キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事講座(20)フリーターと有期雇用社員

註:この記事は2004年8月18日に配信したものです。いまからもう15年近く前‥‥書いた方も、もうそんなに?と思うくらい前なのです。
 書き換えるという手もあるのですが、ほかの記事と同様、いいたいことは変わらなかったりするので、下手に修正せずにそのまま掲載しています。
 それにしてもフリーターを奨励したR社さんの責任は重いかも・・・(伝えたかったこととは違う意味でほかのマスコミによって流布されてしまった、という残念な点もありはしますが)。

 リクルートが出している「Works」はお読みですか? 隔月刊で毎回、面白い切り口から、人と組織についての特集記事を載せています。単に事実を並べているのではなくて、編集をしているリクルート研究所の主張が入っているので、とても刺激的なものとなっています。だから読んでいて、そうか! ということもあれば、えぇぇ? それって変!! ということもあって、読んで楽しいです。
 さてこのWorks、第65号(2004年8、9月号)の特集は「大卒フリーターの未来を探せ」でした。この最終章では「フリーター=“夢ある有期雇用者”復権のために」と題して、正社員を起点とするキャリア以外の仕事人生の展開を、割と夢多く主張しています。
 確かに、正社員の比率はどんどん低下しています。派遣社員、契約社員、パート社員、アルバイト社員−さまざまな、働き方(というより勤務形態といった方がよいかも)が出てきています。企業にとっては、「人件費の削減+変動費化」という魅力があるのも確かで、景気が回復しても、米国と同様に、雇用なき回復になりそうです。正社員としての採用はますます厳しくなるでしょう。
 だからといって、「夢ある有期雇用社員」という状況はむずかしいので
は? というのが正直なところです。

★有期雇用は・・・厳しい!

 企業サイドにとって有期雇用するメリットは「期間限定である」という
ところにあります。期間が満了すれば、いつでもさようならをいう機会があるというところが大きなメリットなのです。このメルマガでは何度も触れたように(第8号役職定年、第12号終身雇用など)、厳しい話はできるだけしなくてすむように、どうしてもしなければならないのであれば、自動的に、簡単にすませたいという心理があるからです。「期間満了なので」というのはとても言いやすいのです。そうした中で、雇用期間満了日が近づくにつれて、もう一期契約してもらえるだろうかという重圧に耐えていける人はそれほど多くはないのではないでしょうか? 「これをやってくれ」といわれたときに、「それは自分の考えとは違うからやらない」と断ることができる、「自分の夢のある」有期雇用でいられるでしょうか?
 Worksの分析の中には、仕事の満足度や成長の実感度を勤務形態別に調査したものがあり、満足度では「とても満足」がフリーター(社会人アルバイター)やフリーランス・自営業で最も高くなっていて、成長度では「日々感じている」という層は契約社員が最も高いという結果になっていて、これに対して「仕事の満足度は有期雇用、無期雇用に関係ない」とタイトルで言い切っています。これを聞くと、正社員は安定さと引き替えに満足感や成長感を犠牲にしているかのように見えます。有期雇用でも構わないという層が増え、まことに頼もしい限りという感じがしてきます。重圧に耐えられるだろうか? なんて、余計な心配にも思えます。
 しかし、この統計は就職を控えた学生や院生が登録する「リクナビ」上で行われたものであることに注意を払う必要があると思います。一般のアンケート調査のように無作為にアンケート用紙を送付したり、ヒアリングを行ったりするのではなくて、web上で「このアンケートに答えてもいいな」と思った人が答えているのです。構成を見ると正社員が79.9%、契約・嘱託社員が7.2%、派遣社員3.3%、フリーター3.1%、パートタイマー0.9%、離職中3.1%だそうです。回答総数が1206人ですから、「とても満足」と答えたフリーターは37人(1206×3.1%)の内の13.5%(とても満足と答えた人の比率)、つまり5人だけなのです。フリーターの声を代表していると言えるかどうか・・・
 しかも、これまで就職活動のためにリクナビを見ていて(そのはず)、で、結局就職しなかったけれども、「答えてもよい」と思っているのですから、フリーターの中でもかなり「前向きな人」といえるのです(こんなの答えるのも面倒くさいという人や、答えたくないという人の比率が高いのではないかと想定されるので)。このまま鵜呑みにするのは危険なような気もします。フリーターやフリーランス・自営業者の中でも、それこそ本来の意味の(とリクルートさんが主張する)、つまり目的意識を持った層の回答である可能性があります。
 有期雇用でやっていくということの厳しさは、実は企業サイドにもあります。いくら契約書上は有期雇用であっても、それが継続し、繰り返されていると一般的な雇用と同様の労働契約とみなされ、契約期間が満了しても一方的に契約を終了することはできなくなる可能性が高いからです。つまり、有期雇用であっても無期雇用と同様になる可能性(リスク)を持っているということです。ですから、いつでも雇い止め(契約を更新しないこと)ができるとは限らないのです(できないというわけではなくて、やろうと思うとそれなりの体制を持っておく必要があるということです)。こうなると、企業としても有期雇用を増やすということに、それほどまで積極的にはなれないのです。
 それに企業が今考えているのは、無期雇用を有期雇用に置き換えることではなくて、人件費のロスを低減するために、勤務時間のロスをなくす−つまり時間管理をより柔軟にできる方法なんです。そのためにはフルタイムが前提の正社員よりも、本当に必要なとき、作業がピークの時にだけ助けてくれる「短時間社員」「変動勤務対応社員」なのです。

★成長するって?

