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【日記#52】ブカレスト:チャウシェスクと罰金の旅
1月17日(水)
始発の地下鉄でヒースロー空港に向かう。
不穏な連中が地下鉄にたむろしていたが、逃げる場所もないのでじっとする。
今日からルーマニアに旅行する。
3時間20分のフライトを経て、アンリ・コアンダ国際空港に到着。
やや鄙びた空港で、閑散としている。
入国管理では、多くのベトナム人を見かけた。所持品などからして労働者だと思われる。
経済的な発展を遂げつつある現在のルーマニアにおいては、アジア圏からの外国人労働者によって労働力不足を補っていると聞いたことがある。
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空港からは高速鉄道で、首都ブカレストの中心部まで移動する。
ドラキュラ伯爵のモデルである「串刺し公」ヴラド・ツェペシュの居城、ペリショル城は、ルーマニアの地理的な意味での中心部に近い。
対して首都ブカレストは、ルーマニアのほとんど南端にある。
ペリショル城とブカレストは電車で2時間くらい離れている。
ルーマニアでの滞在時間はそれほど長くない。今回はブカレストだけを回ることにしよう。
ところで、チケット買いたいが券売機に英語表記が無かった。
この国は外国人観光客のことを想定していないのかもしれない。
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私たちは、おそらく駅で唯一のアジア人だった。結構チラチラと見られるのを感じる。
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ホテルへの行き方が分からず困っていたところ、子連れのおじさんが道を案内してくれた。見返りを要求することもなく親切にしてくれた。
夜の街を歩く。
物乞いの子供や街娼などがいないわけではないが、少なくとも明るい通りを歩いている限りはそれほど危険な目に会うことはなさそうだ。
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議事堂宮殿(「国民の館」)の外周を歩く。ニコラエ・チャウシェスクが建造させた「宮殿」であり、世界で2番目に広い建物だそうだ。
周辺部の一辺を歩くだけで10分はかかった。膝を痛めていたので、歩き終えたときは半泣きになっていた。
晩御飯は"Caru' cu Bere"というレストランで食べることにした。
いろんな国の客がいるようだ。
見た目の彩りは大したことないが、一つ一つ美味い。
ルーマニアの伝統的な酒ツイカを飲む。ウイスキーのような外見だが、より甘くて軽やかな風味がする。少し舐めるだけで、少し青い甘酸っぱい果物の匂いが口に広がる。
しかし、非常にアルコール度数が高いので注意が必要だ。一気飲みをすると喉が灼けつく。
フラスコのような独特の容器に40ミリだけ注がれるが、これで十分
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薄皮のソーセージは、香辛料がふんだんに用いられていて、噛むたびに出てくる肉汁が食欲をそそる。
非常にまろやかなマスタード風味のソースと共にいただく。
燻製豚もとても美味しい。噛めば噛むほど旨味が出てくる、
ザワークラウトのような酢漬けキャベツはさわやかな味わいだ。
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ポレンタは、卵とつぶつぶのコーンミールを捏ねて作った料理だ。
正直なところ味がしない。水気の少ないお粥みたいだ。
キャベツや燻製肉の味が強いので、つけ合わせてとして食べるとちょうど良い。
1月18日(木)
ブカレストは北海道北端の緯度と同程度の場所に位置する。しかし、そこまで寒くはない。
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今日は議事堂宮殿に行く。
予約なしで行ったが、特に並ぶこともなくチケットを買えた。
英語ガイド付きだと学生30レイ(大人60レイ)だった。入る前にセキュリティーチェックとパスポートのコピーを求められた。
ツアーは1時間であるが、宮殿全体の6%しか見ることが出来ない。
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ガイドは流暢な英語と小粋なジョークで観光客を楽しませてくれる。観光客は1回のツアーあたり30人くらいだろうか?
