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あのバカはカランサを目指す

今日も探偵事務所のドアを叩く者は居ない。電話のベルも鳴らない。
電報が届いたりもしない。
がしゃん窓ガラスを割って血まみれの男が予約もせずに突入してきた。

「見つけたぞ、カランサ!!見つけたぞ、見つけ、見つけた……!!」
彼がおれに狙いをつける。そして、彼の瞬きよりも早くおれの銃が火を吹いた。個性のない断末魔が響く。そして倒れた。

血まみれの男。服の上からでも目立つような外傷は、額に作られたばかりの三つの風穴の他には見当たらない。……屈みこんで検分している場合ではない。所詮おれは本当の探偵ではない。電話で警察を呼ばねば。
立ち上がろうとするおれの視界に見慣れない靴とスラックスが映る。おれの額には金属質の冷たい感触がある。「よう、兄弟」と聞き慣れた声がする。
おれと同じ声。同じ銃。眼球を動かして声の主を見る。見るまでもない。おれと同じ顔の男がいつの間にか(勿論おれの気付かぬ間に)部屋に立っている。

(続く)



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