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デート中に初号機が暴走した話。
上の初号機は2年前に胃腸炎で入院中に描いたやつ。
タイトルの事件が起こったのは私が20代前半の頃の出来事。
当時私は飲食店でアルバイトをしており、そこによく来る常連のお客様がいた。
この人の名をシンジ(仮名)とする。
シンジは6歳年上の会社員で、私とはアニメや漫画の話でよく盛り上がった。
バイト先を辞める時に連絡先を渡されて、それ以来よく2人で食事や遊園地に遊びに行く仲になった。
シンジはやたら金を持っていたのか、なんか凄い高級そうなフレンチレストランとか洒落ついとるお店に沢山連れて行ってくれた。
シンジはキザな言い回しをよくする人だった。なんか常にクールぶってた。某有名企業に勤めていることを定期的にアピールされた。
あと事あるごとに「俺もう歳だから」とも言っていた。何アピールや。
20代前半のぺーぺーだった私はそんなシンジも大人の男性に見えていた。若い頃ってそういうのあるよね。
デートに行くだけの関係が数ヶ月続くも特に何も言われなかったので、私も何も言わずこの状況を楽しんでいた。この人に会えば美味しいものが食べられると思っていた。
ある日のデート先はカラオケだった。
私はカラオケが嫌いである。歌が下手すぎるから。
歌上手になりたいなと思って1回だけヒトカラに行ったことがあるが、自分の歌があまりにも下手すぎてくそおもんなかったので20分で帰ったくらいには嫌い。
その日は「私は歌わなくて良いなら行く」と宣言して行った。
シンジリサイタル開始。
なんか普通にミスチルとか歌ってた。
私はメロンソーダ飲みながら聴いてた。
シンジ「喉が仕上がってきたわ。」
なんか凄いむかつく発言されたけど当時の私はシンジが大人の男に見えていたのでスルーした。
送信された曲はエヴァンゲリオンのオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」
出だしの歌詞が流れるも、一向に歌わないシンジ。
ん?歌わんのか?という表情を投げかけるも、
「まだだから。」とシンジ。
何がまだなんや、もう曲始まっとるけど。
なんか数十秒くらい無言でカラオケの映像を見つめる我々。
曲だけがずっと流れる空間。
そろそろだと言わんばかりにシンジはスッと立ち上がり、マイクを手に取り言った
「聴いてください、初号機の暴走シーン。」
カラオケのアニメ映像に合わせて唸るシンジ
「ウオォォォォオオォォォォォオォォォッッ」
何が起こったのか一瞬理解できなかった。
目の前のシンジはひたすら高いんか低いんか分からん声で唸りまくってる。甲子園球場におるんかと思った。今までのクールキャラはどこに行ったシンジ。それは十八番なのかシンジ。まじでどうしたんシンジ。
わざわざちょっと待ってたのは、初号機が暴走するシーンに合わせるためだったらしい。
ここで最重要事項をお伝えしたいのだが、当時私はエヴァンゲリオンを一切見たことが無かった。
アニメより漫画派の私は、シンジが好きなアニメの殆どが漫画原作だったのもあり、原作は読んだことあったけどアニメは見たことないみたいな感じだった。それ故話にはついていけるが、アニメネタはいっそ分からなかった。
どう反応するのが正解なのか本気で悩んだ。
モノマネにおいて重要な、似てるか似てないかの判断がつかないのである。
途中で店員さんが追加のメロンソーダを持ってきてくれた。最悪なタイミングすぎる。
シンジは店員さんに一切動じず暴走し続けている。シンジくん、黙りなさい。
どんな感想を述べるべきか脳内フル回転させている間にシンジの暴走が止んだ。
やりきった顔でこちらを見るシンジ。
精一杯の感想として出てきた言葉は
「………強かった…」
だった。なに強かったって。戦ってんじゃん。負けてんじゃん。だって無理じゃん。汗だくなんだぜシンジ。なんでだよ。
今思えばめっちゃ普通に「実はエヴァ見たことないんよねー」て言えばよかったんだが、余りにも全力でやってくれている点と、こちらがエヴァを履修済みであることを信じて疑わないその姿勢に敗北した。
その後もシンジとは普通に何度か食事に行ったが、
「実は婚約者がいるんだけど、君と天秤にかけている。どうしたら良いかな。」
と告げられた日を最後に連絡先を消した。
シンジくん、しになさい。
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