40代、これから何をする?

社会人になって間もない頃、私が女性誌の仕事をするようになったきっかけを与えてくださった、元上司に会った。
親と同世代の元編集長は、何年も前に定年退職されているのだけれど、年に一回ぐらい、昔の編集部の集まりがあったり、ご自宅に招いてくださったりして、交流が続いている。

手づくりのウール地のスーツに、お母様が使っていらしたという帯をご自身でリメイクしたというグレーのバッグを組み合わせ、白髪のショートカットで、待ち合わせしたビルのエレベーターホールに、ニコニコと変わらぬ笑顔で現れる。

「以前はまだ雑誌もお金があったから、予算を使っていろんな場所に行ったり、いろんな人と会ったり、それはそれで面白い経験をたくさんさせてもらったわね。でも、結局、退職後の今の生活だってやってることは変わらないのよ。親が残した着物の生地を使って自分で服やバッグにリメイクしたり、工夫して何かつくるのって楽しいのよね。雑誌や本をつくるのと同じよ」
とおっしゃる。

大学を卒業したてで、半年間勤めた田舎の書店から、都会にある出版社に転職したとき、仕事で出会う女性たちはキラキラと輝いて見えた。

料理家の栗原はるみさんのお宅にうかがい、こんな暮らし方があるのかと圧倒された。
当時、栗原はるみさんは「キレイな50代が増えると、日本は変わると思う」というキャッチコピーの資生堂のコマーシャルに登場したり、
「はじめは普通の主婦でした」というテーマで、同じく料理家の藤野真紀子さんや山本葉子さんとともにNHKで特集されたりしていた。

上司の元編集長も、私には同じくらい「キレイな50代」に見えたし、周りのだれから見てもベテラン編集者で、実績もあるのに、「私は主婦だから…」と、偉ぶらないのだった。

共通していたのは、みんな専業主婦だった経験があり、何らかのきっかけやチャンスで30代半ばを過ぎてから仕事をするようになって、40代、50代になってから仕事で注目を集めたということだ。

当時、編集部でいちばんの働きざかりという感じで仕事をしていたのは、40代の先輩たちだった。
子育てまっただなかで、忙しく仕事をしている最中に子どもから電話がかかってきて「明日の学校の工作の準備をしなきゃ、こんな時間にどこで買えるかしら」と焦っていたり、
独身でいる同僚に、「いい人はいないかしら」とお節介を焼いていたり、
子どもができないと悩む先輩が「今度の旅行で、なんとか」なんて話していたり…。
みんな仕事ができるのに、悩みを含めて、プライベートのことが垣間見える感じが、ステキに見えた。
「子育てしながら仕事を続けるのなんて、運の積み重ねなのよ。職場の環境とか、近くに親がいて子どもを見てもらえるかどうかとかいうこともあるし、子どもの体が弱かったら、仕事どころじゃないかもしれない。自分の意志や能力だけではどうにもならない要素がいっぱい」
と、当時そのなかでもいちばん中心になって仕事をしていた先輩は話していた。

自分が40代になって、当時40代だった先輩たちが、なんだかキャピキャピしていた感じがよくわかる。まだまだ女盛りだし、相変わらずおしゃれは楽しいし、これからのことに夢を抱いたり、悩んだりしている。
自分が持っているもの、持っていないものが20代のときよりは明確になっていて、その分やりたいことやできることが具体的だ。
 
ステキな元上司と久しぶりに会って、当時キラキラと輝いていた先輩たちの姿に夢がふくらんだ気持ちが蘇る。ああ、これから何をしよう。あんなことも、こんなこともできるかもしれないと、妄想が広がるのだ。

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