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端山茂山奇譚(玖)

端山茂山奇譚(玖)

ずっとあの遠くの山を見ているな。

白い頂の美しい形の山。

どの山よりも高くそびえている。

昔、天の神が、あの山に宿を求めたが、祭りの晩で、断られたそうだ。

そこで今度は、天の神は、この宿に宿を求めたら、同じく祭りの晩だったが、丁寧にもてなしたそうだ。

そこで、天の神は、宿を断ったあの高い山は人が近づかない呪いをかけ、あのように一年の多くを雪が閉ざし、
草木も生えぬ山になったそうだ。

そして、丁寧にもてなしたこの山には、美しい緑と実りをもたらして人々が集まる祝福を与えたそうだ。

…山にとってはどちらが良かったのか、実のところ、わからんが。

しかし、呪いかどうか知らぬが…あの山は、時折、火を噴く。
焼けた土を吐き出て辺りを焼き払い、灰をあたりに撒いて積もらせる。

この山にも灰が飛んできたこともあったな。

でも、この山は穏やかな、大きな岩のままだ。
草木が生い茂り、いきものたちが行きかう。

それがその天の神の、寿ぎだという。

この山を崇める者たちは、そう語り継いでいる。

…まあ、山にとっては、あるままでいるだけだがな。

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