ケア衣料が「想い」を伝える重要性とは?carewillコーポレートアドバイザー藤本幸三氏インタビュー
さまざまなメンバーに参画していただいているケア衣料ブランドcarewillの、参画メンバーの想いを詳しくお伝えする取材シリーズ、今回はcarewillにコーポレートアドバイザー、アーティスティック・ダイレクターとして携わっていただいている藤本幸三さんにお話を伺いました。
前編は、carewillに携わるきっかけや、よいデザインについてのお話です。
藤本 幸三氏
carewill コーポレート・アドバイザー/アーティスティック・ダイレクター
2001年〜2013年エルメスジャポン株式会社コミュニケーション・CRM担当執行役員 アーティスティック・ダイレクター
2013年〜2016年株式会社アニエス・ベージャパン代表取締役社長
2016〜ジンズ・ホールディングス顧問
「想い」を継続して伝える重要性
ーー藤本さんとcarewilの代表である笈沼はもともとJINSで一緒にお仕事をされていましたね。
藤本さん:笈沼さんは事業を推進するに当たって必要な方法を的確にビジュアライズできるという、類い稀なタイプの経営者だと思います。僕はオーガニックに進める全く逆のタイプなので……(笑)。
ーーcarewillがTOKYO STARTUP GATEWAY2019に出る前からいろいろと相談させていただいていたと伺っています。起業するという話を聞いて、どのように思いましたか。
藤本さん:特に大きなサプライズではなかったですね。「笈沼さんだったらできるだろうな」って確信していました。笈沼さんの「センスの良さ」は、JINSでご一緒したときから感じていましたので。
ーー藤本さんがcarewillに携わりたいと思ったきっかけには、やはり「衣服に関することだから」という要素はあったのでしょうか。
藤本さん:特に「衣服に関することだから」というこだわりはなかったですね。たしかに、ファッションインダストリーのキャリアは長く、自分の奥底でずっと続いている興味として「衣服」があることには間違いありません。ただ、僕は「デザイナー」ではありませんし、衣服というよりカルチャーとしてのライフスタイル全体に興味があります。
ーーcarewillに携わるうえで、楽しみにしているポイントはありますか。
藤本さん:笈沼さんとご一緒できて「文化と成長」を目標に日々変化していく過程を目撃できる点は、とても楽しみですね。「経営者がゼロから起業する」という場を見る機会は、それほど多くありませんので。笈沼さんがどのように導いていくのか期待しています。
ーーなるほど。藤本さんは、どういった基準で携わるお仕事を決めていらっしゃるのでしょうか。
藤本さん:クライアントのヴィジョン、エモーション、相性、人柄。そういう部分を総合的に確認して決めます。自分は経営に興味があるわけではなく、むしろ「経営者とどんな化学反応が起こるのか」を大切にしています。常に消費者目線で「どう感じるか」を大切にしています。「どういう動機で物事を進めていくのか」というところに最も関心があるんです。
ーー藤本さんは過去のインタビューを拝見しても「数字」よりも「本質」を重視している印象があります。
藤本さん:「大半の企業は数字だけ求めていく」姿勢ですが、carewillの事業はそもそも「想い」から始まり、本物の想いは必ず伝わると思っています。
ーーcarewillの想いが「伝わる」と感じた要因は何でしょうか。
藤本さん:端的に言うと、笈沼さんに「本物の想い」があるからですね。笈沼さんは想いを伝えるということに対しても、「丁寧に表現しているな」と思いますね。
ーー「想い」が伝わるかが、重要なんですね。
藤本さん:経営者の信念がどこまでソリッドに継続できるかが大事です。思いとヴィジョンが新鮮な今、carewillをどうやって導いていくかという部分。そこを応援したいと強く思っています。
エルメスで学んだ「エスプリ」
ーー藤本さんはエルメスジャポン株式会社にて、日本におけるエルメスのイメージ管理、コミュニケーション活動などを統括していました。エルメスの本質とはどんなものなのでしょうか?
