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15年前の年頭所感が今もつかえるなんて… キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(38)

★成果主義、少子高齢化、若年層の不就労、雇用流動化…

 何度か記述していますが、この講座は2004年から2005年にかけてメールニュースとして配信していたものです。この38号は2005年のお正月に配信したもので、今後数年間はこんなことが人事上の大きなテーマでは? として記しました。さすがにもう15年以上たつんだからと欠番にしようと思ったのですが、あまり時代は変わっていなかったようで…
 というわけで、若干古いかもしれませんが、もともと過去のものを再録するという前提で個人的にまとめているものなので、ほぼそのままに掲載しておきたいと思います

★年の初めの…

 年初ですので、おおよそのMLでは今年の抱負や今年の○○はどうなるといった予測が述べられていることが多いようです。
 人事の世界だと大きな変動があることはそれほど多くはないので、今年はこうなるということは難しいかもしれません。
 それでも今後数年間で、こんな風な流れになっていくのではないでしょうか? -ということは言えそうです。
 キャリア開発という視点から、気をつけておきたい流れを挙げてみると次のようなことがあると思います。

★成果主義

 成果主義というと昨年(2004年)は「失敗」「見直し」という話題が多かったですね。
 その数年前までは成功の秘訣のように語られていたものですが‥‥。
 とはいえ、おおよその人事関係者(コンサルタントも実務担当者も含めて)が考えているように、成果主義ということが元の年功序列主義に舞い戻ることはないでしょう。
 ただ、成果主義と年功序列主義を対立軸に置くということ自体が間違っているように思えます。
 年齢序列主義や年更序列主義ではなく、本当に「年の功」の「功」の部分(英語ではExperience Countsというのだそうですが)にフォーカスするのであれば、成果に着眼するという発想からそれほど逸脱するものではないと思います。
 成果主義の失敗の原因の一つが「結果」だけに意識を向けすぎたことを考えると、成果を生み出す「プロセス」面に寄与するであろう「年功」を全く考慮の外に置くというのも逆の意味で妥当な判断とは思えません。
 組織がほしいのは精度の高い成果です。
 つまり、QCD、求めるレベルのものが所定のコストで、定められた時期に達成されているということです。
 過剰品質であったり、望外に低いコストであったりというのは、逆よりはうれしいけれど、だったらはじめからそのように計画してほしいところです。
 ましてや納期はきちんと守ってもらわなくては困るのです。
 安定したQCDは、そのようになるためにきちんと作り込みをされたプロセスがなければ達成できません。
「成果」ということを考えるなら、それを生み出す「プロセス」にもっとフォーカスしなければならないのです。
 結果とプロセス-このあたり、まだまだ論議が必要なのであって、「うまくいかなかったら次の仕組み」という発想は避けたいものです。

★少子高齢化

 労働人口の減少、高齢化はじわりじわりと確実に現場に影響を及ぼしています。
 求職難といわれながらもサービスの現場は人手不足です。
 外国からの労働者受け入れという、本当にきちんと考えておかなければならないことが、なしくずし的に実現しつつあります。
 海外からの労働者を受け入れるということについては、人件費が安いからというだけで、他にやってくれる人がいないからというだけで拙速に進めてしまうのは問題があります。
 受け入れに絶対反対であると考えているわけではありません。
 きちんと論議をして、なぜ受け入れが必要なのかについて、それこそ国民的コンセンサスを持っておく必要があると思うのです。
 そうしておかなければ、ヨーロッパでそうであったように、新たな差別が発生することも予見されます。
 受け入れる側がまず意識を変えなければいけません。
 例えば、単一民族であるが故の阿吽の呼吸、以心伝心は使えません。
 社会保険のことも考えなければなりませんね。
 だから受け入れてはいけないというのではなくて、①慣習が大きく変わっていくであろうこと②異文化間でのコミュニケーションなので、お互いに相手も自分も尊重しながら進めていくことができるようになっておくこと、つまりアサーション・スキルを獲得しておくこと-を私たちは考えておかなければならないだろうということです。
 少なくともコミュニケーション・スキルについてはこれまで以上に学習しておかなければならないですね(特に学校では‥‥)。

★若年層の不就労

 少子高齢化と外国からの労働者受け入れと密接な関係を持っているのが、若年層の不就労問題です。
 関西大学の川崎友嗣先生が雇用・能力開発機構のキャリア・コンサルタント養成講座のテキストの中で指摘なさっているように、この問題は「誰にとっての問題なのか」を十分に意識しておく必要があります。
 川崎先生が指摘する「誰」とは

  1)国、社会
  2)企業
  3)本人

です。
 ややもすると1からの面ばかりが取り上げられ、このままでは社会保障システムが成り立たなくなったり、社会不安が増大するという論調になってしまいます。
 また2の立場からは労働力の量、質両面での不足という点がフォーカスされます。
 こうしたことも確かに問題なのですが、これだけに注目して対策を立てるのでは肝心の本人が不在のままとなってしまいます。

 解決策を展開する際にも3つの視点があろうかと思います。

1)当の本人、個人に働きかけるのか、グループを活用するなど複数に働きかけるのかという方法の面
2)支援する仕組みをどうするのかというシステムの面
3)支援する人的資源をどうやって充実させていくかという人材育成の面

 このところ「ニート」がキーワードとして出てきます。ニートはもともとイギリスで使われていた言葉であって、日本での明確な定義はなされていません(ちなみにアメリカでは使わないそうですよ)。
 フリーターの時のように言葉だけが先行し、「彼ら、彼女らはニートだから」というレッテルを貼っただけで、なんだか分かったような気になって、解決してしまったような気になって、安心して、忘れてしまうのではないかと心配です。
 大切なのは彼ら、彼女らが何者かという名前を付けて安心してしまうのではなく、何のためにどのように働きかけるのかをはっきりさせ、取り組むことです。

★雇用流動化

 雇用の流動化はますます進むでしょう。
 働く形も正社員だけではなく派遣や短期間就労、短時間就労など様々な形態が増えてくるでしょう。
 みんなが期間の定めのない雇用契約の正社員であった時代は過ぎ去ろうとしています。
 みんなが正社員であった時代はある意味で同じような身分だったわけですから、「一億総中流」でいられました。
 これからは格差が出てきます。
 親の所得格差が子供に影響し、世代を経て格差が拡大していくことも予見されます。
 先に「単一民族だから阿吽の呼吸が‥‥」と記しましたが、そうではなくなってくると思います。
 単一民族だからではなくて、みんな同じような生活をしていたから、みんな同じような欲求を抱えていたから、阿吽のコミュニケーションが成り立っていたに過ぎないのではないでしょうか?
 雇用の流動化は文化そのものも変えていくと思います。

★きちんと考える時代

 文化が変わるということは、これまで当たり前だったものが、当たり前ではなくなるということです。
 今後いろいろな場面で「あなた」はどう考えるのか-「個」が問われることになってくるのではないかと思います。
 それに対して、私たちはきちんと考えて答えを出していくということをしなければなりません。
 人と違う答えだったとしてもそれを尊重し、共通理解となるようコミュニケーションをしていかなければならない時代になっていくと思います。
 これまで以上に考えなければならないことが増えます。
 そうしたことにきちんと答えを出すということを面倒がっていると、他人任せにして誰かが何とかしてくれるさ、と考えていると‥‥「茶色の朝」になっているかもしれませんよ。


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