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転職について考える。ー「2つの説」から得られる学びとはー

新年度から新しい環境に飛びこんだりして、GWも終わってちょっと疲れがたまるといわれる6月のころ。

そういう理由もあるのでしょうか、転職を考え始める人が多い時期ともいわれますが、皆さまはいかがでしょうか?

「キャリアの自由研究withレイド株式会社」、今月は転職をテーマにお届けします。

◆転職に関する2つのキーワード「副業」と「2段階職探し」◆


転職について考えると、「失敗したらどうしよう…」という不安が頭をよぎるのは当たり前のことです。

良い会社に入って転職を成功させたいと考えますが、飛び込んでみないとどんな環境かは分からない。チャレンジしたい気持ちと失敗を怖がる気持ちが綱引きをしてしまう。これは社会人の転職に限らず、内定先企業に就職して良いのかと悩む大学生も同じで、「働いてみないと分からないから、飛び込んでみようよ」とアドバイスをいつもしていますが、なかなかそんなに簡単には割り切れません。
 
「一発必中で必ず成功させなければ!」というハードな考えをお持ちの方が多いのではないでしょうか。そこで今回はそんな少し凝り固まった考えをアップデートしてくれる2つの研究論文を紹介します。

キーワードは「副業」「2段階職探し」

この2つのキーワードが転職にどう影響するのか、という趣旨の内容になっています。要するに、一発で完璧な転職を達成するのではなく、少し迂回しながらソフトランディングしていきましょうよ、という視点になります。

◆研究①:転職と副業との関係について◆

最初にご紹介する研究論文は独立行政法人 労働政策研究・研修機構の何芳さんが2020年に発表された「副業の保有と転職、賃金の関係―パネルデータを用いた実証分析―」という論文です。
慶應義塾大学の日本家計パネル調査の2005~2018年のデータを推計・分析したものになっています。かなり長い期間、かつ多くの対象者のデータを用いている点がとても興味深いですね。 

転職に関する研究を調べてみると、いろいろな種類のものがあります。転職による賃金の変化、積極的な態度がもたらす影響、昇進との関係、転職のための経路、など様々です。
一方で副業に関する研究を調べてみると、「どうして副業をするのか?」という問いの中で①追加的な金銭を得るため②職のポートフォリオを形成するため③新しい職について学習や訓練のため、という示唆をしている研究もありました。
 
では、1つ目の何芳さんの研究の結論を以下に引用します。 

副業経験と転職の関係については、男性の正規雇用者と女性の非正規雇用者に関して、前期の副業経験は転職確率を高めることが確認された。また、男性の正規雇用者に関して、2期前に副業をせず、前期に副業をした「新規副業」者は、過去2期ともに副業をしなった者や、2期前に副業をしたが前期にしなかった者と比べ、その後の転職確率は有意に高くなることが確認された。転職を労働市場の流動性の代理指標として考える場合、副業経験は労働市場の流動性を高めていることになる。 

本文から引用)

研究についての特徴としては男性(正規雇用)、男性(非正規雇用)、女性(正規雇用)、女性(非正規雇用)の性別と雇用形態の区分けでデータが分析されたことです。

上記の結論としては男性(正規雇用)と女性(非正規雇用)の人が副業により、転職行動が促進されたという内容になっています。

ではどうしてか?

それは先に述べた3つの副業理由(①追加的な金銭、②職のポートフォリオ形成、③新しい職の学習・訓練)で説明ができるのではないでしょうか。

女性・非正規雇用はやはり収入面で不安定なため、本業とは別に①追加的な金銭を得るために副業を行うのでしょう。そして、次第に②職のポートフォリオ形成、③新しい職の学習・訓練といったスキルアップがなされていき、転職に至ると推測ができます。

男性・正規雇用は4つの区分けのなかで最も経済的な安定があるはずから①追加的な金銭が理由ではなく、②職のポートフォリオ形成③新しい職の学習・訓練のために副業を始め、そして転職に移っていくのではないかと考えられます。

そして引用した結論にもあるように、それらが前年度に起こった場合、転職確率を高め雇用の流動性をもたらしたと考えられます。 

◆研究②:転職と2段階職探しについて◆ 

次に赤木邦江さんと勇上和史さんの2021年の研究「転職による適職選択行動――初職から適職へのマッチングプロセスの実証分析――」を紹介します。

この研究論文は「2段階職探し」がテーマになっています。

「2段階職探し」ってそもそもなんだ?と感じた方が多いのではないでしょうか。 

アメリカの労働市場において、労働者が転職を繰り返しながら定着していく過程において、労働者は適職を見つけるために転職によって産業も職業も変更するが、適職を得た後は企業のみを変えるという「2段階職探し」の事実を理論的、実証的に明らかにしている。

本文より抜粋) 

このように「2段階職探し」については本文ではこのように説明されており、そのアメリカの理論が日本でも同じなのかを実証・研究した内容になっています。
373名の男性の転職履歴データをもとに分析をしたものになります。

結論としては以下のように述べています。

日本の労働市場においても、個人は自身に最も適したキャリア(産業や職業)を選択した後、同一キャリア内で最も適した勤務先(企業)を選択するという「2段階の職探し」が概ね成立していることが示された。

本文より引用) 

データを分析すると、転職したのちに業界や職種が定まったあとに、そこで満足をせずに、さらに同じ業界や職種でさらに自分に適した企業を見つけるための転職を行うという現象が明らかになったと報告がされています。

一度の転職で成功させようと思い込みすぎず、「まずは飛び込んでみよう、まずは転職してみよう」というスタンスが容認できる、心が少し軽くなる論文だったように思います。

◆まとめ◆

それでは2つの研究から得られる学びをまとめたいと思います。

 冒頭にも述べたように、一発必中で転職を成功させたいと思うけれど、業界や職種が変わる転職ほど簡単にはいくものではありません。
まずは副業などをして経験を積んでから転職を考える方が好ましい転職になり得る可能性があるのではないでしょうか。

あるいは、転職は一度しかできないというものでもありませんから、まずは業界や職種を変えてみて、さらにより自分に適した企業を探すという転職の仕方も賢いやり方なのではないでしょうか。 

この研究は採用する側にとっても大きな知見になり得るように思います。

一部の企業では業務委託契約をもとにした副業人材を積極的に社内に引き込んでいますが、そういった仕事の切り出し方はせず、直接雇用のみという企業もまだまだ多くあるはずです。
自分の企業に合った人材を採用するうえで、副業をきっかけとして採用につながるルートにも目を向けてみても良いのではないでしょうか。

いきなりフルタイム・経験者となると条件にマッチする人材は見つかり辛いかもしれませんから、副業で経験をしてもらった人がやがて能力や経験を高めて正社員となっていく可能性も十分にありますからね。

そして、2段階の職探しを経て定着をしていく層の転職者もいるわけですから、短い期間の転職後の履歴などにできるだけ暖かい目で評価してあげることで、自分の会社が2段階目であることを祈って採用をすることも良い採用につながりうるのではないでしょうか。

転職者のナラティブ(物語、ストーリー)を丁寧に聞き出してあげてみると、期間は短い前職であったとしても、転職後に今度は定着するかもしれませんよ。

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今回の記事については7月配信のレイド株式会社の公式ラジオ番組「Rayd I/O(レイディオ)」Rayd I/O | Podcast on Spotifyにてディスカッションのやり取りも配信します。ぜひ併せてご視聴ください。

【参考文献】
鈴木紫(2022)「日本の労働市場における副業保有と転職希望」
赤木邦江・勇上和史(2021)「転職による適職選択行動――職職から適職へのマッチングプロセスの実証分析――」


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