藤本さん:初代エルメスはもともと馬具づくりの職人でした。ハーネス職人だった、エルメスの初代が作り出すものは、人が楽になるのではなく、喋ることができない馬が快適で怪我をさせない事を重要視していました。
※ハーネス:馬をしっかりとらえたり、コントロールするための、ハミや手綱など。
ーー馬が楽になるための馬具……。そこにエルメスの本質があるんですね。
藤本さん:「本質につながる流れがある」ということです。ものをつくるカテゴリーが広がっていっても、エルメスは一貫して「本質」のあるものをつくり続けています。
ーー馬具をつくっていた時代と同じように、今でもものづくりに向き合い続けているわけですね。
藤本さん:エルメスはライセンスビジネスを一度もやっておらず、エスプリを感じない、日本の市場にあわせただけのものは提供しないのです。だからこそ、今でもエルメスはリスペクトを受け続けているのです。エルメスのエスプリは、今でも自分の中で生き続けていますね。
ーービジネスを行う以上、どうしても数字を追ってしまいたくなりますよね。
藤本さん:ライセンスビジネスって麻薬みたいなもので、何もしなくてもお金が入るという集金メカニズムが先行してしまいがちです。有名メゾンでは、過去にライセンスビジネスで安易にセールスは伸びたものの、メゾンのイメージが崩壊し、身売り企業が後を断ちませんでした。
ーーたしかに、それはエルメスとは真逆ですね。
藤本さん:エルメスの「馬具」って、今でもしっかり製造販売されているんですよ。たぶん採算が全然合わないように思うんですよね。プロのライダーとか、特定の人しか乗らないわけじゃないですか。でもそれを今でも続けているというのは、原点を忘れてはいけないと思っているからです。
※エルメスの馬具はオンラインショッピングでも購入可能
https://www.hermes.com/jp/ja/category/equestrian/#||%E3%82%AB%E3%83%86%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%BC
ーーエルメスがまだ馬具を取り扱っているって、知らない方も多そうです。
藤本さん:しかも、エルメスは馬具をちゃんと進化させているんですよ。そこまで高価ではないですし。あれだけ手間暇かけてこの価格かと思うと凄いことです。最高に美しい鞍に道具として跨ることができるのですから。
ケア衣料が目指す「よいデザイン」とは
ーーこれまで、ケア衣料に分類される衣料のデザインに意識を向けたことはありましたか。
藤本さん:すごく強い意識を持っていたわけではありませんが、昨年、電車を乗り換える際に転倒し、洋服に不便さを感じるようになりました。
ーーえっ、そうだったんですか!
藤本さん:ただ、何かを「改善しないといけない」と考えたことはありませんでした。でも洋服は好きなので「できる限り洒落ていたい」という願望はある。怪我をしたときは、ギブスをしたまま出かけるということが日常茶飯事でしたし。
ーーそういった体験をされて、ケア衣料の必要性に関して、どのように感じていらっしゃいますか。
藤本さん:みんなにとってよいケア衣料が実現できると、きっと「幸せ」を感じる人は多いだろうと思います。要望をお持ちの方によってカスタマイズしたいところは異なるなか、みんなによいケア衣料をつくるのはなかなか難しいことではありますが、是非実現させたいですね。
ーー症例は一人ひとり違いますからね。
藤本さん:要望は症例によって幅広くあると思うので、それをすべてカバーするのは、とても難しいことだと思います。ポピュラーな要望の解決方法で、美しく機能的なものが提案できれば、需要があると思います。
ーーケア衣料に対するポピュラーな要望を、デザインが解決できると分かれば、影響は大きそうですね。
藤本さん:洋服って「デザイン」という概念とはまた少し違う気がするんです。洋服のデザインは、基本的には「移ろうもの」なので。ただ、ケア衣料が必要とされている方々に支持されるようになれば、洋服が「デザイン」として取扱われる対象になるかもしれません。
ーー洋服である「ケア衣料」が、デザインとして取扱われるようになるためには、何が大切でしょうか。
藤本さん:ケア衣料という「デザイン」を提案する意識が大切だと思います。笈沼さんには、その意識がしっかりあると思いますよ。
ーーなるほど。藤本さんが考える「よいデザイン」って、どんなものなのでしょうか。
藤本さん:とても大きなテーマですね。どこから触れたらいいか、わからないですけど……。たとえば、グッドデザイン賞には私も関わっていて、審査員もやらせてもらっています。そこでは時を超えて「アーカイブ化」されるようなものという基準で選択します。
ーー「アーカイブ化」されるようなもの、ですか。
藤本さん:たとえば100年前につくられたもので、今でも評価が続くもの。長く流通し続けるものというのは、他にはない革新的なものであることが必要です。そんな「志」を持って、ケア衣料をつくることが大切だと思います。
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藤本幸三さんのお話をうかがい、信念を持ってケア衣料の開発に取り組むことで、ケア衣料を通じて、carewillの想いが伝わるようにしたいと改めて思いました。
藤本幸三さんのインタビューは、次回に続きます。
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