ゆっくりと流れていく風景に包まれている感覚が、好きなのだ。

40歳を過ぎて始めた自転車。
あのとき、自転車を始めていなかったら、今の自分は一体どうなっていたのだろうかと、想像もつかない。
体を動かすことの楽しさ、四季折々の美しい景色の中に包まれる感動、いくつになっても、体はちゃんと動かせば応えてくれるのだという自信。

自転車は、私の人生そのものを変えたと言っても過言ではないのだ。

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