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就活満足度と志望業界の変化に関係はあるのだろうか?

皆さん、こんにちは。
2023年「キャリアの自由研究 withレイド株式会社」を本格的にスタートさせていきます。お時間あるときに、ぜひお読み頂けたらと思います。 どうぞよろしくお願いします。

さて「キャリアの自由研究」1回目の記事は大学生の就職活動に関するテーマから。

私は大学生の就職支援を一番の中心領域としていて、就活講座の講師をしたり、キャリアカウンセラーの仕事をしたりしています。そんな分野につながる研究の紹介です。 

1月末あたりになると大学の授業が終わり、2024年卒の大学生たちの就職活動も活発な様子を見せ始めます。動きが早い意識の高い学生たちは、年末前からの秋・冬のインターンシップに積極的に活動をしていて、それをきっかけに早期選考に応募し、「内定もらいました!」なんて声が大学のキャリアセンターにも聞こえ始めたりするころです。 

さて、初回今日のテーマですが、就活生からよくある相談として、
「志望業界って絞り込んだ方がいいんですか?」というものがあります。
 
これ、就職活動をした人なら、必ずと言っていいほど悩んだんじゃないでしょうか…。
1つに絞った方が良い、いやいや幅広く受けていくと良い、その中間あたりで数個に絞った方が良い。1つの業界をずっと受けた、とにかくいろいろ受けた、などなど。いろんな意見を耳にします。
 
そこでこの研究論文を紹介したいと思います。
タイトルは「志望業界の変化は大学生の就職活動にどのような影響を及ぼすのか -卒業時アンケート調査の分析-」というもので、2010年に発表された論文です。
 
これは私が通っている法政大学の先生方も関わっている研究で、授業でもたびたび取り上げられることがあります。

就職活動中に、1つの業界をずっと受け続ける学生、タイミングに応じて業界を変える学生、ずっと定まらずいろいろな業界を受ける学生。みんな様々な動きをみせます。そんな就職活動中の志望業界の変化が満足度や自己評価にどう影響を及すのかを調べたという研究になります。
 
263名に対してアンケート調査を行い、学生たちを4つのグループに分け、

①成功パターン
②志望業界を変えずに最終的に失敗 したパターン
③志望業界を変え、最終的に成功 したパターン
④志望業界を変えるものの、最終的に失敗 したパターン

(論文からの引用)

と位置づけました。
 
これは要約すると、

①就活開始前からずっと同じ業界を志望し、その業界から内定・就職した
②就活開始前からずっと同じ業界を志望し、内定をもらえず、最終的に違う業界に就職した
③セミナーなど企業を選ぶ段階で志望業界を変え、その業界から内定・就職した
④最初、選ぶ段階、内定・就職した業界が常に変わり続けた

と解釈することができます。
 
さて論文内で書かれている研究の結論を引用すると以下の内容になっています。

当初の志望業界に固執せず、就職活動中に志望業界を変化させた学生の方が、当初の志望業界に固執して最終的にその志望業界に就職できなかった学生よりも良い就職活動結果を得ていたことがわかった。具体的には志望業界を変えた場合の方が内定時期も早くなり、内々定数も増加する傾向にあった。また、就職活動プロセスに対する自己評価も高くなる傾向にあることが明らかになった。

(論文からの引用)

結果(満足度、内々定数、自己評価)が一番良かったのは、最初に志望した業界に就職できた①グループであることは簡単に想像ができたかと思います。ポイントは次に結果が良かったグループはどのグループなのか、ということです。
 
結果としては、②グループではなく、③グループだったそうなのです。最初に志望した業界に固執せずに、柔軟に志望業界を変える方が良い結果が得られたという結果だったのです。当初私は、結果はどうあれ最初に立てた目標は貫き通すことが良いのではと考えていました。頑張った結果、思い通りにいかなかったとしても、悔いがなく、スッキリするんじゃないかと。でもこの研究では、そうではないという結果が出たのです。とても興味深い研究だなと思いました。
 
これは神戸大学大学院の金井壽宏先生の「働くひとのためのキャリア・デザイン」からの一説にも通じます。
キャリア・デザインの反対は何か?という問いかけに対して、「キャリア・ドリフト」と紹介されています。ドリフトは漂流する、流されるという意味で、「時に流されてもいいんだよ」という考えになります。自動車でもドリフト走行というものがありますが、細かい舵はききませんが、滑らかにコーナーを曲がっていきます。そんな風に、流れや勢いに身を任せるというニュアンスでしょうか。
 
誰もが就職活動を始める前、「こんな風に就職活動を進めたい」「こんな結果を得たい」ときっとデザイン(計画・設計)するはずです。
しかし、誰しもがデザイン通りに進むわけはなく、むしろ思い通りにいかないことの方が多いでしょう。最初のデザインに固執して初志貫徹するのもいいのかもしれませんが、時に柔軟に方向性を修正していっても良いのではないでしょうか。
 
私もそうでしたが、就職活動が始まる前って、どこか知った気になっていて、思い込みに影響されていることが多かったように思います。
実際に企業セミナーなどに行き始めると、知らなかったことや、新しく気づいたことにたくさん出会い、もちろん業界を選ぶための興味関心も変わってくるはずです。だからこそ柔軟に方向性を変えていっても良いのではないでしょうか。

では就職支援をする立場の人間として、私がこの論文をどう参考にするかと考えたときに思ったのは「最初から完璧な動機を求めないのが良いよ」とアドバイスすることが大切なんだと感じました。①グループの成功パターンの学生のように「この業界で働きたい!」とはじめから強い動機を持っている学生はなかなかいません。セミナーに参加したり、社会人から話を聞いたり、就職活動の動きのなかで絞り込んでいくことが大切なのではないでしょうか。

でも、ついつい「将来、何がやりたいの?」と大人としては詰め寄ってしまいがちですが、それを探してくのが就職活動でもあるので、支援者として見守っていくことも必要なのではと感じます。

これは企業の選考を受けることも同じで、最初から「〇〇社でないとダメだ!」という強い、あるいは完璧な“動機”を持っていないと選考を受け辛い、と学生は思いこんでいたりもします。そうじゃなくて、選考を受ける中でその企業の理解が深まっていって、最終的に動機が固まっていくのだと思います。採用する立場の企業の方々からすると、熱意を疑ってしまう人もいらっしゃるかもしれませんが、少し暖かく見守って頂けると良いのではないでしょうか。

【参考文献】
・佐藤一磨、梅崎修、上西充子、中野貴之(2010)「志望業界の変化は大学生の就職活動にどのような影響を及ぼすのか-卒業時アンケート調査の分析-」日本キャリアデザイン学会『キャリアデザイン研究』Vol.7、pp.83-99
 
・金井壽宏(2022)『働くひとのためのキャリア・デザイン 』PHP新書


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