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[読書の記録] 勝部元気『恋愛氷河期』(2015-09-30読了)

『恋愛氷河期』(勝部元気 2015)

 勝部さんははあちゅうのyoutubeとかにも出ていたりする、男でありつつフェミニストであるという社会派のライターだ。

 これまで読んだ中でも最高レベルに誠実でまじめな恋愛研究本であった。
現代の男女を取り巻く恋愛にまつわる困難の原因を淡々と分析している。
 とはいえ、女性寄りの目線から、「幸せな恋愛をするには?」というhowの問いに対して答えを導こうともしている。導かれた答えはいずれも一朝一夕では実践できそうになく、どちらかというと「幸せな恋愛とは?」というwhatを掘り下げるような、いわゆるハウツー本の類からは程遠い内容であるのに変わりはない。

 社会の制度や慣習がどれだけ変化し、価値観が多様化しても、滅びゆく肉体を持った人間の実存は変わらない。ここに齟齬が生じた結果、我々が恋愛し結婚することは難しくなってきているという。
 これが「恋愛氷河期」の正体であり、恋愛に起因する生き辛さはすべて社会のせいだと勝部氏は喝破する。勝部さんはアンチナンパの立場をとっており、徐々に人口に膾炙してきた藤沢先生の恋愛工学についても断罪している。(※この感想文は2015年に書かれています)

 本書では、「自由恋愛の期間(ようは初恋から結婚までの期間。離婚すれば話は別だが)が延びた」とされている。確かに30代だろうが40代だろうが50代だろうが恋愛をすることを受け入れる空気が社会に醸成されつつあるような気もする。
 既婚のオッサンでも女子大生とかキラキラOLとガンガン合コンをし、オバハンでも男に手折られる気マンマンで美容にダイエットに余念が無いやつらがたくさんいる。
 こうした自由恋愛の期間の長期化と恋愛プレイヤーの増殖は、恋愛ゲームの戦い方やゲームに対して臨む姿勢に多様性を生みだす。これはいわば「必勝の方程式」が無くなることを意味しており、結果として世の中には「恋愛工学」や「LOVE理論」に代表される小手先テクニックがあふれ、ヤリチンや恋愛工学者は腕を鳴らし、恋愛コラムニストや合コンコンサル、婚活アドバイザーは富み、メンヘラ女やVERY妻ワナビーは承認欲求をさらに肥大させ、処女・童貞はさらに処女・童貞をこじらせる。

 こういう状況に少しでも違和感や生き辛さを覚える自由恋愛市場のプレイヤーは、この本を開いてみると良いだろう。

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