かなり足早に進むので、写真ばかり撮っとると話を聞き逃すし、逆もまた然りで話を聞いてると碌に写真撮れない。
2回、3回参加するに値するツアーだ。
宮殿内には無数の部屋があり、それぞれがヨーロッパ各国の建築様式を利用した意匠を凝らした形になっている。
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宮殿のお土産コーナーにあるものは、地方都市の観光地のような品揃えだけだ。
商売っ気がなさすぎる。
しかし、観光地として整備されていないからこその面白さがあるとも言える。それはブカレストの街全体に当てはまることでもある。
街のパン屋で買い食いしながら旅をする。
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バスはクレジットカードで払えるようだ。
もっとも、大概の人が決済をしていない。定期券を使っているのか、それともキセルなのだろうか?
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チャウシェスク邸に向かう。高級住宅街と思しきところにある。
余談だが、道路に多くの鳥の糞が落ちている。
4時からのツアーが最後だったため、残念ながら解説は受けられなかった。
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チャウシェスク邸の隣にはクウェート大使館があった。運命を感じる。
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ルーマニアの人は、この冬訪れた国の人々とだいぶ異なる。
教会の間を通り過ぎる時に教会を向いて十字を切る人が少なくない。
横断歩道で必ず車が止まってくれるのも印象的だ。
"my romanian store"でお土産を探す。
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晩御飯は昨日と同じところで食べる。
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オリーブとニンニクの良い香りがする。
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トマトと根菜、豆が具材。素朴だが、食材の旨みと栄養に溢れる。
ご飯を食べていると、ポーランド人に話しかけられた。東大経済学部卒の彼は、極めて堪能な日本語を操った。
主に小説について話をした。
「日本のビジネスマンはおカネの話ばかりです。文化的な話をする、そういう心を忘れないで下さいね。」
彼は言った。
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1月19日(金)
バスでアンリ・コアンダ国際空港に向かう。
バスの支払い装置が壊れているようだった。
無賃乗車を疑われては困るので、周りの乗客に支払い意思があることを伝えた上で(いったいどれだけ英語が伝わったのかは分からないが)、次のバス停で降りようとした。
嫌なカンは当たるものだ。なんとその駅で、切符の有無を検査する保安員が乗りこんできた。
乗ったバス停の次で、保安員がくることなどあるだろうか?
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大勢の乗客が降りていく。もしかしたら全員キセルだったのかもしれない。
ルーマニア語は私には分からないが、恐らくは「切符を見せろ」ということを言われたのだと思う。
私は支払機の件を英語で伝えたが、最悪なことに、保安員には英語が通じない。
支払い不履行につき、罰金80レイ(およそ3000円)を請求された。
他の乗客たちはものすごい剣幕で擁護してくれた。バスの中が紛争状態のようになった。
「私たちはお金を払おうとしたし、周りにいるすべての乗客がそれを見ているはずだ。現に昨日はクレジットカードで払えたのだから、このカードマシンが壊れているのが問題であって、私には何ら非がない。これはルーマニアの問題を無辜の旅行客に擦り付けているに過ぎない。」
私は英語でそう言ったが、何割伝わったのだろうか?
近くにいた中年女性は「あなたに非は無いわ。ごめんなさいね。」と英語で伝えてくれた。
「こいつらは偽物だ。絶対に金を払うな。逃げろ!」
おじさんは片言の英語でそう言いながら去っていった。確かに、この人たちが本物の保安員である保証はない。
しかし保安員には何を言っても通じない。保安員は必死に何かを言っている。「500レイ」と「ポリス」という単語だけは聞き取ることができた。
スーツケースがあり走って逃げることもできず、飛行機の搭乗時間も近く揉め事を起こすことも出来ない。朝7時10分に日本大使館が開いているとも思えない。
仕方なく、罰金支払いを受け入れることにした。しかしルーマニア・レイの手持ちがない!
ユーロを渡すと、律儀なことにお釣りをくれた。保安員はカードを渡して去っていった。
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どうやらこれは一日有効の乗車券らしい。
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名物と思われるROMチョコは市内のスーパーやコンビニにて買うべし。私はshop and goというコンビニに行った。
トルコのサビハ・ギョクチェン国際空港にてクウェート行きの便を待つ。
友人が日本から持ってきてくれた森見登美彦『恋文の技術』を読んで時間をつぶした。
いわく、今の私に最も必要な実用書とのことである。
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1時間半遅れでクウェートに出発する。
これで冬休みの旅行も終わりだ。
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