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#032 まず、信用を積み上げる

こんにちは、代表の笈沼です。

スタートアップというキラキラした響きは当社を表すにはしっくりこず、たかだか創業19ヶ月目の吹けば飛ぶような中小企業です。計画、行動、振り返り、計画の練り直し、そして、行動をただ繰り返す、至って地味な日々です。だから「順調ですね!」なんて言われると「いえ、まったく。僕は根が悲観的なので、そもそもうまく行くわけがないと思っています。」とひねくれて答えます。

ただ幸いなのは、ケアウィルの事業と今後の製品は、中小企業庁の「JAPAN ブランド育成支援等事業」と「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」に採択されているので、事業化の投資を大幅に節約して日々挑戦ができていることです。ゼロから事業と組織を立ち上げ、さらに、まだ世にない市場を創り上げていく僕らにとってこれは本当に有難いことです。

ちなみに混同されている方が多いのですが、補助金は、事前に現金が振り込まれる助成金とが異なり、"事後に" 支払われます。つまり、補助事業の期間終了後に、当社が実費を補助金事務局へ申告し、それに補助率をかけた補助金が概ね1-2か月後に当社法人口座へ振り込まれます。その際、当社のような小規模事業者は自己資金だけでは元手が足りませんから補助金採択を担保にして金融機関からのつなぎ融資を受けます(当社の場合は東京東信用金庫ときらぼし銀行より)

さてここまではお金の話ですが、この1年を振り返ると、僕は、創業者は、お金の工面はほどほどに留めて、つまり、身の丈以上の資金調達はせずに、それよりも、会社に対する”信用” を地道に積み上げることに時間とエネルギーを割いた方が良いと感じています。たとえ、それがまわり道であったとしても。

当社は、僕の原体験と社会義憤から湧いたビジネスアイディアが、15ヶ月前にTokyo Startup Gatewayでオーディエンス賞を受賞し、その後、TV放映を経て、東京都、中小企業庁、公社の支援を得ながら今まで駆け抜けてきた訳ですが、振り返れば、最初の1年間は信用をとにかく積み上げていく時期だったように思います。

当初、TV放映ぐらいまでは「広告宣伝投資が浮いた」という程度にしか思っていなかったのですが、その後、徐々に信用が積み上がっていく過程で、事業の持続性を高めるための"投資"を節約できている、さらに、信用が当社の"無形資産"の価値を高めてくれていると気付かされました。

事業がまだ小さくとも、また、想いとアイディアが先行しているフェーズであっても、“信用” は、創業者が誠実に汗をかけば地道に積み上げていくことができます。また、創業者にある程度のビジネスキャリアがあれば、創業時から、ゼロではなく一定の信用を元手にスタートを切れます(多くの人はそのアドバンテージに気づいていませんが)そして、一度得られた信用はその次の信用を得やすくさせ、乗数的に信用を高めていきます。

一方、当たり前ですが、厳しさも伴います。得られた信用は創業者に経営者としての責任を求めます。信用を保証する機関は事業化の進捗をチェックする立場でもあり、その一部はアドバイザーです。彼らは、株主ではありませんが緩やかなステイクホルダーになります。結果、創業者には、彼らへ経営状況を説明する責任が生まれ、創業者を経営者へ成長させる”ほどよいプレッシャー" も発生します。

例えば、相手が公的機関や金融機関であればドキュメンテーション(本当にそこまでの書類が必要かはさておき)や財務状況の報告は必須です。また、経営管理だけでなく事業執行においても、機関のアドバイスに傾聴していれば(すべてを聞くという意味ではなく)経営判断を大きく間違えるリスクは減り、たとえ小さな失敗をしても事業を正しく軌道修正する力学も働きます。緩やかな相互牽制の関係です。

つまり、信用を保証する機関との関わりによって事業の持続性がある程度担保され、ヒト、モノ、情報のリソースの制約がある中小企業であっても機関のリソースを活用しながら事業の成功確率を高めていくことができます。ただし繰り返しになりますが、その時、創業者には、個人ではなく経営者としての責任と約束をやり切る覚悟が求められます。

一方で、何も考えず、得られた資金を運転資金や安易な設備投資に使ってしまうと信用はなかなか積み上がりません。資金を商品仕入れに使ったら、もし売れなければただの在庫になり、信用の積み上げにはなりません。その在庫が減らなければむしろ信用を失っていきます。

だから僕は、創業フェーズでは、短期的な売上のために出費をするよりも、なるべくお金をかけない方法で信用を積み上げて、同時に、資金は、将来、事業の継続性を高める可能性がある資産、特に無形資産に投下した方が経営上は正しいのではと思います。でも、多くの創業者はやみくもに資金調達をしたり、その資金で物を仕入れる、短期的な売上を得る、はたまた創業者個人を売り込むための広告宣伝にお金を使ってしまう。でもそれってうまく行けば良いけど無形資産には何も残らない。

僕はあまのじゃくなので、ここ1年間はそうではない過程を歩んできました。なるべくお金をかけずに地道に信用を積み上げて行く、すこし回り道になったとしても、それによってケアウィルの無形資産の価値は高まり、本格開始後の事業の持続性が高まると思うからです。ブランドが独り立ちしていく、という表現も近いかもしれません。

ただ、繰り返しになりますが、信用を積み上げていくには、ステイクホルダーへお約束した計画をやり切ること、そして、うまくいかなければ正直に、誠実に彼らへ報告し、アドバイスを得ながら計画とアクションを修正することが必要です。だから、結局、日々は地道なんです。後悔しないように毎日やると決めたことを確実にやり切る、それに尽きると思っています。

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