ジョブ型雇用で変化することは?①
産業界を俄に賑わせる「ジョブ型雇用」について、何回かのシリーズで書いてみよう。
Q:そもそも「ジョブ型雇用」ってなに?
A:職務記述書(ジョブディスクリプション。以後JD)に記載のある仕事を行うように従業員に指示・実行させること。
Q:それって、何がこれまでと違うの?
A:これまでは、「メンバーシップ型」、つまり人に対して仕事を割り当てるという考え方が主流。
ジョブ型は言うなればその逆、仕事に対して人を割り当てること。欧米企業が主流の考え方…と言われている。
Q:それって、本当にこれまで日本に存在しなかったの?
A:実は普通に存在している。特に「外資系企業」はその考え方。つまり、今回ジョブ型雇用が云々と騒いでいるのは、
日系企業もいよいよジョブ型を導入するのか…ということ。
Q:つまり、ジョブ型雇用の全体像を考えるには、外資系企業の動きを見ればいい、ということ?
A:その通り。
ということで、少し補足を挟んでいく。
上記の通り、「日本にもついにジョブ型雇用が…」という風に全体像を捉えるのは大間違い。
実は、既に外資系企業は(欧米資本の会社は特に)、
とっくの昔にジョブ型雇用である。
そう考えると、ジョブ型雇用というのはそんなに特殊なものではない。
(ひょっとしたら、世界的大企業で勤めている日本人からすれば、ジョブ型雇用がどうこう騒いでいる日本の現状に???なんじゃないかとすら思う)
ただ一つ言えるのは、日本国内で働いている方の中で、外資系企業で働く人のほうがマイノリティだということ。
数の論理で言えば、確かに大きな変革が進むかもしれない。
…本当にそうだろうか?
筆者の意見は、
「たとえ日本企業全てが一気にジョブ型雇用を導入したとしても、
働く人の感覚まで一気に変わることは特になく、
ジョブ型雇用そのものが、企業の生産性を上げる仕組みにもならない」
というものである。
それは、外資系企業での転職と、外資系企業への転職、そして日系企業への転職を多く支援した実感からくる。
ということで、ジョブ型雇用で変わるであろうと言われているあれこれの論点を以下に列挙し、
世間の予想と、外資系企業の実態を対照に記載してみた。
今日はまずは、「仕事の教え方」について。
①仕事の教え方について:
ジョブ型雇用では、「こういう仕事をミッションにする」と、専門化が進むということを想定されている。それは極端な話、職務記述書に誰かの指導という内容が入らない限り、教えるという行為がなくなるのではないか?と心配をする人もいる。
個人的には、これは半分Yesであり、半分Noだと思う。というのも、「指導」も明確な職務であるため、それがJDに入っていない場合、その人は教えることをしないのではないか、という恐れは確かにある。ましてや、現状リモートワークが増えている世の中において、所謂OJT(On-the-Job-Training)を伴走的に行うことは難しく、気軽に手が空いたときに指導するみたいなことはやりづらい。
ただし、これはすごく簡単な防止策がある。JDに「指導・育成」を入れればいいだけの話。
実際に、職務記述書とほぼ同じ内容である「求人票」(ちなみに、外資系人事はこれを「ジョブディスクリプション」と呼ぶ。というか厳密には、求人票に当たる英語がないため、ジョブディスクリプションと呼んでいるんじゃないかと思う。)には、30歳以降くらいの方を求める場合ほぼ確実に「指導・育成」が入っている。
そして、最も重要な点は、そうやって「やる可能性がある」仕事をJDに入れていった結果として、
多くの外資系企業のJDは、「特盛」状態になっているのである。
ちなみに、実際にJDに育成という文字が入っていなかったとしても、年次を経てレベルが上がってくると、指導を任されることもある。そういう企業だってかなり多くある。
つまり、外資系企業においても、日本的雇用環境を一定理解し、日本に会った形でJDの運用を行っているのである。要するに、制度を変えただけでものすごい文化が一気に変わるということは考えづらい。
以上を考慮すると、元々日系企業でメンバーシップ型雇用に慣れている企業がジョブ型雇用をしたとて、
育成の担い手はいきなりは変わらない。
制度が変わっても、運用(現場の育成風土)が変わるのはもっと先の話であろう。
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