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ここでは皆同じで、ちょっと良い気分

息子がアメリカの学校に通い始めてもうすぐ1カ月。
よほど目新しいのだろう、ドイツの学校と何が違うか、どのように違うかを
ほぼ毎日報告してくれる。それでも、もうそろそろ新しく感じる事柄が無くなってきたのではなかろうか、と思っていた先週のある日のこと。帰宅してきた息子から、調べものを頼まれた。
「あの、何ていうのかな、知ってる?アメリカの旗に向かって言う言葉。。。みんな言ってるから、調べてほしいんだけど。」
ふむふむ、何だろうか。一瞬の間、思考停止してしまったけれど、もしかして。。聞いたことのある、、忠誠の誓いではなかろうかと思い、息子に文言を見せてみた。
「これです。ありがとう。ちょっと待ってね、写すから。」

正直なところ、ここで私の心の中は驚きと疑問と混乱で一杯に満たされた。あれ、私、この子のことをよく分かってると思っていたけど、どうも違うらしい。でも、具体的に「何」を分かっていたつもりで、その「何」がどう違っていたのかは自分でもはっきりとはわからない。一晩、考えてみた。

一晩だったのが、二晩になり、日曜日。
街の中心にある公園へ出かけたら、広大な敷地の中にあるパビリオンでオルガンのコンサートが開催されていた。息子が好きな曲が、曲目にあったので
ひと時の間、オルガンの音に聴き入ることに。パビリオンの上空は、航空機の着陸進路になっているのだけれども、風向きが変わったためか、離陸したての航空機が通るようになり、時間の関係もあって、お目当ての曲は飛ばされてしまったのだが、それはさておき。
コンサートの終わりに、オルガン奏者がアメリカ国歌を演奏した時のこと。
ドイツではコンサートの終わりに国歌が演奏されることはない、少なくともそういった場に居合わせたこともなかったため、私は「違い」を感じ始め、、、たところで、息子が右手を左胸においたのを見た。びっくり、である。

帰宅してから、少しばかり息子に話を振ってみた。
息子が言うには、学校では2日に一度、授業が始まる前に、星条旗に向かって右手を左胸に置き、忠誠の誓いの文言を言うそうだ。ドイツの学校ではないね、あ、サッカーのワールドカップでは国歌を歌うのを見るね、と無邪気に言う。「ここではね、どの国の人も、みんな同じみたい。みんな、旗に向かって、手を胸において、あの誓いの言葉を言うんだよ。なんかね、ちょっと良い気分」。

私はてっきり、息子はドイツで生まれで育って、ドイツ語を母語としているから、母方が日本の出身でも、帰属感はドイツなのだろうと思っていた。ところが、である。この「ちょっと良い気分」というくだりを聞いて、わかった。息子は何も言わなかったけど、半分は外国人という感覚を持たざるをえないことが、そうした時が、きっと何度かあったのだろう。どこの出身か、聞かれたこともあったのだろうか。帰属先がドイツでも、日本でもない、そんな感覚を、11歳にして既に抱いていたのかもしれない。息子がこれまでに経験したきたこと、そして、新しい地での全く異なった経験。息子はこれから自分の帰属先を探して、見つけていくのだろう。ちょっと良い気分、何というか、私にはちょっとくすぐったい言葉だった。

なるほど、おそらく、もしかして。数日前に私がわからなかった「何」かの正体は、きっとこの点。帰属先についての思いや考え。どこかで、息子の帰属先を勝手に想定してしまっていたから、彼が忠誠の誓いについて聞いてきた時やコンサートの最後に手を胸に置いたのを見た時に、大きな驚きと疑問、混乱を感じたのだ。そう思いなおすと、今度は頭がとてもスッキリした。そうか、息子の成長に伴って、これからも同じ様な事がきっと何度も起きる。私は彼の成長に伴って、過去を振り返って思考を深める。教えてあげられることはどんどん少なくなっていくけれど、彼から教えられることは逆に増えていくのだろう。それでもまだ、少し、複雑な思いが心に残っているけれど。





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