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新米の季節

ながさごだいすけ

お昼ゴハンが済んだ時、もうお茶の缶が空だとわたしが言うと、おコメもないと母がいう。五千円以上買えば届けてくれるが、おコメはそんなに高くないので、何を一緒に買ったらいいだろうか、と聞くので、わたしが買いに行って持って帰ると言って、スーパーに行った。母は、あきたこまちの新米が出荷されたというニュースをやっていたので、それがあればそれを、なければ新米なら何でもよいという。いつもは、富山のコシヒカリを買っている、ということだった。

スーパーのおコメコーナーに行ったが、どこにも新米の文字はなかった。富山のコシヒカリはひとつだけ置いてあったが、値引きシールが貼られている。ということは新米どころか賞味期限切れ寸前であるに違いない。それなら、と思ってあきたこまちをみると、01年産、2020年9月20日精米と書かれていた。どこにも新米とは書かれていなかったが、即座にこれは新米だと思って買ってきた。なぜか、今年が01年だと思い込んでしまったのである。

冷静になって考えればすぐにわかることなのに、01年産で2020年9月精米という表記は、なかなか巧妙なやり方だと思った。完全に騙されてしまい、帰ってきて母に、新米とは書いてないが、01年と書いてあると言うと、母は変な顔をした。

「01年て、どういう意味なの?」

それで気が付いた。今年は02年ではないか。ああ、くやしい、だまされた、と思ったが後の祭りである。2019年産、2020年精米と書かれていれば間違うはずもない。あるいは、01年産、02年9月精米と。もちろん書いた方は意図的にやっているに決まっている。高齢者向けの幼稚なトリックなのに、ひっかかってしまった。ということは、俺も高齢者なのだな、まだ65歳になってないけど、などとひたすら悔しい思いがしばらく抜けなかった。

実は、昼ゴハンの時に、昨日来た××営繕という業者がしつこいようだが騙されないようにと母にかなりしつこく注意したところだっただけに、よけいに悔しい思いがつのったのである。

他人の心配なんてしている場合ではないのであった。

××営繕は、そもそも、3年前に家の屋根の修繕を依頼した○○営繕が廃業していたことから、昨年の台風の時に急遽、探した業者だが、台風で壊れた屋根を直すのにトタン1枚はめるだけで十数万。最近でも、外壁のタイルが2-3か所で欠けて落ちてしまっているのを直すのに(タイルを補うのではなく)接着剤を隙間に注入しただけで十数万かかった。それが相場なのかもしれないが、3年前に屋根のトタンを全部葺き変えた時でも、その倍はかからなかったことを考えると、どちらも、母にしてみれば、たったこれだけでなんでこの値段(?)という出来栄えだったのを、わたしはさんざん聞かされていたし、実際に見てそう実感してもいた。

普通2回もこんなことがあれば、次は頼まないと思うのだが、今回は業者のほうから、市の補助金が出ると言ってきたのが始まりだった。全部で7万円の補助が出るが、10万円以上の修理でなければならないので、消費税を入れると、最低4万円の持ち出しになる。4万円ですむわけないとわたしが言うと、やめると母は言い、すぐに電話で断っていたのだが、業者は勝手に申請し、市から通知が来たことを知った業者がまたやってきてあれこれ詮索して説得してしまったのだった。

母も母で、業者もコロナで困っているから、というのだが、困っているのは事実だとしても、する必要のないふすまの張り替えなどを、よりによって今する必要などどこにもない。台風の被害がまだこれからあるかもしれないし、外壁の修理も必要があってのことだった。市の補助金だって、必要があるがコロナのせいで先延ばしにする人が多いのをなんとかするためのものであって、この先全くする予定のないことに使うためのものではないだろう(期待はしているかもしれないが)。

だが、どうやら母は、いろいろなことが面倒になっているらしく、市から送られてきた書類一式には、中止する場合の届け用紙も入っていたが、それも含めて封筒ごと業者が持っていってしまったので、もう断ることもできない、と言うのである。もちろん、直接連絡すればいいだけなので、そこまで弱気になる必要はないのだが、今回だけでなく、次になにかあったときに業者を探すのが面倒という思いがなによりも先に立っているらしい。

実は、これは今に始まったことではなく、10年くらい前にやった屋根の修繕や、桜の枝切りでも発揮されたことである。そのころは、年に数回しか実家に帰らなかったので、父のせいなのか母のせいなのかはわからないが、話を聞く限りではかなり怪しげな印象を受けるなんでも屋を、安くて頼み易いという理由で長年使っていたらしい。だが、それで屋根の雨漏りは直す前以上にひどくなったのだし、桜の枝は必要以上に(とわたしには見えた)バッサリ落とされてしまっていた。屋根の雨漏りは前よりますますひどくなる一方で、結局数年で、つまり3年ほど前に、新しい業者を探してやり直してもらったのである。それ以降、3年間雨漏りの心配はまったくないから、前回の修繕が以下にひどかったかがわかる。ちなみに料金は今回の方がかなり安かったという(なんでも屋さんの実際の値段を聞いたわたしにはとても安い業者だとは思えなかった)。

だが、繰り返しになるが、もはや他人の心配などしている場合ではないのかもしれなかった。季節の変わり目で朝晩の温度差が厳しいせいで、疲れているのかもしれないが、そもそも疲れが回復しないことこそ、老化の如実な表れであろう。


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