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【#105】☀️不滅の男

7月8日(月)

普段はハーリド教授が講義をしているが、彼が病気になったので代わりにイブラーヒームが教えることになった。

ハーリドは「不滅の」というような意味だ。

遅刻者への厳正すぎる対処が憎悪を呼び、声ならぬ怨嗟の声が呪いとなったのではないか?不滅の男と言えど、強すぎる呪いには対抗し得ない。

そんな噂が実しやかに囁かれるようになった。


【文法】イブラーヒーム

所有格・属格(المجرورات)について。

ジャッル(الجر)とは、本来は引っ張ることである。ベドウィンはテントに住んでいたが、テントを建てるときに強く綱を引く必要がある。その行為がジャッルだ。

アラビア語文法においては、語尾をiの音(الكسرة)で発音すること、つまり属格(所有格)とすることである。

属格になる場合の一つとして、フルーフ・アル=ジャッル(≒前置詞، حروف الجر)(具体的にはمن/إلى/على/في/ب/ك/ل/حتى)の後にイスムが来る場合がある。

ダルフ・マカーンとザマーン(ظرف مكان و زمان)(具体的にはعند/قبل/بعد/مع/تحت/فوق等)の後に来る語も同様だ。

フルーフ・アル=カサム(حروف القسم)、すなわち神に誓う時の(و،ت،ب)の後もそうだ。

ワッラーヒ(والله)は頻出。
若者でもよく使う。これはクウェート大生とのチャット。英語のreallyのように、強調の副詞としても、感嘆詞としても使える。スィッジ(صج)も「本当に」という意味のクウェート方言で、ワッラーヒと同様の使い方ができる。エイも方言。「エイ、ワッラーヒスィッジ(اي والله صج)」は「そう、マジでホントだよ!」。

イダーファ(إضافة)については、ムダーフ・イライヒ(مضاف إليه)が属格となる。

いくつか例外的なことも確認せねばならない。

一つはジャッル・ムカッダル(جر مقدر)である。人名のムーサー(موسى)のようにカスラで終えることが不可能な語については、発音/書き方の面でカスラが付与されることはない。

もう一つは、詩における例外である。
例えばテスト対策で暗誦する羽目になったムアッラカートの詩などは、全て行末がカスラの音で揃えられている。これは文法的にはカスラになり得ないものも含む。
これは詩における必要性(ضرورة شعرية)とのことだ。


【歴史】イブラーヒーム

歴史についての口頭試問。

私は「イスラームにおける軍事について何か語れ」と問われた。

私は習った単語を片っ端から述べたところ、「まぁ、良し」と言われて途中で切られた。

60人の学生全員に何らかの問いかけをしている。曰く「サーマッラーはいつ、何のために建設されたか?」「アラビア語の文化的特徴を述べよ」「ジャーヒリーヤ時代の代表的なスークを3つ述べよ」など。

授業で発言が多い学生ほど、短い質問で済まされた印象がある。


【文学】ナジャーハ

ズー・イスバア・アル=アドワーニーの散文を学んだ。もはや詩ではなく文学の講義だ。


晩御飯。パスタが美味しい。

イブラーヒーム教授は1学期から、授業開始1時間前には教室に来ていた。病気で休講になったこともない。

既に定年退職しており非常勤講師として教える立場にも関わらず、正規教授のフォローにさえまわる。

イブラーヒームこそ、真の「不滅の男」なのかもしれない。

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