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調査報道の「基礎」を養う絶好の機会 毎年恒例の「政治資金」報道に思う

安倍晋三前総理と「桜を見る会」前夜祭をめぐる問題は、私が11月23日に記したように、各メディアが競うように続報を報じ続けている。そんな最中、2019年分の政治資金収支報告書が11月27日付で公開され、安倍氏の政治団体が19年分の収支報告書でも前夜祭の補填分を記載していなかったことが明らかになった。桜を見る会についてはまた機会を改めるとして、本稿では政治資金収支報告書に関する報道についての裏話などを披露したい。

新聞購読者が年々激減する中、複数の新聞を購読している方は少なかろうが、11月28日付朝刊は各紙とも政治資金に関する記事をそろって複数面に渡って掲載した。本稿の写真は28日付朝刊(朝日、毎日、読売、日経、産経)の政治資金に関する特設面を撮影したものだ。これらを読み比べてみた。

「自前」の特設は朝日・読売のみ

まず残念だったのは、毎日、日経、産経の特設面は、見出しやレイアウトは異なるが、大半の原稿はほぼ同じ内容だった。どうやらこの3紙は共同通信が配信した記事を使って特設面をつくったようだ。私は、2000年頃に初めて政治資金の取材・執筆を経験して以来、約20年に渡って世に報じられる「政治とカネ」に関する記事を精読し続けてきたが、ほんの数年前まで3紙の中でも毎日新聞くらいは自前で特設面もつくっていたような・・・(違っていたらどなたかご指摘ください)。まぁ、どこも厳しい中、同じ政治とカネでも、いわゆるスクープ取材の方に人的リソースを集中的に投入しようということだろう。

毎日、日経、産経が使用した共同通信の記事は、主要政党の収入比較▽主要政党の党首の収入比較▽自民党の派閥の収入比較▽企業・団体献金の傾向・・・など、例年とほぼ同じ切り口の記事だった。毎年同じ記事を書き続けることも大事だが、そろそろ一工夫あってもいいのではないだろうかというのが率直な感想だ(共同の担当記者の皆さま、ごめんなさい)。

ということで、今も自前で特設面をつくっているのは全国紙では朝日と読売だけだった。朝日は、資金提供者の匿名性が問題視される政治資金パーティーに焦点を当てた特設面だった。各派閥の収入などの経年分析に加え、コロナ禍でのパーティーの実態をルポするなど、今風の読み物にする工夫も。そしてそもそもパーティーがなぜ問題視されるかについての解説記事も掲載。パーティー「1点突破」といった様相だ。

読売は共同(つまり毎日、日経、産経)と同じく、主要政党の収入比較や主要政党党首の収入比較などの「定番もの」が大半を占めるが、いわゆるメイン記事は収支報告書の対象となった2019年にあった参院選に焦点を絞った。そして、公職選挙法違反(買収)の罪で公判中の河井案里議員が参院選でいかに巨額の政治資金を投入されていたかという事実を浮き彫りにしている。

政治資金の取材は調査報道の「基礎」

ところで、私が2000年頃に初めて政治資金の取材に携わったことは既に述べたが、以来私は地方拠点を含む様々な部門で何度も政治とカネについて取材・執筆した。また詳しく振り返る機会を持ちたいが、私の古巣では、政治資金の取材は調査報道の「基礎」を磨く訓練の場として、重要視されていた。だから、毎年11月の政治資金収支報告書の取材には、社会部だけでなく、大阪や名古屋などの拠点や地方拠点の有望な若手が数週間駆り出されていた。2000年の私の初取材も、若手の1人として招集されてのことだった(有望と思われていたかはさておき)。

そうして集められた若手は、社会部の調査報道班に加わり、ベテラン記者らとともに数週間のチームを構成。収支報告書の見方から、端緒となる情報の収集方法、裏付けのための資料収集方法、そして取材対象者への取材の手順などがみっちり伝授される。何より収支報告書を見ながらつかんだ端緒や政界や地方から集めた噂を元に、問題・疑惑の全体像の見立て方、取材や資料からひとつ一つ裏付ける過程、そして報じられたくない取材対象者との息の詰まるやり取りなど、とても勉強になる(と思う)。

私もそうだが、政治資金の取材を機に、調査報道の世界に魅せられ、さらに経験を重ねて記者として成長した人は数多い。またその過程で、地方から東京に招集された若手記者の多くは、任地に戻ってからもこの取材手法を生かして、地元で重要な調査報道を担うことも多いのだ。

私の古巣では数年前、政治資金の取材に人工知能(AI)が導入され、スキャン・OCR解析して電子データ化された大量のデータをAIが過去の事件・疑惑パターンごとに分類し、抽出した上で「端緒」を人間(記者)に提示するシステムを試行した。今頃はきっと実用化されていることだろう。

大量の紙の資料から端緒を拾い上げる職人技も大切だ。過去のパターンに属さない新たな構図の疑惑を発見するのはやはり経験がものを言う。しかしAIの力を借りて、その分をスクープにつながる取材に人的リソースと時間を集中的に投入することも、これからの時代の調査報道のあり方だろう。職人技を絶やさず伝授しつつ、テクノロジーの力を取り入れる――。私は「あり」だと思う。いわゆる「集中と選択」だ。

何より、「権力監視」というジャーナリズムの重要な責務を、メディアにとって厳しいこれからの時代にあっても絶やさず担い続けていくことが大切だ。私も、これからもウォッチしつつ、そうした大切さを訴え続けたい。

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