 もう一つ気になるのは「成長できれば非正社員でも」という人が4割いるということについて。4割も! とみるか、4割しか! とみるか・・・。Worksでは4割も! と見ています。こんなにも多くの人が有期雇用に前向きだという判断です。
 これは「スキルや経験が身に付けば有期雇用でもよい」という設問に対しての回答で、「その通りだ」41.2%、「そうは思わない」16.2%、「何とも言えない」42.6%となっています。「有期雇用『でも』よい」というところがみそで、「同じスキルや経験が身に付くなら有期雇用と無期雇用のどちらがよいか」も聞いて欲しいところです。
 スキルや経験をどの程度のものを想像して回答しているのかが分かりませんが、「それが次の就職に役立つもの」と想像していれば、「今の時代いつ正社員でなくなってしまうか分からないんだから、転職に役立つものが身に付くなら決して損ではない」と考えても決しておかしくはないと思います。一時、有期雇用であっても、それを生かして次は無期雇用に移ろうという発想であれば、4割という数字はそれほど高いとは言えないのではないでしょうか? 少なくとも一つの組織にずっと勤めようと考えてはいないことは分か
りますが・・・。41.2%という数字が、どのように変化してきているのかを見なければ、何とも言えないのではないでしょうか?
 ところで、この「成長できれば」という表現・・・これはとても困ったものだと思います。なぜかというと、それは成長するための環境や条件が整っているということを言っているようだからです。精神論をぶつつもりはありませんが、人が成長できるかどうかというのは、環境要因も大いに関係しますが、本人にその気がなければ成長できません。馬を水飲み場に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできないという、教育・研修の分野ではよくいわれていることです。企業は必要な人材には育成のための投資をします。しかし、その投資は、企業にとって必要なスキルや知識を獲得させるためのものです。多くの場合、ある組織で使えたスキルは、ほかの組織に転用することができます(本人の能力の高さにもよりますが)。だから人材育成に熱心な企業に入ることは報酬を得ること以上のメリットがあります。
 しかし、そうして得たスキルや知識は、当の本人が、自分のものとして再構成しなければ、それから後の仕事人生の展開には役に立たないのです。先に述べた「本人の能力の高さによる」というのは、持っているスキルや知識を将来に向けて再構成したり、あるいは工夫して使えるようにしたりすることを指しているのです。有期雇用であれ、無期雇用であれ、スキルや経験が身に付くから−という理由だけで組織を移動するのは本当に危険です。「成長できる」という煽り文句が求人・求職媒体の表紙に躍ります。当たり前のことですけれど、自分で主体的に今後どのようなキャリア上の展開を図っていくのかを自分なりに理解しておかなければ、スキルも経験も身に付けられないし、身に付けても役立たないのです。

★通年採用がポイント

 今回のメルマガはWorksを批判するのが目的ではありません。念のため。この号で提唱されているように、目的意識のない、「何となくフリーター」を少なくするには、雇用形態を柔軟にする企業側の取り組みも必要だ
と思います。正社員以外の働き方を、人件費変動費化策とだけ捉えないで、個人と組織の出会い方の広がりと捉えられるとよいのではないでしょうか? その意味ではWorksの指摘する、有期雇用推進というのは間違っていません。ただ、それが本道ではなかろうと思うのです。
 こうした状況を大きく変えそうなのは、各企業が通年採用に踏み切ることだと思います。Worksの記事に、企業人事やキャリア問題に詳しい3人の大学教授の鼎談があり、その中で「就職協定を復活しては」というのもありましたが、その全く逆。就職の「季節」そのものをなくすのです。
 人事をしていて思ったのは、なんで4月入社なのかということ。どこの会社も4月に入社式をするものだから、入社式の会場は押さえづらいし、新人研修で泊まり込みをしようとするとこれまたなかなか予約できないし、しかも足元を見られて高くついてしまう。採用にしても、一年中やっていられれば専任者をおけるんだけど、季節ものだから、その時期に限っては人事部門に欠員が生じたのと同じ状態になってしまう。一括採用というのはとても非効率的だと思います。これをやめれば人事も楽。
 学生さんも「一発勝負!!」と目くじら立てなくてもよくなるし、インターンシップもやりやすくなるんではないでしょうか。今はインターンシップ先を探すのも大変というではないですか。3年の夏の時期に集中してしまうからですよね。
 採用選考も分散すれば、今の「お見合い」みたいなものではなくて、じっくりインターンシップで「同棲」してから結婚を決めるとか、何回かデート(じっくりした面接)を繰り返しながら決めていくということもできるようになるのではないかと・・・思うのですがいかがでしょう? 1年生、2年生でアルバイトをはじめて、よければそのまま「学生社員」。卒業まで待つ必要もないのではないでしょうか? 実際に米国の大学生にはこのパターンも多いようです。そうそう、職場の方も楽ですよ。一気に新卒社員を割り当てられるよりは、徐々に来てくれた方が。
 さらに、もう一つ付け加えるなら、マスコミが「新卒一括採用」と「就職戦線記事」を止めることです。マスコミがあおるから、毎年就職活動が前倒しになるんです。「えぇ!」という話題性を求めた記事が多すぎませんか? 視点の確かさ(妥当性は別)、話題提供と取材先のユニークさでは、Worksを見習ってもよいのではという全国紙、週刊誌が多いこと・・

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